家族が亡くなったとき、残された親族がその財産をどう分けるかは大きなテーマとなります。特に、兄弟同士だけで話し合いをしなければならないケースでは、それまで気づかなかった感情的なしこりが表面化し、思いもよらない対立へ発展する可能性があります。
本記事では、兄弟同士が財産を引き継ぐ際に知っておきたい基礎知識やトラブル事例、スムーズに手続きを進めるための工夫などを詳しく解説します。公平感や法的な正当性を踏まえながら話し合うことで、家族の絆を守りつつ円満に手続きを終えましょう。
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兄弟同士の分配が必要となる場面とは
子どもや配偶者がいないケース
親が亡くなった際に、配偶者や子どもがいない場合、兄や姉、弟や妹が後順位の相続人に該当します。たとえば、独身の叔父や伯母が亡くなって財産を受け継ぐ際に、兄弟が中心となるケースがあります。
親もすでに他界しているケース
両親が先に他界している状況で、その子ども(被相続人の兄弟)だけが残っている場合なども同様です。通常、相続順位としては「配偶者」や「子ども」、「直系尊属(父母など)」が先にきますが、それらが存在しないときに兄弟が財産を受け継ぐことになります。
遺言書で兄弟を指定しているケース
法定相続人がいても、遺言書で特定の兄弟に多く財産を渡すよう指定している場合もあります。このようなとき、他の兄弟との間に不公平感が生じるおそれがあります。遺留分(最低限の取り分)が関係するケースかどうかを含め、遺言の内容を確認する必要があります。
兄弟が引き継ぐ際の基本的な法定相続順位と取り分
法定相続人の順位
日本の民法では、相続には下記のような順位が定められています(民法887条~889条)。
- 子ども(第一順位)
- 父母など直系尊属(第二順位)
- 兄弟姉妹(第三順位)
被相続人に子どもがおらず、かつ両親(直系尊属)もすでに他界している場合、次に兄弟が法定相続人となります。なお、配偶者は常に相続人ですが(民法890条)、兄弟だけが残されているケースでは配偶者が存在しないか、または別の形で権利を有していないことが前提となります。
兄弟姉妹の法定相続分
兄弟姉妹だけが相続人になる場合、各人の取り分は基本的に均等です。たとえば兄・妹の2人が相続人であれば、「2分の1ずつ」という形になります。ただし、異母・異父の関係(父または母が同じだけの関係性)にある場合は、相続分が異なる規定がかつて存在しましたが、現行法では実子・婚外子を問わずすべて平等に扱われるようになりました。
代襲相続の可能性
兄弟の一人がすでに亡くなっている場合でも、その人に子どもがいれば「代襲相続」といって、その子どもたちが相続権を引き継ぎます。たとえば、長男が先に他界していて、長男に子ども(被相続人の甥・姪)がいる場合、兄弟姉妹の相続分をその甥・姪が肩代わりする形になるので、協議の際には注意が必要です。
兄弟間で起こりやすいトラブル例
金銭以外の資産の分割で揉める
不動産や貴金属、美術品などは単純に分割が難しく、査定額をめぐって意見が対立しがちです。特に、誰か一人が形ある遺産(例:家や土地)を独占するかたちになる場合、ほかの兄弟が不満を抱く可能性が高くなります。
生前の親からの援助をめぐる不公平感
「長男だけが親から家を買う頭金を支援してもらっていた」「姉の結婚の際に多額の支援があった」といった生前贈与や援助があった場合、ほかの兄弟は「自分には何もなかった」と感じることが多いです。
実際の法制度としては「特別受益」という概念があり、生前に受けた援助分を相続時に考慮する仕組みがありますが、対象範囲や評価額については当事者間で認識が異なる場合もあり、紛争の火種になりやすいです。
代襲相続人が多数いるケース
すでに亡くなった兄弟に複数の子ども(被相続人から見て甥・姪)がいると、相続人の数が増え協議が複雑化します。なかには遠方に住んでいる人もいて、話し合いの場を設けるだけでも一苦労。書類のやり取りや印鑑証明の取得がスムーズに進まないことで手続きが長期化しやすいです。
スムーズに遺産を分けるための手順
まずは相続人の確定から
兄弟間で遺産を分ける際も、まずは誰が相続人なのかを正確に把握するところから始めます。戸籍謄本を出生から死亡までさかのぼって取得し、家族構成を確認します。
- 同父母だけでなく、父または母だけが同じ「半血兄弟」も含まれるか
- 既に亡くなっている兄弟の子ども(甥・姪)がいるか
この点を誤ると後々大きなトラブルに発展する可能性があるので注意しましょう。
遺言書の有無を確認
遺言書があれば、その内容を基本的に尊重します。公正証書遺言であれば開封手続きは不要ですが(民法1004条2項)、自筆証書遺言などの場合は家庭裁判所での検認が必要です(民法1004条1項)。遺言書の内容に納得できない場合や、法的に問題がある場合、専門家のアドバイスを得ながら対応を検討することが大切です。
遺産の調査と評価
