知らないと損する?不同意わいせつ被害を受けたときの慰謝料請求手続きと専門家の役割

社会の中で許されない行為として、被害者の尊厳を深く傷つける犯罪に「不同意わいせつ」があります。近年、性犯罪に対する法整備や世間の関心が高まるなか、加害者に対する厳正な処罰だけでなく、被害者が精神的苦痛に対して適切な補償(慰謝料)を受けられるようにするための制度や手続きが注目されています。本記事では、不同意わいせつの概要や法的な位置づけ、慰謝料請求の流れや金額の目安、さらには被害者が実際に法的措置を取る際のポイントまでを詳しく解説します。「不同意わいせつ 慰謝料」について知識を深めたい方や、万が一被害に遭った場合の対処法を知りたい方に向けて、分かりやすく情報をまとめました。なお、ここで述べる内容はあくまで一般的な情報であり、個別具体的な事案については弁護士など専門家へご相談ください。
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不同意わいせつとは?その定義と刑法上の位置づけ
「不同意わいせつ」導入の背景
2023年の刑法改正により、「わいせつ」や「強制性交」にあたる犯罪の要件が見直され、「不同意わいせつ罪」が新設されました。これは、被害者の同意がない状況でわいせつ行為を行うことを処罰するもので、従来の強制わいせつ罪をより明確に定義し直したものです。
従来、わいせつ行為を処罰するためには「暴行・脅迫」が認められることが大きな要件とされていました。しかし、「被害者が抵抗できない状況に追い込まれていた」「加害者との力関係や環境的要因から、声を出せなかった」など、暴行や脅迫とまではいかないまま被害が生じるケースも多数存在していたのが実情です。そうした背景から、性犯罪被害に対する法的な救済を手厚くする必要性が生まれ、「不同意=同意が得られていない状態」でのわいせつ行為そのものを明確に処罰対象とする改正が行われました。
不同意わいせつ罪の条文上の要件
刑法上、不同意わいせつ罪は「相手の同意がないにもかかわらず、わいせつ行為をすること」で成立します。わいせつ行為とは、社会通念上、性的羞恥心を害し、または性的欲求を満たすための行為と解されるもので、被害者の身体に直接触れる行為を指す場合が多いと考えられます。
同意の有無の判断は非常に慎重に行われます。たとえば、被害者が言葉で拒否していなくても、恐怖やパニックなどで抵抗できなかった場合や、酒や薬物などで心神喪失・抗拒不能の状態にあった場合でも不同意が認められる可能性があります。
処罰の重さ
不同意わいせつ罪が成立した場合、法定刑は「1年以上10年以下の懲役」とされています。これは従来の強制わいせつ罪の法定刑(6ヶ月以上10年以下の懲役)から下限を引き上げた形となり、より厳しい処罰が可能になりました。被害の態様や被害者の年齢など、状況によっては量刑が重くなることもあり得ます。
「不同意わいせつ 慰謝料」の基礎知識
刑事責任と民事責任の違い
不同意わいせつ罪で加害者が刑事責任を問われる場合、捜査機関が加害者を逮捕・起訴し、刑罰(懲役など)を科すかどうかが検討されます。しかし、被害者が直接「慰謝料」を請求するには、民事上の損害賠償責任を追及する手続き(通常は民事裁判)が必要です。
一般に「不同意わいせつ 慰謝料」とは、加害者が行ったわいせつ行為による精神的苦痛、治療費、その他の損害に対して被害者が請求できる損害賠償の一部です。刑事裁判で有罪判決が出ても、それだけで自動的に慰謝料が支払われるわけではなく、被害者自身が民事手続きに踏み切ることが大きなポイントとなります。
慰謝料が認められる根拠
不同意わいせつに該当する行為は、不法行為の典型例として民法上の損害賠償請求が可能になります。民法第709条では「故意または過失によって他人に損害を与えた者は、その損害を賠償する責任を負う」と規定されており、性犯罪は故意による違法行為の最たるものです。
