弁護士コラム

車の衝突が重大な結果を招いたとき…法律上の責任と対処法を徹底解説

車両の衝突・接触などが発生した場合、通常は当事者同士の話し合いや保険会社による示談交渉が中心となるイメージがあるでしょう。しかし、負傷者が出たり死亡事故に発展したりすると、捜査機関による取り調べが入るなど、刑法上の問題として扱われる可能性が出てきます。

このように、乗り物が関係するトラブルが刑事上の裁きにまで発展するケースは決して少なくありません。一度この段階に進むと、逮捕や起訴が行われ、場合によっては執行猶予や実刑といった厳しい処分を受けるリスクもあるため、一刻も早く正しい情報を収集し、適切な対処を取ることが求められます。

本記事では、車両トラブルが刑法に基づく裁判にまで進む可能性がある状況、具体的に問われる罪名や処分の内容、そして捜査機関から身を守るために知っておきたいポイントを詳しく解説します。自分や大切な家族がいざという時に困らないよう、ぜひ最後までお読みください。

車両トラブルに関する三つの責任区分

車の衝突や接触などが発生すると、大きく分けて「行政上の責任」「民事上の責任」「刑事上の責任」の三つの側面で問題になる可能性があります。

行政上の責任

運転免許の点数制度に基づく免許停止・免許取り消しなどは、行政処分として扱われます。たとえば、一時停止無視や信号無視など交通違反が原因で事故を起こした場合や、速度超過が著しい場合などでは、運転免許証を管理する都道府県公安委員会から何らかの処分が下されます。

代表的な行政処分

  • 免許の点数加算
  • 免停(一定期間の運転禁止)
  • 免許取り消し

違反の内容や事故の深刻度によって処分内容は変わりますが、行政上の責任のみならず、のちに解説する民事・刑事の問題につながることも珍しくありません。

民事上の責任

人身事故や物損事故が起きた場合、損害を与えてしまった側は被害者に対して損害賠償責任を負うことになります。病院への通院費用や治療費、車両の修理費用、休業損害や慰謝料など、具体的な請求内容はさまざまです。多くの場合、自動車保険(任意保険)が適用され、保険会社が示談交渉を代行してくれますが、以下のようなトラブルに発展するケースもあります。

  • 加害者側が任意保険に未加入だった
  • 被害者が過大な金額を請求している
  • 示談交渉がこじれ、話し合いが長期化している

こうした場面では、弁護士をはじめとする専門家のサポートが必要になる場合があるでしょう。

刑事上の責任

車の衝突によって、法的に処罰が下されるケースがこちらです。具体的には、人を死傷させた場合に「過失があった」と認定されると、自動車運転過失致死傷罪や、悪質な運転が認められる場合には危険運転致死傷罪などが適用される可能性があります(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)。

刑事事件として扱われる場合は、警察や検察により捜査が行われ、起訴に至れば最終的に裁判所で判決が下される流れになります。罰金刑で済むケースもあれば、懲役刑(執行猶予付き・実刑)を受ける可能性もあるため、適切な対応が欠かせません。

なぜ車両トラブルが刑事上の裁きに発展するのか?

人身事故による被害の重大性

人身事故が起きると、被害者の身体に大きなダメージが生じる可能性があります。重傷を負ったり、最悪の場合は死亡事故となったりすると、その責任は極めて大きいものと見なされます。被害者の生命や身体を損なう危険のある乗り物を運転している以上、加害側には「安全運転義務」が法的に課されています。

自動車運転過失致死傷罪とは

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条が定める罪名で、業務上必要とされる注意義務を怠った結果、人を死傷させた場合に成立します。過失運転で人身被害を出された場合には、この罪が適用される可能性があります。

悪質な運転態様

単なる過失(不注意)ではなく、飲酒運転・薬物使用・極端なスピード違反など、極めて危険性の高い運転行為が認定されれば、危険運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条)としてより重い罰則が科される場合があります。

  • 危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条)
    アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態、または著しく速度を超過している場合など、極めて悪質な態様と見なされると成立する可能性があります。罰則も非常に重く、死亡事故なら1年以上の有期懲役(上限20年)、傷害事故でも15年以下の懲役となるため、刑事責任の重さが際立ちます。

