ある日突然、予想もしていなかった形で刑事手続きに巻き込まれることは、誰しも可能性があります。警察から事情聴取の連絡があったり、逮捕や勾留といった事態になれば、早急に対策をとらなければなりません。そうした状況下でよく耳にするのが、「専門家に支払うお金を用意する余裕がない」という切実な悩みです。
刑事問題を扱う専門家の料金は、多くの場合決して安くはありません(私選弁護の場合、最低でも、70~80万円程度の費用が掛かります。)。しかし、適切な援護が得られないまま進んでしまうと、身柄の拘束が長引いたり、裁判で不利な結果につながったりする可能性もあります。そこで本記事では、問題を専門家に任せたいが、金銭的な負担が難しいと感じる方へ向け、具体的な対処法や制度の活用方法を詳しく解説します。
「どうしても準備ができない」「資金繰りができず、立ち直れなくなりそう」と落ち込む前に、使える制度や交渉術を理解し、後悔しない選択をしましょう。
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なぜ専門家に依頼すべきなのか
刑事手続きを軽視すると取り返しがつかない
刑事トラブルの手続きは、逮捕・勾留から起訴、公判に至るまで、非常に短いスパンで進んでいきます。特に初期段階の対応を誤ると、勾留が長引いて仕事や生活に大きなダメージを負いかねません。さらに、不利な供述調書が作成されると、それが裁判での結論にも直接影響します。
こうした状況を避けるためには、刑事手続きの流れや捜査機関の動き方に詳しい専門家のアドバイスが欠かせません。金銭的な負担が大きく感じられても、「どのように弁護活動をすれば最善策をとれるか」を熟知した人の力を借りることで、結果的にはダメージを最小限に抑えられる可能性があります。
交渉や弁護活動は専門知識が必要
検察や裁判官は、法律のプロです。難しい法律用語が飛び交う中で、素人が対等に渡り合うのは容易ではありません。示談交渉においても、相手方(被害者や代理人)とのコミュニケーションの進め方や示談書の内容など、専門的な知識が必要になります。
専門家に依頼するメリットは、単に「法廷での弁護活動」だけではありません。捜査段階から粘り強く動き、証拠や事情を洗い出し、依頼人にとって有利な材料を整理してくれる役割も大きいのです。費用の問題をクリアできるのであれば、早い段階で協力を仰ぐことが望ましいでしょう。
負担に感じやすい報酬の内訳
主な料金の仕組み
「刑事のトラブルを扱っている人」に報酬を支払う場合、通常は以下の項目が発生します。
- 相談料
- 着手金
- 成果報酬(報酬金)
- 実費・接見日当
事務所によっては「着手金」や「報酬金」の呼び名が異なる場合もありますが、概ね事案を動かすための先払いと、結果に応じた追加の支払いという構造は変わりません。
料金が高額になる理由
- 専門性の高さ: 捜査機関の対応、法廷での主張など高度な知識が必要
- 迅速な活動: 逮捕後の手続きが急ピッチで進むため、短時間で集中的に動かなければならない
- 社会的影響: 依頼人の社会的立場や今後の人生に大きく左右するため、慎重な対応が求められる
こうした背景から、報酬は「安い」とはいえない金額になることが多いです。特に拘束期間が長引く、被害者が複数いるなど、事案が複雑になるほど時間と手間がかさみ、費用も増大しやすくなります。
「資金が足りない」と悩む人がとるべき行動
まずは無料相談や低額相談を活用
近年、初回無料相談や定額制の相談を実施している事務所が増えてきました。費用面で不安を抱えている方は、こうした機会を利用して大まかな見通しを聞いてみましょう。刑事手続きの流れや今後のスケジュール感を把握するだけでも、心構えができたり、必要な費用のイメージがつかめたりします。
早期相談でコストを下げる可能性
「お金がないから、とりあえず相談は後回しにしよう」と思っていると、事態が悪化して結果的に高額の費用や長期の拘束につながることがあります。たとえば、勾留が決定してしまい釈放のために保釈申請をするケースになると、それだけで追加の手続きと費用が発生してしまう可能性があります。
早めに状況を整理し、専門家に助言をもらうことで、無駄な出費やトラブルを回避できるかもしれません。結果的に出費全体を抑えられることもあるため、相談のタイミングは非常に重要です。
国選弁護人の選択肢
負担を最小限に抑える公的制度
「お金がなくて専門家への報酬を用意する余裕がない」場合、国が費用を負担してくれる制度を利用できる可能性があります(ただし、裁判の結果次第では、国選弁護費用を被告人自身が負担する場合もあります。)。一定の要件(資力が乏しい、勾留されている、罪が重く公判になる可能性が高いなど)を満たすと、国選弁護人が選任される仕組みです。
- メリット:
- 自己負担が大幅に減る
- 費用面を気にせず、刑事弁護を受けられる
- デメリット:
- 逮捕前には基本的に対応ができない
- どの弁護士が担当になるかを自由には選べない
国選弁護人を考える際の注意点
国選弁護人は公的制度として非常に大きな助けとなりますが、弁護士の数や実績はさまざまです。また、逮捕されていない段階や在宅捜査で進んでいる段階では、国選の対象外となるケースが多いです。逮捕前から活動が必要な場合や、特定の専門家を選びたい場合は私選弁護人を検討せざるを得ません。
法テラスの活用と費用立て替え制度
法テラス(日本司法支援センター)とは
