弁護士コラム

ネット上のトラブル解決を自力で進めるには?送信元特定手続きを行う際の費用と進め方を徹底解説

SNSやブログ、掲示板などを利用する機会が増えた今、インターネット・オンライン上で誹謗中傷やプライバシー侵害などの被害に遭うケースも少なくありません。被害に悩む方のなかには、加害者を特定するために専門家を頼らず自分で手続きを進められないか、と考える方も多いのではないでしょうか。

本記事では、書き込みの送信元を知るために必要な法的手続きと、それにかかる費用の目安について詳しく解説していきます。弁護士に相談せずに個人で行う場合、どのようなステップを踏む必要があるのか、実際にはどれくらいのお金がかかるのか、具体的に把握することで、あなた自身の状況に合った選択ができるようになるはずです。

送信元の特定はなぜ難しい?

匿名性と権利のバランス

インターネット上では、ハンドルネームや仮名を使い、個人情報を隠して発言することが容易です。そのため、被害を受けた側が「投稿者を知りたい」と思っても、すぐに氏名や住所を突き止めるのは難しいのが現実です。

一方で、投稿者のプライバシーや表現の自由を守るために、プロバイダやSNS運営元は簡単に個人情報を開示できません。そこで、裁判所の判断を仰ぐというステップが必要になります。

情報開示の手続きが複雑

インターネット上の投稿をした人を特定するためには、複数の段階を踏むことが一般的です。具体的には、「まずSNSや掲示板運営者に対して書き込みに関する記録(IPアドレス)の開示を求める→記録(IPアドレス)から利用プロバイダを特定する→プロバイダに契約者情報を開示させる→発信者(加害者)特定」といった流れになり、どの段階でも裁判所を通した手続き(仮処分申立や訴訟)を行うのが通常の形です。

事前に知っておきたい全体的な流れ

書き込みやアカウントの特定

まずはトラブルの原因となる書き込みやユーザーアカウントを明確にします。その投稿がいつ、どのサイト・サービス上で行われたのか、URLやスクリーンショットなどで証拠を確保することが重要です。また、誹謗中傷や権利侵害が行われている内容を整理し、法的に「不法行為が成立する」可能性があるかどうかを検討しておきます。

運営元やプロバイダへの連絡

次に、SNS運営会社や掲示板サイトの管理者に対して「この投稿者を特定するため、利用記録やIPアドレス情報の開示を求めたい」という旨を伝えます。多くの場合、運営元が応じるには裁判所の命令(仮処分など)が必要となるため、内容証明郵便での要請や、Web上の問い合わせフォームを使って初期連絡を行うことが多いでしょう。

仮処分申立や訴訟手続き

運営元から「裁判所の判断がないと開示できない」と返答された場合は、東京地裁などの裁判所に対して仮処分申立を行うか、訴訟を提起して正式に開示請求をします。裁判所が「権利侵害の可能性が高い」と判断すれば、運営元に対して投稿者の接続情報(IPアドレスやタイムスタンプ)を開示するよう命じることになります。

プロバイダ経由で契約者情報を特定

運営元からIPアドレスを取得した後は、そのIPアドレスを管轄するプロバイダに対して同様の手続きを行います。最終的にプロバイダが「書き込み時のIPアドレスと契約者との対応関係」を開示すれば、書き込み者の氏名や住所などが特定できるわけです。

個人で手続きを行う際の利点と注意点

弁護士費用を抑えられる

専門家を雇わずに自分だけで進める最大のメリットは、弁護士への着手金、成功報酬もしくは日当などを節約できることです。通常、弁護士に依頼すると数十万円以上の費用がかかることが多いため、経済的に厳しい方にとっては魅力的な選択肢かもしれません。

