弁護士コラム

「不貞行為」と認められる範囲とは?補償をめぐる基準と請求の流れを徹底解説


パートナー以外との親密な関係が発覚し、精神的に大きなショックを受けた場合、損害に対する補償(いわゆる“慰謝料”)を請求できる可能性があります。とはいえ、「どの程度の行為から法的に問題となるのか」「具体的にどのように証拠を集め、どんなプロセスで主張するのか」など、疑問や不安を抱える方は多いのではないでしょうか。

本記事では、そうしたパートナーの裏切りにまつわる問題で、精神的苦痛の補償を請求できる範囲・条件を中心に、請求の相場や手続きの流れ、注意点などをわかりやすく解説していきます。法律的な位置づけや裁判例を交えながらお伝えしますが、個別のケースによって判断が変わる場合もあります。最終的には専門家(弁護士)に相談することが安心ですが、まずは大まかな知識を身につけることで、今後の行動を検討するきっかけにしてみてください。

不貞行為と法律上の意味

民法上の不法行為

夫婦のどちらかが別の異性と性的な関係を持つ行為は、民法上「不貞行為(ふていこうい)」と呼ばれます。これは配偶者としての義務に違反する行為とされ、不法行為に当たる可能性が高いのです。つまり、法律上は相手方が夫や妻として守るべき誠実義務に背いたとみなし、被害を受けた側が精神的苦痛を受けた場合は補償を求められる仕組みになっています。

婚姻関係の破綻との関連

不法行為として認められるか否かは、夫婦関係の存続状況も関わってきます。すでに婚姻関係が事実上破綻していた(長期間の別居や離婚協議が長期に及んでいるなど)と判断されれば、「不法行為」(民法709条)として扱われない場合もあります。つまり、当事者同士の事実婚状態や別居状況などによって、補償の可否が変わる点には注意が必要です。

「どこから」が問題になる具体的な判断基準

一般的には「肉体関係」の有無

裁判所などの判断では、ふつう性的関係があったと立証される場合を「不貞」と認定することが多いです。デートや手をつないだ、会って食事をしたといっただけでは、通常は精神的苦痛の補償を認めるまでには至らないケースがあります(もっとも、親密交際と認定される可能性はあります。)。

ただし、状況によっては、明らかに一線を越えた親密さがうかがえ、周囲から見ても配偶者以外の恋人として事実上の関係性が続いていたようなケースでは、「社会通念上許される範囲を逸脱している」と判断される可能性が出てくるのです。

過去の裁判例でも「性的関係」の有無が争点

多くの事例において、相手方が「肉体関係はなかった」と主張し、逆に被害を受けた側は「関係があった」と立証を試みる、という争いが行われています。裁判所は証拠を総合的に判断し、「通常の男女交際の範囲を超えるか否か」を探るわけです。結局のところ、最も大きな基準となるのは性的接触の有無である場合がほとんどと言えるでしょう。

メールやSNSのやり取りは対象になるのか?

メールやチャットのみでは難しい場合が多い

もし浮気相手とメールやSNSのダイレクトメッセージなどで頻繁にやりとりをしていたとしても、それだけで不法行為と断じられるかどうかは微妙なところです。いわゆる“ラブレター”のような内容がやりとりされていても、「肉体関係を持った証拠」とは限りません。

他の証拠との組み合わせで有効となる例

ただし、このようなメッセージのやり取りが、宿泊先のやりとりや密会の日時の打ち合わせを示唆する内容であったり、実際に同じホテルや相手の家へ出入りする写真・動画などと結びつけば、大きな証拠力を発揮する可能性があります。チャットやメール単独では不十分でも、関連する証拠と総合的に見て「不貞があった」と判断されるケースもあるのです。

抱擁やキスのみの場合の取り扱い

ケースバイケースだがハードルは高い

手をつないだ、ハグをした、キスをした程度で法律上の不貞行為と認定されるかについては、一般的には非常に判断が難しいところです。単なる好意の表れや勢いでのキスなど、状況によっては「性的関係に至った」証拠にはなりにくいといえます。

