滞納している借金に時効はある?仕組みから注意点まで徹底解説

日常生活の出費が重なったり、予想外のアクシデントが起こったりすると、クレジットカードや消費者金融などへの返済が間に合わず、借金を滞納してしまうケースがあります。そんなとき、「返済を続けないで放置していれば時効が成立し、最終的には支払い義務が消えてしまうのでは?」と考える方もいるのではないでしょうか。
しかし、借金の長期滞納を理由に時効を期待していても、法律上は必ずしもスムーズに免除されるわけではありません。請求を無視し続けると、逆に訴訟や差押えなどのリスクが高まる可能性もあるのです。そこで本記事では、滞納中の借金が時効の対象になる仕組みや成立の条件、リスクと正しい対処法などを詳しく解説していきます。長期にわたって支払いが遅れている方や、返済が追いつかずに困っている方が正確な知識を得られるよう、網羅的な内容を心がけました。
目次 [閉じる]
長期滞納と時効の基本的な関係
「消滅時効」とは何か
消滅時効とは、法律で定められた一定期間が経過することで、債権者(お金を貸した側)の回収する権利が消滅し、債務者(お金を借りた側)が支払い義務を負わなくなる仕組みです。たとえば消費者金融やクレジットカードの利用代金といった借入れも、特定の要件を満たせば時効を主張することができる可能性があります。
ただし、時効は単に「○年経過したから成立」ではありません。借金の返済義務を消滅させるためには、後述する時効援用という手続きを踏むことが不可欠なのです。
なぜ借金滞納が時効と結びついて語られるのか
「返済しなくても数年経ったら時効になってしまう」と期待して、あえて滞納を続ける方がいるのは事実です。しかしながら、実際には督促や法的手段が行使されれば時効のカウントがリセットされるなど、状況はそう甘くありません。また、長期滞納している間に信用情報が傷つく、裁判を起こされるといったリスクを負う可能性があるため、安易に放置するのは非常に危険です。
借金の種類別に見る時効期間
クレジットカードや消費者金融は5年
2017年の民法改正を経て、現在は多くの金銭債権が原則5年の時効期間に統一されています。たとえば次のような場合が該当することが多いです。
- クレジットカードの利用(ショッピング・キャッシング)
- 消費者金融や銀行カードローンなどの融資
- 信販会社との割賦払い契約
ただし、改正前の契約や個別の条件によっては、以前の規定(商事債権なら5年、民事債権なら10年)が適用されるケースも残っています。混同しないよう、自分の借入れの発生日や契約内容を確認することが大切です。
個人間の貸し借りは10年になる場合が多い
友人や知人、あるいは親族間で行われたお金の貸し借りなどは、民事上の債権とみなされることが一般的です。改正後の規定でも10年が基準となる場合があります。口約束だけでお金を貸した・借りた場合でも、法律上は消滅時効の対象になり得るので注意しましょう。
時効が成立するまでのステップ
起算点を見極める
借金の時効期間は、債務者が最後に返済した日、もしくは支払期限が到来した日などからカウントされます。この開始点を「起算点」と呼びます。どの日が起算点になるかによって、具体的に何年目で時効が完成するのかが変わるため、契約書や返済履歴などを手がかりに、正確な日付を確認することが重要です。
一般的な流れ
- 滞納や返済停止が始まる
- 起算点から5年または10年が経過(途中で裁判手続きや部分的な支払いがないことが前提)
- 債務者が時効援用を主張
- 消滅時効が成立し、返済義務が消滅
ただし、後述する「中断」が起こると途中でカウントがリセットされるため、同じ期間を再度経過させなければならなくなる点に注意してください。
中断を引き起こす行為とは?
滞納している間でも、ある種の行為が行われると時効のカウントが0に戻り、新たに時間を経過させる必要が生じます。これを一般に「中断」と呼びます。具体的にどのような事例があるか、代表的なものを見てみましょう。
債権者が法的手段を講じる
債権者(貸し手)が「支払督促」や「裁判(訴訟)」を申し立てて正式な手続きを始めた場合、時効はストップ(リセット)します。さらに裁判所で債務が確定すれば、その判決に基づく請求権は10年の時効期間を持つため、事実上長期にわたって回収が可能な状態になるのです。
債務の一部返済や合意
一部だけでも返済を行ったり、「分割払いで返します」という合意書にサインするなど、債務を認めるような行動を取ると中断とみなされます。たとえ少額でも支払いをしてしまうと、時効完成までの期間が再スタートするため、状況によっては計画性がないまま払ってしまうのは危険です。
口頭・書面での「承認」
「必ず返しますから少し待ってください」というような言動は、債務を承認したと判断される可能性があります。メールや手紙、SNSであっても、内容次第で承認と受け取られることがあるので、言葉のやり取りには注意が必要です。
滞納借金の時効を当てにするリスク
「何もしなければそのうち時効になる」と楽観視してしまうと、以下のような大きなトラブルに発展しかねません。
裁判を起こされてしまう
債権者が本気で回収を考えた場合、支払督促や訴訟といった法的手段に踏み切ることが多いです。こうなると、時効は中断するだけでなく、判決が確定すると財産や給与の差押えなど強制執行が行われるリスクも高まります。
ブラックリスト入りによる信用ダウン
返済が大幅に遅れている事実は信用情報機関に登録されるため、新たなローン契約やクレジットカード発行が難しくなることがあります。たとえ時効を待つ間は請求が来なくても、信用面での制約は長く続くかもしれません。
長期の精神的ストレス
