痴漢示談の流れ|示談交渉のポイントと弁護士介入のメリット

痴漢事件は、主に公共の交通機関や人混みなどで、被害者の身体に無断で触れるなどの性的な迷惑行為を行う犯罪行為です。日本では満員電車内などで起こるケースが多いため、社会的にも大きな問題となっています。被疑者としては、たとえ軽い気持ちであっても刑事罰の対象となりますし、被害者に与える精神的苦痛は計り知れないものです。近年は防犯カメラやスマートフォンの普及、さらには痴漢行為への社会的認識の高まりによって、痴漢事件に対する取締りも厳しくなっています。
一度痴漢で逮捕されると、警察での取り調べや起訴の可能性があり、職場や学校など、社会生活にも大きな影響が生じます。刑事裁判になれば実名が公表されるケースや、有罪判決によって罰金刑や懲役刑を受ける可能性もあるため、人生に大きなダメージを受けかねません。また、被害者側から民事上の損害賠償を請求されることもあり、両者の合意による示談が成立すれば解決に向けて前進できることがあります。ここで重要なのが、示談への流れを理解し、早期に適切な手段を講じることです。
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痴漢示談の基本的な考え方
痴漢事件の示談とは、被害者と加害者が話し合いによって合意し、主に金銭的な補償(示談金)を支払うことで、被害者が被疑者を許す意思を示す形をいいます。示談が成立すると、被害届の取り下げや告訴の取り下げがなされる場合もあります。刑事事件においては、示談が成立したからといって必ずしも不起訴になるわけではありませんが、示談成立の事実は検察官や裁判所が処分を判断する際の重要な考慮要素となります。
被疑者にとっては、不起訴や執行猶予など、刑事処分の軽減を期待できる可能性がありますし、被害者側としても、金銭的補償を含めた謝罪を受けることで精神的な区切りをつけやすいというメリットがあります。ただし、痴漢行為は被害者の尊厳を傷つける重大な行為であるため、示談をまとめるには誠実な対応が欠かせません。双方に納得感のある形で合意を目指すことが大切です。
痴漢事件で示談を検討する場面
痴漢事件では、以下のような場面で示談の可能性が出てきます。
- 警察による逮捕・任意同行後の取り調べ段階
逮捕されると被害者側にも連絡がいき、弁護士の助言のもと被疑者が示談を打診するケースがあります。 - 検察庁での処分が決まるまでの段階
送検された後でも示談交渉が可能です。検察官は示談の有無を処分判断において重視するため、起訴猶予や不起訴を狙ううえで示談の成立は大きな意味を持ちます。 - 裁判中・公判前整理手続きの段階
起訴され裁判になる前や裁判途中でも、被害者との示談が成立すれば量刑に影響を及ぼす可能性があります。
いずれの段階でも示談を検討することは可能ですが、早期に動くほうが被疑者にとって有利になることが多いといわれています。特に、逮捕から勾留される期間は最大で20日間程度となりますが、この間に被害者と示談が成立すれば、勾留の延長を回避できる場合もあります。示談のタイミングはケースバイケースですが、示談の流れを把握しておくことでスムーズな交渉が期待できます。
具体的ステップ
ここでは、痴漢事件における示談の一般的な流れをステップごとに解説します。実際には個別の事情や地域によって若干異なる場合がありますので、あくまで参考としてお読みください。
逮捕・任意同行から取り調べまで
痴漢行為の現場を押さえられると、その場で現行犯逮捕されるケースが多いです。または通報を受けて警察が駆け付け、その場で任意同行を求められることもあります。逮捕・任意同行された場合、警察署で取り調べを受けることになります。ここで重要なのは、黙秘権を含む権利を知っておくことと、早期に弁護士に相談することです。
取り調べの段階では、被害者の話を警察が聞き取り、証拠が固まってくると送検される可能性があります。取り調べは供述内容が後々の裁判に大きく影響するため、軽率な発言をしないよう注意が必要です。
弁護士への相談と依頼