被害者が負った精神的苦痛やPTSDなどの後遺症、あるいは必要となったカウンセリング費用などの支出は、損害として扱われる場合があります。こうした「精神的損害」に対して金銭(慰謝料)で補てんを求められるという仕組みです。
刑事手続きと民事手続きの連携
実務上、刑事事件として捜査が進んでいる段階で、被害者が損害賠償を請求する意思を示すことも珍しくありません。例えば、加害者が示談金としてある程度の金額を支払い、それと引き換えに被害届を取り下げてもらう(あるいは嘆願書を書いてもらう)形で示談をまとめるケースもあります。ただし、被害者としては加害者の言いなりにならないことが重要で、示談金の額が正当に算出されているかどうか注意深く判断する必要があります。
慰謝料の相場と算定要素
一般的な相場の考え方
不同意わいせつにおける慰謝料の相場は、事案の内容や被害者の受けた精神的ダメージの程度などによって幅がありますが、数十万円から数百万円に及ぶことがあります。強制性交や強姦など、さらに重大な性被害に比べると賠償額は低めになる傾向があるものの、被害者が著しい苦痛を訴える場合や後遺症が深刻な場合、金額が高額になることも珍しくありません。
考慮される主な要素
- 被害態様の悪質性
- 加害行為の時間や場所、被害者の年齢、脅迫や暴力の程度など、行為の悪質さが高いほど慰謝料額は増加する傾向があります。
- 被害者の精神的・肉体的被害の度合い
- PTSDの診断が出ているか、通院や治療の必要性があるか、生活や仕事にどれほどの支障が生じたかが考慮されます。
- 被害後の経過・加害者の態度
- 加害者が反省しているか、謝罪や示談に積極的かどうかも要素のひとつです。
- 被害者が警察に届け出るまでに時間が空いてしまった場合でも、証拠の確保やカウンセリング歴などにより被害事実が裏付けられれば、慰謝料請求は十分可能です。
- 示談交渉の流れや金銭的事情
- 加害者が資力(支払い能力)をどの程度持っているかは、実際の回収可能性に影響します。
具体的な金額の事例
公開されている判例を参考にすると、不同意わいせつに近い類型の強制わいせつ事案でも100万円前後の慰謝料が認定されるケースは少なくありません。一方、暴行が激しく、被害者に大きなトラウマが残った場合には300万円を超えるような高額賠償が命じられる場合もあります。
ただし、これらはあくまで事例ベースであり、個々のケースで大きく異なる点に留意すべきです。
慰謝料請求の具体的なプロセス
証拠の収集と整理
被害後はショックや恐怖で冷静な判断が難しいかもしれませんが、慰謝料請求を見据えるなら証拠を確保することが極めて重要です。
- 診断書:病院で受診し、けがや精神的ストレスに関する診断書を入手する
- 写真や録音:怪我や乱れた衣服の写真、やりとりを録音・保存しておく
- LINEやメールなどの会話履歴:加害者からの脅迫めいた言葉や反省を示すメッセージがあれば保存
警察への相談・被害届の提出
不同意わいせつ被害の場合、刑事事件として取り扱われる可能性があります。警察へ届け出ることで捜査が始まり、加害者が立件されるかどうかが検討されます。後の民事訴訟で加害行為の事実認定がしやすくなるメリットもあるため、迷ったらまずは相談してみるのが望ましいでしょう。
示談交渉と訴訟
- 示談交渉
- 加害者側が弁護士を立てる場合、被害者側も弁護士を通じて示談金(慰謝料)について話し合うのが一般的です。
- 示談がまとまれば、一定の金額を加害者が支払い、これ以上の請求をしないことを条件に和解が成立します。
- 民事訴訟
- 示談が不成立、または加害者が誠実な対応をしない場合、民事訴訟により慰謝料の支払いを求める手段があります。
- 証拠や証人の存在、警察や検察の捜査資料を活用することで、被害を立証します。最終的には裁判所が妥当な慰謝料額を判断し、加害者に支払い命令が出ます。
時効について
民事上の不法行為に基づく損害賠償請求権には時効があります。2020年改正民法では「不法行為の被害者が損害および加害者を知ったときから3年」または「不法行為の時から20年」が経過すると時効となる場合が多いです。ただし、性犯罪に関しては未成年被害など特別の規定が適用されることもあり、個別に確認が必要です。
