弁護士コラム

【現役弁護士が解説】離婚時に必ず確認!離婚後の生活を支えるお金の基本

「離婚はしたいけれど、離婚後の生活費や子どもの養育費はどうやって準備すればいいの?」――そんな不安を抱えている方は多いのではないでしょうか。特に、養育費と慰謝料がどう違うのか、どのくらいの金額を請求できるのかなど、お金にまつわる疑問は離婚を考える上で避けて通れない大きなテーマです。

本記事では、「養育費・慰謝料って何が違うの?」「養育費はいくらくらいで、どのように決めるの?」など、離婚後の生活を支える重要なお金のポイントをわかりやすく解説していきます。さらに、養育費が支払われないときの対処法や、公的な支援制度の活用方法など、知っているだけで安心できる情報を現役弁護士の視点から詳しくご紹介。子どもの健やかな成長と、あなたの新しい生活の安定を目指すために、ぜひ参考にしてください。

養育費・慰謝料って何がちがうの?

離婚するときにかかるお金の種類

離婚を考えるとき、まず直面するのが費用の問題です。特に養育費と慰謝料は、性質も目的も大きく異なる重要な費用となります。

離婚後の生活設計において、これらの費用を正しく理解することは、あなたと子どもの将来を左右する重要な要素となるからです。とりわけ、養育費は子どもの成長に直接関わる費用であり、慰謝料は精神的損害の補償という異なる性質を持っています。

たとえば、長年専業主婦として家庭を支えてきた40代の女性が離婚を考えるとき、将来の生活費や子どもの教育費について不安を感じるのは自然なことです。このとき、養育費と慰謝料の違いを理解していれば、より具体的な生活設計を立てることができます。まず、養育費は子どもの成長に必要な費用として定期的に支払われ、一方で慰謝料は一時金として受け取ることができます。

このように、離婚時の費用にはそれぞれ異なる目的と意味があり、あなたの状況に応じて適切に検討する必要があります。

養育費は子どものための費用

養育費は、文字通り「子どもを育てるための費用」です。これは単なる生活費の分担ではなく、子どもの健やかな成長を支える重要な支援です。

子どもには、両親の離婚後も、これまでと変わらない生活水準を保ち、教育を受ける権利があります。そのため、養育費は親の都合で減額や支払い拒否をすることはできず、子どもの権利として法的に保護されています。

中学生の息子を持つシングルマザーのケースを考えてみましょう。学費や塾代、部活動の費用など、子どもの成長に伴って必要な費用は増えていきます。養育費は、まさにこうした子どもの成長に必要な費用を支えるものなのです。

したがって、養育費は「支払う側の負担」ではなく、「子どもの権利を保障するための必要不可欠な費用」として捉えることが大切です。

法律で定められた養育費の決まり

養育費は、民法に基づいて明確に定められた法的な制度です。これは単なる道義的な責任ではなく、法律で定められた親としての義務となります。

子どもの健全な成長のためには、継続的かつ安定的な経済的支援が必要です。そのため、法律では養育費の支払い義務や算定方法について、詳細な規定を設けています。これにより、親の離婚後も子どもの生活が著しく損なわれることを防いでいます。

実際の裁判例では、親の収入が減少した場合でも、子どもの教育費用を考慮して養育費の額が決められています。たとえば、父親の収入が従来の70%に減少しても、子どもが受験期を控えている場合には、養育費の大幅な減額は認められにくいといった判断がなされています。

養育費は法律によって手厚く保護された制度です。ですから、経済的な事情で支払いが困難な場合でも、まずは家庭裁判所、法テラスもしくは弁護士会の法律相談センターに相談することをお勧めします。子どもの未来のために、この制度を適切に活用することが、親としての重要な役割となるのです。

養育費の金額の目安

子どもの人数や年齢で変わる金額

養育費の金額は、子どもの人数や年齢によって大きく変動します。これは、子どもの成長段階によって必要な費用が異なるためです。

一般的に、子どもが成長するにつれて養育費は増加傾向にあります。特に、中学生や高校生になると、学費や教材費、部活動費など、教育にかかる費用が大きく膨らみます。たとえば、小学生の場合は月額2〜3万円程度から始まり、高校生になると4〜5万円程度まで増額されるケースが多く見られます。

また、複数の子どもがいる場合は、それぞれの年齢に応じた費用を合算して考える必要があります。ただし、単純な足し算ではなく、世帯としての効率性も考慮して総額が決められます。

収入が違うとどう変わる?