法手続きや書類作成のハードルが高い

一方で、法律の専門知識や裁判所での手続きに関するノウハウが不足していると、書類作成や主張の組み立てなどで時間と労力がかかります。書類の不備で却下されてしまったり、相手側の反論に対応できなかったりする可能性もあるため、結果的に大きな労力と時間を要するリスクがあります。

必要となる代表的な費用項目

自分で手続きを行う場合でも、以下のような経費は少なからず発生します。「専門家を依頼しないのだから無料」というわけではない点に注意しましょう。

  1. 印紙代:裁判所に提出する書類(訴状や仮処分申立書など)に貼付する収入印紙
  2. 郵便切手代:裁判所とのやり取りや、相手方・運営元への通知を内容証明郵便で送る際の料金
  3. 交通費:裁判所や弁論期日に赴くための交通費
  4. 書類作成に伴うコピー代・文房具費:証拠書類や主張書面のコピーなど
  5. その他の雑費:場合によっては公証役場での手続き費用、翻訳費用(海外サービスの場合)など

裁判所への手続きにかかる出費

印紙代と訴額の関係

名誉毀損、名誉権・名誉感情侵害もしくはプライバシー侵害を理由に、正式に民事訴訟を起こす場合、請求金額(訴額)によって収入印紙の額が変わります。一般的に名誉毀損や誹謗中傷の案件では「慰謝料〇〇円の支払いを求める」という形で損害賠償請求を行うことが多いですが、その請求額が大きければ印紙も高くなるのです。

たとえば、請求額が100万円の場合、民事訴訟では1万円程度の印紙を貼る必要がある(※これは目安であり、詳細は法務局等で最新情報を確認してください)。また、仮処分申立においても一定額の印紙が必要になります。

郵便切手の準備

裁判所に訴状や申立書を提出するときには、相手方や裁判所とのやり取りで使う郵便切手も同時に納めるよう求められます。裁判所によって必要な切手の合計額は異なるため、管轄の裁判所のウェブサイトや問い合わせ窓口で確認しておきましょう。

ISPやSNS運営元への問い合わせ時の料金は?

多くは「裁判所命令があれば対応」というスタンス

SNS運営会社やプロバイダに対して、「ユーザーの登録情報を開示してほしい」と申し入れても、通常は裁判所の命令や仮処分がない限り開示に応じてくれません。裁判所の決定(または判決)が出た後の手続き自体は運営会社側で進めるため、事務手数料を請求されるケースは比較的少ないです。

ただし、特定のケースでは「書類送付費用」「管理費用」などの名目で数千円~数万円程度を請求される可能性もあります。海外に本拠を置くサービスの場合はさらに複雑になることがあり、翻訳費用や国際郵送費用がかかることも想定されます。

任意開示が認められる場合の扱い

ごく稀に、運営会社のポリシーや契約条項に基づいて、裁判所命令がなくても運営者判断で情報を開示してくれるケースもあるかもしれませんが、これはあくまで例外的です。ほとんどの場合は公式手続き以外では情報を明らかにしないと考えておくべきでしょう。

追加で発生する可能性のある経費

証拠収集のための探偵費用や調査費用

書き込み者を特定する以前に、相手の違法性をより裏付けるための証拠が必要となる場合があります。たとえば、誹謗中傷が継続的に行われている、嫌がらせが現実世界でも行われている、などのケースでは探偵事務所に調査を依頼することも。これにより数万円〜数十万円という調査費用が発生する可能性があるので要注意です。

複数サイトに対する同時手続き

もし問題の投稿が複数のSNSや掲示板にわたっている場合、それぞれの運営元やプロバイダに対して個別の手続きが必要になることがあります。手間だけでなく費用も倍増するため、「どのサイトの書き込みを優先的に対象とするのか」をよく考えてから進めるほうが無駄を省きやすいでしょう。