被害者支援のための制度・サポート
犯罪被害者支援制度
日本では、犯罪被害者に対して行政や民間団体がさまざまな支援を行っています。たとえば、各都道府県には「犯罪被害者支援センター」が設置されており、相談窓口として情報提供やカウンセリング、法的手続きの案内などを行っています。
弁護士費用のサポート
弁護士に依頼する場合、着手金や報酬金などの費用が発生します。ただし、収入が少ないなどの条件を満たせば、日本司法支援センター(法テラス)の「民事法律扶助制度」を利用できる可能性があります。これにより、弁護士費用の立て替えや減額などを受けられる場合があるため、金銭的な不安があっても相談してみる価値があります。
カウンセリングや医療ケア
性犯罪被害に遭った方は、PTSDやうつ状態に陥りやすく、長期的なケアが必要になることがあります。各自治体や民間団体が無料や低料金でカウンセリングを提供している場合もあるので、精神的な負担を軽減するために積極的に活用するのが望ましいでしょう。
弁護士に相談するメリット
専門的知識と経験による適切なアドバイス
法律の専門家である弁護士は、不同意わいせつなどの性犯罪案件に対して、過去の判例や法的根拠に基づいた的確なアドバイスを提供できます。特に慰謝料の相場や示談交渉の進め方など、被害者側では判断が難しい点もプロの知見を活かすことでより有利に運ぶ可能性があります。
精神的負担の軽減
加害者やその代理人と直接やりとりすることは、被害者にとって大きなストレスとなるものです。弁護士に依頼すれば、相手方との連絡や交渉をすべて代理してもらえるため、被害者の心的負担を軽減することができます。
裁判手続きへのスムーズな移行
もし示談が決裂して裁判に移行した場合も、弁護士がいればスムーズに書類作成や証拠収集、法廷での主張立証を行えます。裁判所に提出する文書や証拠の整理は専門的知識が必要となるため、当事者が独力で対応するのは難しいケースが多いです。
まとめ:不同意わいせつ被害への正しい理解と慰謝料請求のポイント
不同意わいせつは、被害者の身体的・精神的な平穏を深く侵害する重大な犯罪です。2023年の刑法改正により、暴行・脅迫の要件が緩和され、加害者に対して厳しい処罰が下りやすくなると同時に、被害者の権利救済の道が広がりました。とはいえ、刑事裁判だけで加害者への慰謝料が確保されるわけではありません。実際に「不同意わいせつ 慰謝料」を請求するには、民事手続きで損害賠償を追及する必要があります。
- 慰謝料の相場:数十万~数百万円程度が一つの目安だが、事案の内容によって大きく変動
- 算定要素:被害態様の悪質性、精神的後遺症の有無、加害者の反省や経済状況など
- 請求の流れ:証拠収集 → 警察への届け出(必要に応じて)→ 示談交渉 → 民事訴訟(必要に応じて)
- 被害者支援:犯罪被害者支援センターや法テラスの制度を活用し、弁護士やカウンセラーの助けを得る
被害を受けた直後はショックで冷静な判断が難しいかもしれませんが、可能な限り早い段階で証拠を確保し、専門家への相談を検討することが重要です。相手からの示談提案に応じる際にも、自らが提示額を妥当と納得できるかどうか、慎重に見極めましょう。最終的には、法的手続きによって適切な慰謝料の額を確定させることも選択肢の一つです。
性犯罪被害は、長期にわたる心身のダメージをもたらす重大事です。しかし一方で、法的な救済措置や支援制度、専門家のサポートを活用すれば、加害者へ正当な責任を追及することが可能になります。自分の苦しみが正しく評価され、社会が加害者にそれ相応の制裁や賠償を求めることで、被害者の方々の再生への一助となるでしょう。性被害に決して泣き寝入りせず、勇気を出して声を上げることで、より多くの人が安心して暮らせる社会づくりにつながります。

この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。
