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その借金実は時効かも?押さえるべき条件と援用の手順を解説

2025.05.28 弁護士コラム


お金の貸し借りが発生した場合、返済をめぐってトラブルになるケースは珍しくありません。思わぬ事情から返済が滞ってしまい、借りた側も貸した側も困ってしまうこともあるでしょう。そんなときに気になるのが、法律で定められた「時効」の考え方です。実は、借金にも時効が存在し、一定の条件を満たすことで、法的に支払い義務が消滅する場合があります。しかし、借金の時効が認められるには細かなルールがあり、誰でも簡単に適用されるわけではありません。本記事では、借金の時効が成立するための条件や注意点、実際に時効を主張する際の手続きの流れなどをわかりやすく解説します。

借金と時効の基本的な考え方

借金にも時効が適用される?

日本の法律(民法)では、「債権」は一定期間が過ぎると時効によって消滅すると定められています。これは、個人間の金銭の貸し借り(借金)も例外ではありません。つまり、借金に関しても、法定の期間を経過し、かつ一定の条件を満たすことで「時効」が成立し、法的に支払義務が消滅する可能性があるのです。

ただし、あくまで「可能性」だという点に注意が必要です。時効は自動的に成立するものではなく、借りた側(債務者)が自らの意思で「時効を援用(主張)」しなければ効力を発揮しません。時効の期間が過ぎていても黙っていると、貸し手は引き続き返済を請求することが可能になります。

時効が存在する理由

なぜ借金に時効という仕組みがあるのでしょうか。その背景には、以下のような法的・社会的な考え方があります。

  • 法律関係の安定: 長期間にわたって不明瞭な債権が残っていると、債務者・債権者ともに不安定な状態が続くことになります。一定の期間が過ぎたら法的に債権を消滅させることで、社会全体の取引関係を安定化しようという趣旨があります。
  • 証拠の散逸防止: 時間が経つにつれ、契約書や領収書などの証拠が散逸・消失してしまう恐れがあります。記憶や書類が不確かな状態での債権回収はトラブルを招きやすいため、一定の期間を経たら権利を失効させることで、不要な紛争を回避するという意味合いがあります。

借金の時効が成立するまでの期間

時効期間は何年?

2020年4月1日に施行された改正民法によって、債権の消滅時効に関する規定が変更されました。それまで、個人間の貸し借りや商取引などで時効期間が異なっていたものの、改正によって統一的に「原則5年」となる部分が大きくクローズアップされています。ただし、細かい条件によっては変動する場合もあるため、以下のポイントをチェックしましょう。

  1. 貸金業者やカードローンなどの商事債権: 原則5年
  2. 個人間の貸し借り(商行為ではない債権): 原則10年

改正民法では、個人間の貸し借りでも、債権者が権利を行使できることを知ったときから5年、または権利を行使できる時から10年のいずれか早いほうの期間が経過すると消滅時効が成立するとされています。結果的に、多くの場合は5年または10年が基準となることが多いわけです。ただし、借金の経緯や契約内容によっては旧民法が適用されるケースもあり得ます。自分のケースがどちらに該当するのかは、専門家に相談するのが確実です。

「完済するまであと何年」という誤解に注意

「借金の返済期間が5年だから、5年経ったら時効が成立するの?」と誤解されることもありますが、そうではありません。時効というのは「最後に返済をした日」あるいは「返済義務が確定した日」を起点としてカウントされます。たとえば、10年前に契約した借金でも、途中で返済を行っていれば、その返済時期から再び時効期間がリセットされる仕組みです。

借金の時効が成立する条件

借金の時効が成立する条件を正しく理解するには、主に以下の3つのポイントを押さえる必要があります。

時効期間が経過していること

最も基本的な条件は、法律で定められた時効期間が過ぎていることです。一般に、返済期日が来ている状態で、債権者が請求できるにもかかわらず、それを行使せず放置していた期間が時効に影響します。途中で返済していたり、保証人が支払っていたりすると、その日から改めて時効期間がリセットされる点に注意しましょう。