財産の全体像を把握し、各資産の現在の価格(または評価額)をなるべく正確に知る必要があります。預貯金・有価証券は明確でも、不動産や貴金属などは査定をとることが多いです。後々「こんなに価値があるとは思わなかった」と揉めることのないよう、客観的な資料を準備しておくとスムーズです。
遺産分割協議の実施
相続人全員が集まり、どのように分けるかを話し合います。ここでは、
- 取得する人
- 取得する資産の種類
- 取得に伴う金銭精算の有無(代償分割など)
などを決め、遺産分割協議書という形で書面化し、全員の実印を押印します。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判に進むことになりますが、その分時間とコストがかかる点は留意しましょう。
相続手続きや名義変更を行う
協議が整ったら、不動産の名義変更(相続登記)や銀行口座の解約・名義変更など具体的な手続きを進めます。特に不動産の相続登記は、相続人全員の印鑑証明書や戸籍謄本、遺産分割協議書などが必要となり、準備が煩雑になりがちです。期限に注意しつつ、速やかに対応しましょう。
円満な合意に役立つ工夫
弁護士や司法書士など専門家を活用
家族間の話し合いは、どうしても感情論になりがちです。弁護士や司法書士が中立的な立場からアドバイスを行うことで、スムーズに協議を進められる場合があります。書類作成や法的手続きのサポートはもちろん、税理士と連携して相続税や特別受益の確認をしてもらうことも重要です。
不動産などは「共有」よりも「単独所有+代償金」を検討
家や土地などを全員で共有すると、後々の管理や売却で全員の同意が必要になるなど手間がかかります。資産価値を算定し、一人が不動産を引き継いだ上で、他の兄弟には金銭的補てんを行う「代償分割」のほうが合理的な場合が多いでしょう。
また、思い出のある家だからこそ手放したくない気持ちも理解できますが、あまり使わない物件を後生大事に抱えてしまうと固定資産税の負担や維持管理が重くのしかかるリスクがあります。家族全員で将来的な見通しを共有して決めることが大切です。
生前からの話し合いを推奨
もし親が健在であれば、生前のうちに親と兄弟全員で将来の財産分けについてある程度の合意を得ておくのが理想的です。遺言書の作成や公正証書遺言の利用などにより、のちに起こりうる争いを防ぐ効果が期待できます。日本の文化的に「縁起でもない」と敬遠されがちな話題ですが、結果的には家族の負担を軽減する有効な手段といえるでしょう。
相談先とサポートの受け方
家庭裁判所の調停や審判
話し合いだけでは決着がつかない場合、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。裁判所の調停委員が間に入り、合意への仲介を行ってくれる制度です。調停でもまとまらない場合は、審判に移行し、裁判官が分割方法を決定することになります。
弁護士や司法書士、税理士の選び方
- 弁護士: 遺産分割協議の代理、訴訟対応、法律的な紛争処理に強い
- 司法書士: 相続登記や各種書類作成、調停など軽微な紛争対応にも対応するケースあり
- 税理士: 相続税の申告、特例・控除の適用可否の判断、納税計画のサポート
相続問題は法律だけでなく税金の知識も要するため、総合的に対応できる士業を探したり、複数の士業が連携している事務所に依頼したりするのがおすすめです。
費用面の確認
専門家に相談・依頼する場合、費用の体系は事務所によってさまざまです。時間制の相談料や着手金、成功報酬、書類作成費用などが発生する可能性があります。具体的な金額を事前に見積もってもらい、兄弟間で費用負担をどうするかも話し合っておくとよいでしょう。
まとめ
兄弟同士だけで財産を受け継ぐ場面は、以下のような理由からトラブルが発生しやすいといえます。
- 分割しにくい資産(不動産、美術品など)が含まれている
- 生前の援助や特別受益の有無による不公平感
- 相続人が多くなり意見をまとめにくい
- 感情面での対立が解消されにくい
こうしたリスクを軽減するためには、まず相続人の範囲を正確に確定し、財産の全体像を把握した上で、公平で納得感のある形を追求することが大切です。具体的には以下のポイントを押さえておきましょう。
- 専門家を積極的に活用する: 弁護士や司法書士、税理士のサポートにより、手続きや法的リスクを把握しやすくなる。
- 不動産の共有を避ける工夫: 代償分割などを検討し、後々の管理や売却に伴うトラブルを回避。
- 生前の話し合いや遺言書の整備: 親が元気なうちに将来の方針を決めておくことで、残された兄弟間の紛争を防げる。
いざというとき、初動を間違うとトラブルが長引いて家族関係が壊れてしまう恐れもあります。兄弟同士の絆を守りながら、スムーズに財産を分けるためにも、早めの段階で正確な情報収集と対策を講じることが肝心です。家族で話し合うのが難しい場合は、迷わず専門家に相談し、冷静かつ公正な解決を目指しましょう。