養育費の額は、支払う側と受け取る側、双方の収入を考慮して決定されます。一般的な目安として、裁判所が定める養育費算定表が広く活用されています。

養育費算定表では、父母それぞれの年収から生活費を差し引いた金額をもとに、負担割合が計算されます。たとえば、父親の年収が500万円、母親の年収が300万円の場合と、父親が800万円、母親が200万円の場合では、養育費の金額は大きく異なってきます。

ただし、収入の変動があった場合でも、子どもの生活水準を急激に変えることは望ましくないとされ、段階的な調整が推奨されています。失業や病気など、やむを得ない事情がある場合は、話し合いや調停を通じて金額の見直しを行うことができます。

教育費や医療費はどうする?

教育費や医療費は、通常の養育費とは別枠で取り決めることが一般的です。これは、これらの費用が臨時的かつ高額になる可能性が高いためです。

教育費については、特に受験費用や入学金、私立学校の学費など、まとまった金額が必要になるケースが多くあります。このような場合、事前に両親で話し合い、負担割合を決めておくことが重要です。実際の例として、高校や大学の学費は養育費とは別に、父母で折半するといった取り決めをするケースが多く見られます。

医療費に関しても、定期的な通院や予防接種などの基本的な費用は通常の養育費に含まれますが、手術や長期の治療が必要になった場合は、その都度両親で協議して負担を決めることが望ましいとされています。このように、予期せぬ出費に備えて、あらかじめ取り決めをしておくことで、子どもに必要な支援を滞りなく提供することができます。

なお、これらの費用について合意が得られない場合は、家庭裁判所の調停を利用することも可能です。子どもの利益を最優先に考え、両親が協力して負担を分かち合うことが望ましい解決方法となります。

養育費はどうやって決めるの?

話し合いで決める方法

養育費は、まず当事者同士の話し合いで決めることができます。これは「協議離婚」の一環として行われる最も一般的な方法です。

話し合いで養育費を決める際は、養育費算定表を参考にしながら、子どもの年齢や教育状況、両親の収入などを考慮して具体的な金額を設定していきます。合意ができたら、必ず書面で取り決めを残すことが重要です。口約束だけでは将来のトラブルのもとになる可能性があるためです。

ただし、話し合いでの決定は法的な強制力を持ちません。そのため、離婚届の提出と同時に、「養育費に関する合意書」を公正証書として作成することをお勧めします。これにより、支払いが滞った場合でも法的な強制執行が可能となります。

家庭裁判所に調停や審判を申し立てるケース

話し合いで合意に至らない場合や、より公平な判断を求めたい場合は、家庭裁判所に相談することができます。具体的には「調停」と「審判」という二つの手続きがあります。

調停は、裁判所の調停委員を交えて話し合いを行う制度です。専門家の助言を得ながら、両者の主張を調整して合意を目指します。一方、審判は調停が不調に終わった場合に行われ、裁判官が法律に基づいて養育費を決定します。

お金の支払い方を決めよう

養育費の支払い方法は、具体的で実行可能な方法を選ぶことが大切です。一般的には、毎月の定期振込が推奨されます。振込日は給与日に合わせるなど、確実に支払いができる日を設定しましょう。

また、振込手数料の負担や、賞与時の上乗せ支給についても、あらかじめ取り決めておくことが望ましいです。支払い方法について、できるだけ具体的な取り決めを行うことで、将来のトラブルを防ぐことができます。

いつまで支払う?支払う期間の決め方

養育費の支払い期間は、原則として子どもが成人するまでです。ただし、実際には高校卒業後の進学なども考慮して、大学卒業までとするケースも多く見られます。

支払い期間は、子どもの将来の進路や教育計画を見据えて設定する必要があります。たとえば、「20歳に達するまで」「大学卒業まで」「就職するまで」など、具体的な期限を定めることが一般的です。進学の可能性がある場合は、それも含めて柔軟に対応できるよう、あらかじめ取り決めておくことをお勧めします。

金額の見直しはできる?