時効期間がリセットされる具体例

  • 一部でも返済した場合
  • 「借金を認める」趣旨の文書(借用書の再作成や返済計画書など)を提出した場合
  • 裁判所から支払督促や差押命令などを受け、法的手続きを踏んだ場合

時効を妨げる「中断事由(更新事由)」がないこと

時効のカウントが進む間に、債権者が裁判を起こしたり、差し押さえを行ったりすると、時効が中断(民法改正後は「更新」と呼ぶ)されます。中断が発生した場合は、時効のカウントがリセットされ、新たに最初から期間がスタートする形になります。

つまり、債務者が「もう5年経ったから時効だ」と思っていても、実は途中で「支払督促」が届いていたり、郵便物を放置していたために時効が中断していた……という可能性もあるのです。このように、時効が確実に成立しているかどうかは、債権者が何らかの法的手段を取っていないかどうかをチェックしなければ判断できません。

債務者が時効を「援用」すること

借金の時効は、期間が経ったからといって自動的に成立するわけではありません。法律上、消滅時効は当事者(債務者)が「援用する」ことで初めて効果を発揮します。具体的には、債権者へ「時効が成立しているため、この借金は支払い義務がない」と意思表示をする必要があるのです。

もし時効を援用せずに黙っていると、債権者は引き続き返済を請求できますし、債務者が支払う意思を見せれば時効は成立しません。つまり、時効の成立と時効の主張(援用)はセットで考える必要があるのです。

時効を主張する具体的な手順

借金の時効を主張するためには、以下のようなステップを踏むことが一般的です。

現状の確認

まずは、自分の借金の状況を整理し、以下の点をチェックしましょう。

  • 最終返済日や支払い義務が確定した日
  • その後に支払いや再契約が発生していないか
  • 債権者が訴訟や支払督促などの法的手段を取っていないか

可能であれば、契約書や返済明細、交渉の記録などを探し出し、詳細を時系列でまとめると判断しやすくなります。

法律専門家(弁護士や司法書士)への相談

借金の内容が複雑な場合や、時効が成立しているか確信が持てない場合は、法律の専門家に相談するのが賢明です。弁護士や認定司法書士に依頼すれば、時効の要件を満たしているかどうかを適切に調査し、必要に応じて債権者との交渉や書面作成をサポートしてくれます。

時効援用の内容証明郵便を送る

法律の専門家に相談して「時効の条件が整っている」と判断されたら、債権者に対して「時効を援用する」旨の書面を送付します。一般的には「内容証明郵便」で送ることで、相手に書面を確実に届けた事実を証明し、後々のトラブルを防ぐことができます。

時効援用の書面には、以下のような内容を記載するのが一般的です。

  • 債権者の名称・住所
  • 債務者(自分)の名称・住所
  • 借金の契約日や最終返済日などの事実
  • 「すでに消滅時効が成立しているため、支払い義務を負わない」旨の主張
  • 日付と署名(押印)

債権者の反応と対処

時効援用の書面を送った後、債権者が時効の成立を認める場合もあれば、法的手段を取って争う場合もあります。もし債権者が時効の成立に異議を唱え、裁判を起こしてくる場合には、その際の主張と証拠が重要になります。

裁判では、時効期間中に債権者が何らかの請求行為をしていないか、支払いの事実がなかったかをめぐって争われることがあります。最終的に裁判所が「時効が成立している」と判断すれば、法的に支払い義務が消滅し、逆に「中断(更新)事由がある」と判断されれば、時効は認められず返済義務が残ることになります。

時効でトラブルを避けるための注意点

時効主張の道徳的・社会的リスク

法的に時効が成立しているならば支払い義務はありません。しかし、道徳的には「お金を借りたのに返さない」という印象を与え、周囲との関係が悪化する可能性もあります。特に、個人間の貸し借りであれば、人間関係のトラブルに発展しやすいでしょう。時効を主張することで、結果的に信頼を失うリスクも考慮すべきです。