痴漢事件で逮捕や任意同行された場合、最初に行うべきは弁護士への相談です。刑事事件に強い弁護士であれば、痴漢事件の示談の経験も豊富です。適切なアドバイスを得られれば、取り調べへの対応や示談交渉の流れを円滑に進めることができます。
弁護士は被害者との連絡役や示談金の交渉、示談書の作成を代行することも可能です。痴漢事件の場合、被疑者本人が直接被害者に連絡をとろうとすると、さらにトラブルになる危険があります。間に弁護士が入ることで、冷静かつ法的に適正な示談を目指せるのです。
示談交渉の開始
弁護士に依頼した場合、弁護士から被害者や被害者側代理人に示談の意思がある旨を伝え、示談交渉が始まります。一般的な流れとしては、以下のようになります。
- 被疑者側弁護士が被害者側に連絡
- 被害者側が示談に応じるかどうかの確認
- 示談金や示談条件のすり合わせ
- 合意の最終確認
被害者は痴漢被害による精神的苦痛を受けています。謝罪や反省の気持ちを示すことが重要であり、その上で金銭的な補償(示談金)を提示することが多いです。被害者が示談に応じたくないと考えれば、交渉はそこで終わってしまいますが、弁護士を通じて真摯な姿勢を示すことで、示談が成立する可能性が高まります。
示談書の作成と署名
示談金や示談条件について合意に至った場合、示談書を作成します。示談書には一般的に次のような内容が含まれます。
- 加害行為の事実関係
- 被疑者(加害者)が被害者に謝罪の意思を示す旨
- 示談金の金額・支払い方法
- 示談金を受領したことにより、被害届や告訴を取り下げる、あるいは今後民事上の損害賠償請求を行わない旨(成立条件による)
- 当事者の署名・捺印
示談書の内容は後々のトラブルを防ぐためにも、弁護士の助言を受けながら慎重に作成しなければなりません。条件に不備があると、示談書が無効になったり、後から追加請求を受けるリスクもあるため、専門的な知識が求められます。
示談金の支払い
示談書に署名・捺印が済んだら、約束した示談金を支払う段階になります。支払い方法は銀行振込や現金手渡しなど、当事者間で合意した方法をとります。支払いが完了した時点で示談が成立し、被害者が被害届や告訴を取り下げてくれる可能性が高くなります。もっとも、取り下げを行うかどうかは被害者の判断に委ねられますし、示談後の刑事処分は検察や裁判所の裁量にも影響される点は覚えておきましょう。
示談後の手続き
示談が成立した場合、被害者側は警察や検察に対し、「被害届を取り下げる」あるいは「嘆願書(処罰を望まない旨)を提出する」といった対応をとることがあります。これによって、検察の不起訴処分や起訴猶予が期待できる場合もあります。また、もし裁判中であれば量刑が軽減される可能性もあります。ただし、示談成立があっても公訴権は検察官にあるため、事件が重大であると判断されれば起訴されることもある点に注意が必要です。
示談をするメリット・デメリット
メリット
- 刑事処分が軽減される可能性
示談の成立は検察や裁判所の心証に大きく影響を与えます。不起訴や執行猶予付き判決が得られる可能性が高まります。 - 被害者と和解できる
被害者の感情をある程度和らげ、金銭的補償と謝罪によって区切りをつけやすくなる場合があります。 - 早期解決
示談成立によって事件処理がスムーズに進む可能性があり、長期にわたる裁判リスクを避けられることがあります。
デメリット
- 示談金の負担
痴漢事件の示談金は数十万円から数百万円になることがあり、経済的負担が大きいケースもあります。 - 示談交渉が難航するリスク
被害者が示談に応じない場合、時間や費用をかけても解決しないことがあります。 - 悪質なケースでは示談しても起訴リスクが残る
痴漢の態様が悪質である場合、示談が成立しても検察が起訴に踏み切る場合があり、刑事処分の回避が難しくなることもあります。
示談金の相場や注意点
痴漢事件の示談金の相場は、20万円~100万円程度がひとつの目安と言われています。しかし、被害内容や被害者の年齢、精神的苦痛の大きさ、前科・前歴の有無などによって金額は大きく変動します。加害行為が悪質であれば金額は高額になりやすく、逆に被害が比較的軽度であれば低めの金額でまとまる場合もあります。