手続きを少しでもスムーズに進めるコツ

書類の不備を防ぐ

法律知識の乏しい方が独力で書面を作成すると、どうしても形式的なミスや主張の整理不足が生じやすいです。そこで、ネットの情報や書籍で書式サンプルを参考にしながら丁寧に作成し、何度も校正を重ねましょう。管轄の裁判所にも簡易的な相談窓口がある場合があるため、積極的に利用すると良いです。

時間をかけて相手の動向を把握する

書き込み者が特定できたとしても、その後の示談交渉や損害賠償請求がスムーズに進むとは限りません。相手が海外在住だったり、連絡先が偽名だったりするケースもあり得ます。焦って一気に全ての手続きを進めるのではなく、段階的に相手の様子を探りながら必要な手段を講じると、不要なコストを抑えることができます。

弁護士を依頼する場合との比較

弁護士に任せるとどうなる?

弁護士が代理人となって進めてくれる場合、書類作成や裁判所とのやり取り、相手方との示談交渉などを一括してサポートしてもらえます。特に、裁判所への提出書類は専門的な用語や書式が多く、法律実務に慣れた弁護士の存在は心強いでしょう。

自力でやるメリット・デメリット

自分で進めるメリットは、何より弁護士費用を節約できる点です。反面、時間や労力を大幅に割く必要があり、手続きに失敗すると再度仕切り直しになるリスクもあります。開示請求が通ったとしても、その後の賠償請求や示談で不利になるかもしれません。

したがって、「どこまで費用をかけられるか」「自分のスケジュールや労力と相談して取り組めるか」を総合的に考慮して決めるのが得策です。

まとめ:自分で進める場合の実情と今後の対策

SNSや掲示板などを通じて受けた誹謗中傷や権利侵害に対して、送信元を特定しようとすると、どうしても法的な手続きが必要となります。弁護士に依頼しなくても実施できる可能性はありますが、その際にも以下のような費用や準備が必要となる点に注意しましょう。

  • 裁判所に支払う印紙代や郵便切手代
  • 書類作成や証拠収集にかかる経費
  • 運営元やプロバイダとのやり取りに必要となる場合がある事務手数料
  • 複数サイトへ同時に請求する際のコスト増加

自力での進行は確かに弁護士費用を節約できる反面、手続き上のハードルも高く、トラブルが長期化するリスクも伴います。短期間で確実に結果を得たいのであれば専門家の活用を考慮すべきでしょう。一方、「経済的に余裕がないが、時間をかけて慎重に進めたい」という方は、自分でできる範囲で進める方法を検討することが重要です。手続きのスムーズさや結果を重視するのであれば、専門家を頼ることも一つの選択肢です。また、どちらの方法を選ぶ場合でも、手続きにかかる実費や時間をしっかりと理解し、予算やスケジュールを前もって考慮に入れることが必要となります。 特に、自分で進める場合には慎重な計画が必要不可欠です。急いで結論を出そうとして誤った対応をしてしまうと、後にトラブルが長引く可能性があり、専門家を頼んだ方が最終的には余分なコストを防げる場合もあります。どの方法を取るべきかは、まず最初に自身の状況や目標に合わせて、実現可能なステップを踏んで慎重に進めていくことが大切です。 インターネット上の書き込みに関する法律的な手続きは時に複雑に感じられますが、きちんと情報を整理し、どの手順を踏むべきかに注意を払いながら進めていけば、スムーズに解決に結びつけることができるでしょう。そして、万が一依頼しなければならない場合でも、費用を抑えつつ、可能な限り有利な立場で手続きを進めるためにしっかりと準備をしていきましょう。 