保証人への影響

借金に保証人がついている場合、主債務者が時効を援用して支払いを免れたとしても、保証人に対して債権者が請求を続けるケースがあります。保証人との関係や、保証契約の内容を確認し、不要なトラブルを避けるためにも、事前にしっかりと話し合っておくことが望ましいです。

詐欺的業者への注意

「時効が近い債権を安く買い取る」といったヤミ金融業者や、詐欺まがいの回収方法を行う悪徳業者が存在することも事実です。もし身に覚えのない借金や怪しい督促状を受け取った場合は、安易に支払いや合意をせず、すぐに専門家へ相談しましょう。すぐに行動しないと、詐欺被害に発展するリスクがあります。

時効が成立しなかった場合の対処

債務整理の検討

時効を狙って放置していたが、結果的に時効が中断されてしまい、支払い義務が残った……という場合、返済を続けるのが困難であれば「債務整理」を検討する手段があります。債務整理には任意整理・個人再生・自己破産などの方法があり、それぞれメリット・デメリットがあります。月々の返済額を減らしたり、最終的には免責を受けることもできるため、返済に行き詰まった際には専門家へ相談してみましょう。

分割払いの再交渉

貸金業者やカード会社などは、相手が明確に「支払いの意思」を示し、返済計画を立てるならば、分割払いや減額交渉に応じる場合があります。債権者としても、一度に全額を取りっぱぐれるよりは、少しずつでも回収できるほうが望ましいと考えることがあるためです。無理のない返済計画を提示し、話し合いで合意を得られれば、法的手続きに進まずに和解できる可能性も高まります。

専門家と協力しながら最善策を探る

借金問題は、法律の素人が独断で判断するとリスクが高いもの。時効が成立しているかどうかの確認はもちろん、仮に時効が成立しなかった場合の返済プランの設計や債権者との交渉など、どれも専門家のサポートが有効です。自分ひとりで抱え込まず、早めに法律事務所や司法書士事務所に相談してみることをおすすめします。

まとめ

借金の時効は、法律上定められた一定の期間と条件を満たすことで消滅する制度です。しかし、「借金 時効 条件」の3拍子が揃わない限り、時効は認められませんし、仮に条件を満たしていても黙っているだけでは成立せず、「援用」を行う必要があります。

  • 時効期間: 5年や10年などが基準となるが、改正民法後は「債権を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できるときから10年」が原則。
  • 中断(更新)事由に注意: 支払い・再契約・裁判手続きなどがあるとリセットされる。
  • 援用の手続き: 時効は自動的に成立しない。内容証明郵便などを通じて、債権者に「時効を主張する」意思を伝える必要がある。

時効を主張することで借金が法律上は消滅する可能性がありますが、それに伴う人間関係や道徳的リスクも考慮しなければなりません。特に個人間の貸し借りでは、後味の悪い結果を招くかもしれません。また、保証人や共同名義がいる場合には、別のトラブルに派生するリスクも無視できません。

もし借金の返済が苦しくても、時効だけを狙って放置するのは危険です。債権者が法的手続きを進めて時効が中断すれば、借金の支払義務は依然として残ります。状況が複雑になり身動きが取れなくなる前に、弁護士や司法書士などの専門家に相談することで、時効の可能性を含めた最適な解決策が見つかるでしょう。

借金の問題は放置するほど深刻化しがちです。勇気を出して現状を整理し、自分の権利と義務をしっかり把握したうえで、必要に応じて専門家の力を借りれば、必ずしも悲観的な状況だけではありません。時効の適用や債務整理など、法律が用意するさまざまな方法をうまく活用し、健全な生活を取り戻す一歩を踏み出してみてください。

借金問題は決してひとりで抱え込む必要はありません。最初の一歩は大変に思えるかもしれませんが、情報を集め適切な相手に相談することで、意外なほど早く事態が好転することもあります。ぜひ、この記事をきっかけに、自分の状況をしっかり見つめ直してみてください。

この記事を監修した弁護士

代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)

所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。

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