また、示談金の全額を一括で支払うのが難しい場合でも、分割払いで合意できることがあります。ただし、示談交渉では被害者側の不安や不信感が強い場合、分割払いを認めてもらえないケースも考えられます。スムーズに示談をまとめるためには、弁護士の交渉力が重要なポイントとなります。
示談が成立しない場合のリスク
万が一、被害者が示談に応じず示談が成立しない場合、以下のようなリスクが考えられます。
- 不起訴の可能性が低下する
示談が成立しないことで被害者の処罰感情が残り、検察も起訴に踏み切りやすくなります。 - 裁判で有罪判決を受けるリスク
公判になった場合、被害者が厳罰を望めば裁判官の心証にも影響し、罰金刑や懲役刑を科される可能性が高まります。 - 社会的信用の失墜
裁判が長引くと職場や家族への影響が拡大し、逮捕や起訴の事実が公になることで社会的信用を失う恐れがあります。
痴漢事件は社会の視線も厳しいため、示談による早期解決が望ましいケースが多いです。一方で、被害者の心情を尊重しないまま無理に示談を迫ろうとすると、かえって反発を招く可能性もあります。誠意ある態度を忘れずに交渉を進めることが大切です。
示談交渉時に気を付けるべきポイント
- 誠意ある謝罪の姿勢
痴漢行為は被害者の尊厳を深く傷つける行為です。お金だけで解決を図るのではなく、被疑者として真摯に反省し、言葉や態度で示すことが求められます。 - 弁護士への依頼
痴漢事件の示談交渉は感情面の対立が激しくなることもあります。弁護士が冷静に対応することで、被害者の不安や怒りを和らげながら法的に適切な手続きを踏めます。 - 秘密保持の徹底
示談の内容は基本的に外部に漏らさない約束とすることが多いです。被疑者は示談書に記載された義務を厳守しましょう。 - 嘘をつかない
取り調べや示談交渉の場面で嘘をつくと、後日その事実が明るみに出てさらなる不信感を招きます。事実を正直に伝え、誤解があれば弁護士を通じて丁寧に説明することが大切です。
痴漢事件の再発防止に向けて
痴漢行為は再犯率が低くないとされる一面があります。示談が成立して刑事処分を軽くできたとしても、同じ行為を繰り返せば今度こそ厳しい処罰を受ける可能性が高まります。再犯防止のためには、以下のような取り組みが考えられます。
- カウンセリングや治療プログラムの受講
性的衝動をコントロールするための専門家によるプログラムが各地で行われています。 - 満員電車を避ける行動パターンの変更
早朝やオフピークに通勤・通学するなど、満員電車を避けることで誘惑や誤解を避ける一助となります。 - 周囲の協力や環境調整
家族や友人などのサポート体制を整え、日常的に行動を見守ってもらうことも再犯防止に効果があります。
被疑者自身が心から反省し、行動を変える努力をしなければ、示談が成立しても本当の意味で解決にはなりません。痴漢事件は被害者の心身に大きな負担を与える犯罪であり、その重みを真摯に受け止めることが重要です。
まとめ:早期対処と弁護士相談の重要性
痴漢事件における示談の流れは大まかに、
- 逮捕・任意同行から取り調べ
- 弁護士へ相談
- 示談交渉開始
- 示談書作成・署名
- 示談金支払い
- 示談後の手続き
というステップで進むのが一般的です。
早い段階で専門家の意見を聞くことで、誤解や不安を最小限に抑えながら解決へと進むことができます。痴漢事件は社会的制裁も大きく、被疑者・被害者双方にとって精神的負担が重いものです。特に被疑者にとっては、示談成立の有無が起訴の可否や量刑に大きく影響するため、早期の対処が求められます。
また、被疑者としては二度と同じ過ちを繰り返さないためにも、示談後の再発防止策や生活習慣の見直しを徹底すべきです。被害者の苦しみに対して誠実に向き合い、示談という形であっても被害を償う姿勢を示すことこそが、社会的にも当人の再出発にとっても大きな意味を持ちます。
最終的には、示談が成立するかどうかは被害者の意思に左右される部分も大きいため、交渉の段階で決して焦らず、弁護士のアドバイスを受けながら丁寧に対応していくことが大切です。

この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。
