弁護士コラム

【要注意】意見照会書で発信者情報開示請求?専門家が教える正しい対処法

 インターネット・SNS(ソーシャルネットワークサービス)上での自由な表現が保障される一方で、他者の権利を侵害するような投稿は法的な問題を引き起こす可能性があります。本ガイドでは、オンライン投稿に関連して意見照会書が届いた場合の状況、適切な対応方法、そしてそれに伴うリスクについて詳細に解説します。

意見照会書が届く状況

インターネット上の投稿が原因

 プロバイダー(docomo,au,softbank,megaegg,OCN,BIGLOBE,Yahoo!BB,GMOとくとくBB,@niftyなど)からの意見照会書は主に、インターネット上の投稿が原因で届くことがあります。以下のような状況が考えられます。

  • 名誉毀損・名誉権侵害の申し立て: 個人や組織の社会的評価を低下させるような虚偽の事実を摘示したり、誹謗中傷を行ったりする投稿が行われた場合。
  • 著作権侵害の主張: 著作権で保護された文章、画像、音楽、動画などを無断で使用・公開した場合。
  • プライバシー侵害: 個人の私生活に関する情報を本人の同意なく公開した場合。
  • 商標権侵害: 企業のロゴや商品名を不正に使用した場合。
  • その他の権利侵害: 肖像権侵害、個人情報の無断公開など。

 これらの権利侵害があったと主張する個人や組織が、投稿者を特定するための情報開示請求を行うことがあります。

プロバイダーからの通知

通常、以下のような流れで意見照会書が届きます。

  1. 権利侵害を主張する者(請求者)が、インターネットサービスプロバイダー(ISP)に対して発信者情報開示請求を行います。
  2. ISPは、プロバイダー責任制限法に基づき、投稿者(発信者)に対して意見照会を行う義務があります。
  3. ISPから投稿者に対して、発信者情報開示請求を受けている旨の通知(意見照会書)が送付されます。

回答期限

 意見照会書には通常、回答期限が設定されています(一般的には、2週間以内の期限となっていることが多いです。)。この期限は法的に定められたものではありませんが、適切な対応を行うための目安となります。一般的な回答期限は2週間程度ですが、案件の複雑さや緊急性によって異なる場合があります。

意見照会書が届いたときの対応

無視しない

 意見照会書を無視することは非常に危険です。以下の理由から、必ず対応する必要があります。

  • 無視することで、権利侵害の事実を認めたと解釈される可能性があります。
  • プロバイダが裁判所の判断を仰ぐことになり、結果的に個人情報が開示される可能性が高まります。
  • 後の法的手続きにおいて不利に働く可能性があります。

内容をよく確認する

 意見照会書を受け取ったら、まず冷静に内容を確認しましょう。以下の点に注意して精査します。

  • 問題とされている投稿: どの投稿が具体的に問題視されているのかを特定します。
  • 主張されている権利侵害の内容: 名誉毀損、名誉権侵害、著作権侵害、プライバシー侵害など、具体的にどのような権利侵害が主張されているかを把握します。
  • 請求者の情報: 権利侵害を主張している個人や組織の情報を確認します。
  • 請求の根拠: 権利侵害の主張がどのような法的根拠に基づいているかを理解します。
  • 開示を求められている情報: 氏名、住所、電話番号など、具体的にどの情報の開示が求められているかを確認します。

弁護士に相談する

 意見照会書への対応は法的な問題に関わるため、専門家である弁護士に相談することを強く推奨します。弁護士に相談することで以下のメリットがあります。

  • 法的な観点から状況を正確に分析できます。
  • 最適な対応方法についてアドバイスを得られます。
  • 必要に応じて、弁護士を通じて交渉や対応を行うことができます。
  • 将来的な訴訟リスクを最小限に抑えることができます。

回答期限を守って回答する

 意見照会書には必ず回答期限内に回答する必要があります。回答の選択肢としては主に以下の3つがあります:

同意する場合

請求に応じる旨を回答します。この場合、以下の点に注意が必要です。

  • 開示に同意する情報の範囲を明確にします。
  • 開示によって生じる可能性のある影響について理解しておきます。
  • 必要に応じて、開示の条件(例:情報の使用目的の制限)を付けることを検討します。

不同意の場合

権利侵害を否定するなど、理由を明確にして回答します。不同意の理由としては以下のようなものが考えられます。

  • 投稿内容が事実に基づいており、名誉毀損には当たらない。
  • 著作権の制限(引用など)の範囲内である。
  • 公共の利益のための表現であり、違法性が阻却される。
  • 請求者の主張に根拠がない、または誤りがある。

不同意の回答をする場合は、その根拠を具体的かつ論理的に説明することが重要です。弁護士などの専門家からの助言を得たうえで、回答をすることをお勧めします。多くの弁護士事務所は、回答書の作成代行を5.5万円(税込)~11万円(税込)の範囲の料金で行っています。

回答を保留する場合

状況によっては、弁護士と相談の上、回答を保留することも可能です。保留の理由としては以下のようなものが考えられます:

  • 事実関係の確認に時間が必要。
  • 法的な検討にさらなる時間が必要。
  • 追加の情報や証拠が必要。

 回答を保留する場合は、その理由を明確に説明し、可能であれば具体的な回答予定時期を示すことが望ましいです。

回答しない場合のリスク

意見照会書に回答しない場合、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

裁判に発展する可能性

 請求者が裁判を起こし、裁判所が開示を命じる可能性があります。この場合、以下のような事態が想定されます:

  • 裁判所による審理の結果、投稿者の個人情報が開示される。
  • 裁判費用や弁護士費用などの経済的負担が生じる。
  • 裁判の過程で、より広範囲の情報開示を求められる可能性がある。

損害賠償請求

 権利侵害が認められた場合、損害賠償を請求される可能性があります。損害賠償請求のリスクには以下のようなものがあります。

  • 金銭的な賠償を求められる。
  • 謝罪広告の掲載など、名誉回復のための措置を求められる。
  • 継続的な権利侵害行為の差し止めを求められる。

社会的信用の低下

裁判に発展した場合、以下のような社会的影響が考えられます。

  • メディアで報道されることによる風評被害。
  • 個人や企業の信用度の低下。
  • 将来的な就職や取引などへの悪影響。

その他の重要な情報

プロバイダー責任制限法

 発信者情報開示請求に関する手続きは、主に「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダー責任制限法)に基づいて行われます。この法律の主なポイントは以下の通りです。

  • プロバイダーの損害賠償責任を制限。
  • 権利侵害情報の削除要請への対応手順を規定。
  • 発信者情報の開示請求に関する要件と手続きを定義。

開示される可能性のある情報

開示請求で対象となる可能性のある情報には、以下のようなものがあります。

  • 氏名(本名)
  • 住所
  • 電話番号
  • メールアドレス
  • IPアドレス
  • タイムスタンプ(投稿日時)

ただし、実際に開示される情報の範囲は、権利侵害の内容や裁判所の判断によって異なります。

まとめ

意見照会書が届いた場合、以下のポイントを押さえて対応することが重要です。

  • 内容を注意深く確認し、問題の本質を理解する。
  • 可能な限り早急に弁護士に相談し、専門的なアドバイスを受ける。
  • 回答を無視したり、安易に同意したりせず、適切な対応を検討する。
  • 回答期限を守り、根拠のある回答を行う。
  • 長期的な影響を考慮し、慎重に対応する。

 インターネット上の表現の自由は、憲法上も保障されており(憲法21条1項)、重要ですが、同時に他者の権利を尊重することも必要です。法的な問題に直面した際は、個人で抱え込まず、専門家のサポートを受けながら適切に対応することが、自身を守るための最善の方法です。