養育費は、状況の変化に応じて見直すことが可能です。具体的には、以下のような場合に増額や減額の検討が必要となります。

両親の収入が大きく変動した場合や、子どもの教育環境が変わった場合(私立学校への進学など)には、養育費の見直しを検討することができます。また、再婚や転職、病気など、生活環境が大きく変化した場合も、見直しの対象となります。

ただし、金額の変更には相手方の同意が必要です。話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所で調停・審判を申し立てることができます。いずれの場合も、子どもの利益を第一に考え、建設的な話し合いを心がけることが重要です。

養育費が支払われないときの対処法

まずは何をすればいい?

養育費の支払いが滞った場合、まずは穏やかに支払いを求めることから始めましょう。焦らず、冷静な対応を心がけることが重要です。

具体的には、まず電話や手紙で支払いの遅れについて確認します。この際、支払いが困難な理由があるのか、いつごろ支払いが可能になるのかなど、具体的な状況を把握するようにしましょう。また、やり取りの記録は必ず残しておくことが大切です。

支払い能力があるにもかかわらず、支払いに応じない場合は、内容証明郵便で支払いを請求することも効果的です。これにより、法的な手続きに移行する際の重要な証拠となります。相手の反応や状況によって、次の段階としてどのような対応を取るべきか、法律の専門家に相談することをお勧めします。

強制的に支払ってもらう方法

話し合いで解決できない場合は、法的な手段を取ることができます。特に養育費について公正証書・調停調書を作成している場合は、強制執行の手続きを進めることが可能です。

強制執行では、相手の給与や預貯金、場合によっては不動産などを差し押さえることができます。ただし、これらの手続きには弁護士への相談が必要になることが多く、また費用もかかります。相手の資産状況によっては実効性が限られる場合もあるため、専門家と相談しながら最適な方法を選択することが重要です。

また、強制執行の手続きを始める前に、債務名義(判決書や調停調書、公正証書など)が必要となります。これらの書類がない場合は、まず裁判所で債務名義を取得する手続きから始める必要があります。

国の支援制度を利用しよう

養育費の不払いに悩む家庭のために、国はさまざまな支援制度を整備しています。養育費等相談支援センターでは、養育費の取り決めや確保に関する無料相談を実施しており、専門家のアドバイスを受けることができます。

また、ひとり親家庭への児童扶養手当や母子父子寡婦福祉資金貸付制度なども利用可能です。一部の自治体(兵庫県明石市など)では、養育費の立替払制度を実施しているところもあります。さらに、法テラスでは養育費に関する法律相談も行っており、収入が一定基準以下の場合は無料で相談することができます。

これらの支援制度は、子どもの生活を支えるための重要なセーフティネットとなっています。

トラブル防止のために決めておくこと

養育費の支払いに関するトラブルを未然に防ぐために、離婚時にしっかりとした取り決めをしておくことが重要です。具体的な金額や支払い方法はもちろん、将来的な変更の可能性も考慮に入れた取り決めが必要です。

取り決めは必ず書面で残し、可能な限り公正証書として作成することをお勧めします。毎月の支払い金額や支払い日、支払い方法に加えて、子どもの進学時の費用負担や臨時の出費の分担方法についても具体的に定めておきましょう。また、支払い義務者の収入が変動した場合の対応や、連絡先の変更があった場合の通知義務なども明記しておくと良いでしょう。

また、定期的に両親で子どもの状況について情報共有を行い、必要に応じて柔軟に対応していくことも大切です。子どもの成長に伴う環境の変化に、両親が協力して対応できる関係性を築いていくことが、最も望ましい形といえるでしょう。

まとめ

子育ての道のりは、離婚後も続いていきます。養育費は、そんな大切な子どもの成長をしっかりと支える制度なのです。

「子どもにはこれまでどおりの生活を」「できるだけ良い教育を受けさせたい」ーーそんな親としての願いを実現するため、養育費は法律でしっかりと守られています。金額は子どもの年齢や親の収入によって変わりますが、成長に合わせて柔軟に見直すことも可能です。

養育費の取り決めで大切なのは、お互いの理解と協力です。話し合いで決めるにせよ、裁判所で相談するにせよ、子どもの未来のために、具体的な約束を書面に残しておきましょう。

もし支払いでお困りの時は、一人で悩まないでください。様々な支援制度や相談窓口が用意されています。離婚後も変わらない、かけがえのない親子の絆。その絆を養育費という形でしっかりと支えていくことで、子どもたちの明るい未来を築いていけるはずです。

あなたと子どもの新しい生活のスタートを、社会全体でサポートしています。困ったときは、ぜひ専門家に相談してみてください。きっと、最適な解決方法が見つかるはずです。