法テラスは、資力が限られている方でも法律サービスを受けやすいよう支援する公的機関です。一定の収入要件を満たせば、無料で法律相談を受けられたり、弁護士費用を立て替えてもらう制度(民事法律扶助)を利用できたりします。
ここでいう「民事」とは必ずしも民事訴訟だけを指すわけではなく、刑事案件の示談交渉などに関する相談が対象となるケースもあります。該当するかどうかは個別に判断されるため、一度問い合わせてみる価値があります。
負担を後払いにできる
立て替え制度が認められると、専門家に支払う着手金や報酬などを法テラスが一時的に負担し、利用者は後から少しずつ返済していく形になります。月々の返済額は収入に応じて調整されるため、一括で高額を用意する必要がなくなるというメリットがあります。
ただし、資力要件が厳格に定められており、収入や預貯金が一定以上ある場合は利用できないこともある点に注意しましょう。
事務所との交渉:分割払い・見積もり相談
分割払いに対応してくれる事務所も
「専門家への報酬を用意できない」と悩む方でも、あきらめる前に一度事務所に相談してみる価値があります。近年では、依頼者の経済状況に合わせて分割払いを認めている法律事務所も存在します。たとえば、着手金を数回に分けて支払う形にしたり、成果報酬の一部を分割にしたりと、柔軟に対応してもらえる場合があるのです。
見積もりや契約内容をしっかり確認
分割払いが可能かどうかに加え、最終的に総額はいくらぐらいになるのか、追加費用が発生するタイミングはどこか、などを契約前によく確認することが重要です。口頭だけの説明では誤解が生じやすいので、できれば書面で見積もりを出してもらいましょう。
また、着手金や報酬金の区分があいまいだと、後々「こんなに請求されるとは聞いていなかった」とトラブルになる可能性があります。自分で納得できるまでしっかり質問し、不明点をクリアにした上で契約を結ぶことをおすすめします。
そもそも専門家が必要か迷う場合
自力で対応するリスク
「どうしてもお金が用意できないなら、もう自分でやるしかない」と考える人もいるかもしれません。しかし、刑事手続きは民事のトラブル以上に専門的です。また、必ず弁護人がつくことが要請される事件もあります(刑事訴訟法289条)。自分で示談交渉を進めてしまい、不利な条件を受け入れたり、適切な証拠や主張を準備できなかったりすると、一生を左右するような不利益を被る可能性があります。
取り返しのつかない結果を招かないためにも、「専門家への依頼は本当に必要ないか?」をよく検討しましょう。勾留のリスクや、前科がつく・つかないといった大きな節目に関わるだけに、慎重な判断が求められます。
早めの判断が「費用対効果」を高める
刑事案件では、捜査機関が動き始めた初期段階での対応が非常に重要です。少しでも早く専門家に相談すれば、身柄拘束を回避・短縮できたり、不起訴処分や執行猶予など、結果を軽減できる可能性が高まります。最終的に得られる利益を考えると、早期相談が「費用対効果」に優れる場合が少なくありません。
自己破産・借金での工面は可能か?
刑事手続きに絡む費用は自己破産の対象外
「借金をしてでも専門家を雇わないといけない」となった場合、別に、刑罰を受けたとしても、自己破産すれば、罰金を支払わなくてもよいのではないか?と考える方もいるかもしれません。しかし、刑事上の罰金や科料、または反則金・過料などは、原則として自己破産の免責対象には含まれないとされます。専門家の報酬については直接の「罰金等」ではありませんが、費用を滞納すると事務所とのトラブルになる可能性が高いでしょう。
借金する前に公的制度や分割払いを検討
借金をして費用を支払うよりも先に、法テラスの立て替え制度や国選弁護人制度を検討したり、事務所に分割払いを打診したりするほうが良い場合があります。金利の負担も考えると、慎重に判断することが必要です。深刻な借金を背負ってしまうと、刑事問題が解決した後の生活再建がますます難しくなる恐れがあります(なお、当事務所は、法テラスでの契約をすることはできません。)。
まとめ
刑事上のトラブルで専門家に依頼する際、「どうしても料金を準備できない」という状況は珍しくありません。しかし、だからといって対応を後回しにしてしまうと、取り返しのつかない結果を招きかねません。そこで、以下のポイントを押さえて行動しましょう。
- 無料相談や低額相談を活用し、早めに情報収集
- 少しでも刑事手続きの見通しが分かれば、不要な不安や無駄な出費を減らせるかもしれません。
- 国選弁護人の利用要件を確認
- 逮捕後であれば、国による弁護人制度が使える可能性があります。自己負担が軽減される反面、弁護士を選べない・タイミングが限定されるなどの注意点も。
- 法テラスの費用立て替え制度を検討
- 収入や預貯金が一定以下であれば、弁護士費用を立て替えてもらい、後日分割で返済できる制度があります。まずは問い合わせてみるのがおすすめです。
- 事務所との交渉で分割払いの可能性を探る
- 近年、柔軟に対応してくれるところも増えています。最終的な総額や支払い条件を明確にしてもらいましょう。
- 早期の依頼で結果的にコストダウンになる場合も
- 手続きが進むほど不利な状況になり、必要な出費が増えることがあります。初動を早めることでトータル費用を抑えられるケースも少なくありません。
刑事の領域でのトラブルは、人生に大きな影響を及ぼす重大な局面です。費用の問題は避けて通れませんが、公的制度や支払い方法の工夫次第で、なんとか乗り越えられるかもしれません。あきらめる前に、さまざまな選択肢を検討し、自分に合った最善策を見つけてください。