当て逃げ・ひき逃げなどの対応のまずさ

事故そのものは比較的軽微だったとしても、その後の対応が不誠実であると刑事事件化しやすくなります。例えば、相手をケガさせたのに救護措置を取らず逃走する行為は、救護義務違反(道路交通法上の犯罪)として厳しく処罰されます。「動転していた」「怖くてその場を離れた」という言い訳では到底許容されず、のちに逮捕・起訴されるリスクが高いです。

車両トラブルで問われる主な罪名

ここでは、実際に適用される可能性がある罪名をもう少し詳しく見ていきましょう。

過失運転致死傷罪

かつては「業務上過失致死傷罪」として扱われていた行為の一部が、自動車運転死傷行為処罰法により整理され、新たに「過失運転致死傷罪」(同法第5条)として規定されています。

  • 不注意(前方不注意、脇見運転など)で人を死傷させた場合に適用
  • 懲役・禁錮7年以下または100万円以下の罰金

「業務上過失致死傷」との使い分けはやや複雑ですが、基本的には自動車事故での過失による死傷は「過失運転致死傷罪」で処理されることが多いと考えてよいでしょう。

危険運転致死傷罪

飲酒運転、薬物使用、著しいスピード違反など、悪質な運転によって人を死傷させた場合に適用されます(自動車運転死傷行為処罰法第2条)。

  • 死亡事故の場合:1年以上20年以下の懲役
  • 傷害事故の場合:15年以下の懲役

自動車を使った行為の中でも、特に悪質性が高いと判断されれば厳しく処罰されることになります。

無免許運転・免許取り消し後の運転

有効な運転免許を所持せずに車両を運転し、人身事故や重大な物損事故を起こした場合も重い処分が科される可能性があります。以前は道路交通法違反としてまとめられていましたが、自動車運転死傷行為処罰法の成立後、無免許状態での人身事故についても厳罰化が進んでいます。

救護義務違反

いわゆるひき逃げ・当て逃げは、道路交通法72条が定める「救護義務違反」として非常に重い罪に問われます。人身事故を起こしたのに適切な救護措置を行わず現場から逃げた場合、事故の態様に応じて懲役・罰金刑が科され、さらに運転免許に対しても極めて重い行政処分がなされます。

捜査・裁判の流れ

警察による取り調べ

事故を起こした直後、警察が現場に駆けつけると、まずは事実関係の調査が行われます。過失の度合い、飲酒や薬物の使用の有無、速度超過状況などを確認し、被害者の負傷程度がどれほど深刻かも考慮されます。状況によっては、その場で身柄を拘束されることもあり得ます。

送検・検察による捜査

警察がある程度捜査を進めると、書類や証拠物を検察庁へ送致(送検)します。検察官は送られてきた捜査資料をもとに、「起訴(刑事裁判にかける)するか、不起訴(起訴猶予・嫌疑不十分など)にするか」の判断を下します。飲酒運転や重大な過失が認められる場合などは、起訴される可能性が高いです。

刑事裁判

検察官が起訴を決定すれば、裁判所で刑事裁判が開かれます。公判の中では、運転態様の危険性や被害の程度が争点となり、被告人に対する量刑が決定されます。初犯であり、被害者との示談が成立している場合は執行猶予が付くこともありますが、悪質な態様が重視されれば実刑判決のリスクも十分にあり得ます。

もし車の衝突で相手をケガさせてしまったら?初動で気を付けるポイント

実際に運転中のトラブルで相手を負傷させてしまった場合、慌てずに以下の対処を行うことが大切です。対応を誤ると、その後の刑事手続きで不利に扱われる可能性があります。

現場から絶対に逃げない

パニックになってその場を離れたくなる気持ちは理解できますが、逃走すれば救護義務違反(道路交通法第72条)の罪に問われます。自分がケガをしている場合でも、相手に深刻なダメージがないか確認し、救急車を呼ぶなど適切な措置を行いましょう。

警察・救急へすぐ連絡

道交法では、事故を起こしたら速やかに警察に通報する義務があります(道路交通法第72条)。同時に、相手が負傷しているなら救急車も手配することが必須です。このとき、もし意識不明などの重症が疑われるなら、自己判断で動かさず、医療従事者の到着を待ってください。

目撃者や証拠の確保

交通量の多い道路や交差点であれば、周囲に目撃者がいる可能性もあります。また、防犯カメラやドライブレコーダーの映像があれば、事故当時の様子を客観的に証明できるため、後の調停や裁判で役立つでしょう。警察官に協力を依頼しつつ、自分でも録画データや目撃者の連絡先を確保すると安心です。

不起訴や処分の軽減を目指すには?