自力で進める場合に気をつけるべきこと

  • 手続きの重複を防ぐ:一度に複数の書き込みやサイトに対して手続きを行う場合、重複して書類を作成する必要が出てくるかもしれません。個別に裁判所へ申立を行うと、印紙代や郵送費も余計にかさみます。どの投稿を優先するか、どの手段(仮処分・訴訟)を使うかなど、事前に全体像をしっかり把握しましょう。
  • 裁判所の管轄を確認する:被告(投稿者)がどこに住んでいるか分からないケースでは、基本的に原告側(あなた)の住所地を管轄する裁判所に申立をする方法が検討されることが多いです。ただし、トラブルの性質や相手方の情報によっては、別の管轄裁判所となる場合があるので注意してください。
  • 期限に注意:誹謗中傷や名誉毀損による損害賠償請求には時効があります。通常、不法行為があった時から3年、または被害を知った時から3年などの期間が定められています。時間をかけすぎると請求が難しくなる場合もあるため、早めの着手が重要です。

今後の対策とリスク管理

  • 投稿の保存・ログの確保:問題の投稿が削除される前にスクリーンショットやアーカイブサービスを利用して証拠を保全しておくと、手続き全般がスムーズに進みやすいです。
  • 継続的な監視:相手が一度投稿をやめても、別のアカウントやプラットフォームで再び誹謗中傷を繰り返すケースもあります。個人でこまめにネット上をチェックするのは大変ですが、一定の期間は状況を注視しておくことが望ましいでしょう。
  • 専門家に助言をもらうタイミング:すべてを個人で完遂するのが難しく感じたら、途中段階だけでも弁護士のアドバイスを受けるという選択肢があります。たとえば、初回相談や書面のチェックのみを依頼することで、費用を抑えつつも法的手続きを確実に進められる可能性があります。

自力での請求を成功させるために

ネット上の書き込みを行った人物を特定するまでの道のりは、決して簡単ではありません。しかし、個人が主体となって進める際も、適切な情報収集と計画性があれば実現は不可能ではないのです。

  • 事前リサーチを徹底する:裁判所に提出する書類や申立書の書式例は、裁判所のウェブサイトや法務局の情報などを参考にすることができます。
  • 公的機関の無料相談を活用:法テラスや各自治体の法律相談窓口を利用すれば、比較的安価または無料で専門家からアドバイスが得られることもあります。書面の作成方法や手続き上の注意点を押さえておくだけでも、トラブルを減らせるでしょう。
  • スケジュール管理:仮処分の申し立てから情報取得までには数ヶ月かかる場合もあります。先々の裁判期日や書類提出期限などを把握し、計画的に取り組むことが重要です。

【参考:費用の一例(概算イメージ)】

項目金額の目安(円)
訴状・申立書に貼る印紙(請求額による)1,000~数万円程度
郵便切手代(裁判所提出分+相手方分+予備)1,000~3,000程度(裁判所や件数による)
内容証明郵便(運営元・プロバイダへの通知)1通あたり1,500~2,500程度
書類コピーや印刷費用数百~数千程度(ページ数による)
交通費(裁判所への出頭など)自宅と裁判所の距離に応じて
合計(最低ライン)5,000~数万円程度

※上記はあくまで目安であり、実際の金額は個々の状況や裁判所の要件によって変動します。また、海外サイト・大手SNSの場合はやり取りが煩雑になり、さらに費用が増える可能性があります。

終わりに

ネット上のトラブル解決手段として、自身の力で送信元を特定する手続きに挑戦することは、弁護士費用を節約できるというメリットがあります。しかし、実際のところ、法律や裁判手続きに関する一定の知識と作業時間が必要となり、初めての方にとっては大きな負担となる可能性も高いでしょう。

「自分で進めるか、それとも弁護士に依頼するか」を決める際は、トラブルの深刻度や求める結果、そして自身の労力と時間の余裕を総合的に考慮することが欠かせません。特に、誹謗中傷の被害で深く傷ついている場合や、多額の損害が生じている場合は、専門家の力を借りたほうが早期解決につながる場合もあります。

いずれにしても、まずは確実な証拠保全と、書き込みの状況確認が第一歩です。期限を意識しながら、慎重に準備を進めましょう。自身の安全と権利を守るために、最適な選択を模索することが、問題解決への重要なステップとなります。