「いつ請求されるか分からない」というプレッシャーの中で日々を過ごすのは大きな負担です。家族に知られるリスクや、突然の督促、裁判所からの通知などに怯え続けなければならず、生活の質が落ちてしまうケースも少なくありません。
時効援用の手続き方法と要点
時効援用とは
消滅時効が成立するためには、ただ期間が経過するだけでは足りず、**「時効を主張します」という意思表示(援用)」**を行う必要があります。これを怠ると、債権者から請求されるまま支払いを続けさせられたり、「本人が支払義務を認めている」とみなされてしまう恐れがあります。
内容証明郵便での通知
時効援用を明確化する手段として一般的なのが、内容証明郵便を使って債権者に書面を送る方法です。送達の事実が公的に証明されるため、後日「時効を主張していなかった」と言われるリスクを回避できます。
- 書面の作成:時効が成立した旨と、援用の意思を明確に示す文章を用意
- 内容証明郵便で郵送:郵便局で内容証明の手続きを行い、謄本などを保管
専門家への依頼がおすすめ
法的文書の作成や債権者対応に慣れていない場合、自分だけで行うと記載ミスや送付先誤り、時効中断の事実見落としなど危険が伴います。弁護士や司法書士に依頼すれば、正確な書類準備や債権者との交渉をサポートしてもらえるため、安心感が大きいでしょう。
他の方法で解決したい場合の選択肢(債務整理など)
任意整理
弁護士や司法書士が債権者と直接交渉し、将来利息をカットしたり、返済期間を延ばしたりすることで毎月の負担を減らす方法です。裁判所を通さないため手続きが比較的シンプルで、借金総額が大きすぎない場合や収入がある程度安定している場合に適しています。
個人再生
裁判所の認可を得て、借金を大幅に圧縮し、残額を3~5年の分割で返済する手続きです。住宅ローン特則を使えば、自宅を手放さずに済む可能性がある点がメリット。ただし、条件として安定収入が必要など、利用できるかどうかは状況によって異なります。
自己破産
返済能力が著しく低い場合は、裁判所に申立てをして借金自体を免除してもらう自己破産という選択肢もあります。職業制限や財産処分などのデメリットがあるものの、全ての借金返済義務を免れる可能性があるため、最終手段として検討する方が少なくありません。
借金問題に悩む方へのアドバイス
- まずは現状を把握:いくら借りているのか、利息や遅延損害金を含めた総額はどれくらいか、返済期日はいつかなどをリストアップしましょう。
- 専門家へ相談を検討:債務整理や時効援用など、法律知識が必要な場面が多いので、弁護士や司法書士に早めに相談すると安心です。収入が少なくても法テラスなど公的支援を利用する方法があります。
- 放置はNG:何もしないでいると状況が悪化しやすく、催促や法的措置を受けるリスクが高まります。少しでも支払いが難しいと感じる時点で手を打つのが望ましいでしょう。
- 精神的な面でもケアが必要:借金問題はストレス源となりやすいため、家族や信用できる友人、専門機関に話を聞いてもらうなど、心の負担を軽減する工夫も大切です。
よくある質問(Q&A)
Q1. クレジットカード代金を5年以上払っていません。時効はすでに成立している?
A. 期間の経過だけでなく、中断事由(裁判の起こされ方や一部返済、承認など)が一切なかったか確認が必要です。さらに「時効援用」の手続きを行わないと正式に消滅とは認められません。まずは契約内容や最終返済日、債権者からの通知の有無などを整理してみましょう。
Q2. 親族や友人に借りていたお金も時効になるの?
A. 原則として個人間の貸し借りでも法律上の時効はあります。ただし、利息の有無や契約条件、時効起算点などの細かい確認が必要です。また、人間関係における道義的・心理的問題もあるため、トラブルを避けるためには早めに返済するか、誠実に相談するのが賢明でしょう。
Q3. 滞納中に少しだけ返済してしまいました。時効はどうなりますか?
A. 一部でも返済を行うと、時効が中断され、新たに期間をカウントし直すことが多いです。「返すつもりがある」とみなされるため、後から「時効狙いだった」と主張しても通らない可能性が高いでしょう。
Q4. 時効援用をした後、相手からまた請求が来ることはある?
A. 正式に援用が認められれば基本的には返済義務が消え、再度請求されることはありません。しかし、悪質な貸金業者や本人確認が曖昧な回収代行業者などが繰り返し督促を行うケースもないわけではありません。内容証明郵便の控えなどを保管し、必要に応じて専門家に相談しましょう。
まとめ
長期にわたり借金を滞納していると、確かに法律上の時効制度によって返済義務が消える可能性はあります。ただし、自動的に免除されるわけではなく、時効を成立させるためには厳密な要件と「援用」の手続きが必要です。さらに、途中で債権者が法的手段を講じたり、少額でも返済してしまったりすると時効がリセットされるため、思うように成立しないケースが少なくありません。
また、裁判を起こされるリスクや信用情報への悪影響など、長期滞納には大きなデメリットが伴います。もし返済が難しい状況に陥っているなら、時効の成立を待つよりも、任意整理や自己破産など債務整理の手段を検討したほうが早期かつ確実に負担を軽減できる可能性が高いでしょう。
借金問題を抱えていると、日々の生活や仕事への集中力が損なわれるだけでなく、家族や友人との関係にも支障をきたすかもしれません。大切なのは、適切な情報を得て、早めに行動することです。一人で悩まず、弁護士や司法書士といった専門家や公的機関に相談すれば、具体的な解決策が見えてくるでしょう。時効に振り回されることなく、法律や制度をうまく活用して、借金問題から一日も早く解放されることを願っています。

この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。