被害者との示談

刑法の世界では、被害者との示談が成立しているかどうかが量刑や処分の判断に大きく影響します。早い段階で誠意をもって謝罪・賠償を行い、被害者の納得を得られれば、不起訴や罰金刑、執行猶予など比較的軽い処分となる可能性が高まります。

ただし、被害が甚大な場合や被害者が感情的に強く反発している場合には示談が難航することもあります。専門家(弁護士)のサポートを受けながら、冷静かつ丁寧に話し合いを進めることが重要です。

弁護士の選任

万が一、自分の行為が刑法上の裁きを受けるかもしれないと感じた段階で、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は以下のようなサポートを提供してくれます。

  • 示談交渉の代理:感情的になりやすい加害者・被害者双方の間に入り、冷静に示談金や賠償額の協議を進める
  • 捜査機関への対応:警察・検察の取り調べ時に留意すべき点をアドバイス
  • 裁判での弁護活動:不起訴を目指す活動や、起訴された場合でも刑の減軽を訴える弁論

法律の専門知識と交渉力を兼ね備えた弁護士の支援は、結果を左右する重要なポイントです。

自首・出頭での減軽

事故後、逃走してしまったが自首を考えている場合や、すでに捜査が進んでいる状況で取り調べに素直に応じる場合など、「早期の自発的対応」が処分軽減につながることもあります。自首や出頭のタイミングは非常にシビアな判断となるため、迷った際は弁護士に相談しましょう。

よくある誤解と注意点

「車の保険でなんとかなる」は大きな誤り

確かに、多くの人が任意保険に加入しているため、民事的な損害賠償は保険でカバーされる場合が多いでしょう。しかし、刑事上の裁きを回避できるわけではありません。飲酒運転や薬物使用が原因の場合、保険金が支払われない特約がついているケースも多々あります。

「免停・免取だけで済む」は甘い考え

前述のとおり、重大事故や悪質行為が認められる場合は、懲役刑や罰金刑という形で直接の刑事罰を受けるリスクがあります。行政処分(点数による免許停止・取り消し)はあくまで別枠ですので、両方が課される可能性すらある点を理解しておきましょう。

「相手がケガをしなければ問題ない」とは限らない

たとえ人身被害がなかったとしても、相手の財産に重大な損害を与えたり、周囲を巻き込むような危険運転が確認された場合には、道路交通法違反や自動車運転死傷行為処罰法の適用対象となり得ます。相手がケガをしなかったからと言って、絶対に刑事事件化しないとは言い切れません。

まとめ:車両トラブルが法的に重大化しないためのポイント

車を運転する以上、私たちはいつ誰が事故の加害者・被害者になってもおかしくありません。さらに、刑法上の裁きを受けるリスクは思った以上に身近に潜んでいます。最後に、トラブルが深刻化しないために知っておきたいポイントを整理しましょう。

  1. 安全運転を最優先する
  • スピードの出しすぎや飲酒運転は絶対に避ける
  • 長時間の運転を避け、疲労時の運転は慎む
  1. 事故が起きたら冷静に初動対応
  • ケガ人がいれば救急車を呼び、警察に連絡
  • その場から逃げずに救護措置を怠らない
  1. 早期の示談交渉と専門家への相談
  • 被害者への謝罪と賠償を迅速に行う
  • 弁護士へ相談し、示談や捜査対応のアドバイスを得る
  1. 保険内容の把握
  • 飲酒運転や薬物使用時は保険が下りない可能性
  • 自分の加入する任意保険の補償範囲と特約の確認
  1. 悪質行為は厳罰化が進む流れ
  • 危険運転致死傷罪に問われれば長期懲役のリスク
  • 当て逃げ・ひき逃げは社会的信用も大きく失墜する

実際に事態が深刻化してしまった場合、慌てて対応しようとしても手遅れになるケースもあります。事故を起こした直後の対応の良し悪しが、後の捜査や裁判に大きな影響を与えます。「自分は大丈夫」と考えるのではなく、万が一に備えて適切な知識を得ておくことが大切です。