周囲から見て「夫婦関係を侵害した」といえるか

一方で、もしキスや抱擁が既に何度も繰り返され、周囲から見ても恋人同士のような関係性を築いていた、あるいは日常的に夜間に二人きりで過ごしていたという事情があれば、実質的に不倫関係に近いと裁判所が判断する可能性もあります。とはいえ、単なるキスだけでは不法行為と断じるのはハードルが高いのが現状です。

実際に発生する補償額の相場

一般的な相場は数十万~300万円程度

配偶者の裏切りによる精神的苦痛を金額に換算するのは難しいですが、日本の裁判実務上は、数十万円から300~400万円程度が多いとされています。相手方の身分(配偶者が既婚者であると知りながら行為に及んだかどうか)や婚姻期間の長さ、不倫によって夫婦関係が破綻したか否か、子どもの有無、経済力など、さまざまな事情が考慮されます。

高額となるケース

  • 長期間にわたる関係が続き、実質的に夫婦同然の生活をしていた
  • 相手方が積極的に配偶者を離婚へ追い込むような行為をした
  • 子どもがいるにもかかわらず、悪質な手口で関係を続けた
  • 世間的に著名な人物であり、社会的評価の低下に大きな影響が生じた

こうした場合、300万円を超える金額が認められる可能性もあります。

証拠の重要性と集め方のポイント

不貞を立証するための証拠

  • ラブホテルや部屋への出入りが分かる写真や動画
  • 交通系ICカードやクレジットカードの利用履歴、宿泊先の予約履歴
  • 二人だけで移動した際のETC記録
  • 親密な内容を示すLINEやSNSのメッセージ履歴
  • 興信所による調査報告書

これらの証拠が複数組み合わさり、総合的に判断されて「肉体関係が推認される」場合に不貞行為として認められることが多いです。

集め方の注意点

不当な方法、たとえば部屋に無断で盗聴器を仕掛ける、勝手にSNSアカウントをハッキングするなどの行為は、逆にこちら側が違法行為に問われる可能性もあります。証拠集めをする際は、法律の範囲内で冷静に進めることが大切です。専門家や興信所に依頼する場合でも、違法行為は行っていないか事前に確認しましょう。

法的手続きの流れと進め方

任意交渉から始めるケースが多い

不貞の問題が明らかになった場合、いきなり裁判を起こすよりも、まずは相手側に補償を求める内容証明郵便を送付して、話し合いの場を設けるケースが一般的です。ここで示談として合意に至れば、示談書を作成し、一定の金額を支払ってもらうことで解決することもあります。

裁判手続きへ移行する場合

話し合いで合意が得られない場合は、民事裁判で補償の請求を行うことになります。訴状を裁判所に提出し、証拠を示して不貞行為の事実と損害の発生、そして因果関係を立証していく流れです。裁判では主に書面と証拠をもとに進められ、口頭弁論や証人尋問を経て、最終的に判決が下されます。

慎重に考えたい示談交渉の進め方

示談書を作成するメリット

示談交渉によって相手方が認め、解決金を支払う意思を示したときには、書面(和解契約書・示談書)を必ず作成するようにしましょう。口頭での約束だけでは証拠が残らないため、後々「そんな約束はしていない」と言い逃れされる可能性があります。書面を作成すれば、支払期限や分割払いの回数、支払いが遅れた場合の対処などを明確に定めることができ、トラブル防止につながります。

弁護士への依頼も検討

示談交渉は感情的になりやすく、適切な着地点を見つけにくい場合が多々あります。金額の妥当性や証拠の整理、また相手方の主張に対する反論など、法律の専門知識が必要になる場面も少なくありません。場合によっては専門家を通すことで、スムーズに話がまとまる可能性も高まります。

離婚や婚姻継続と請求の関係

離婚しなくても補償は請求可能

配偶者の不倫が判明したからといって、必ずしも離婚しなければ補償を請求できないわけではありません。「精神的苦痛に対する支払い」を求める権利は、婚姻を継続しているか否かとは直接関係がないためです。ただし、婚姻継続の意思がある場合、金額はやや低めに評価される可能性もあります。

離婚をする場合の扱い

一方で、不倫が原因で離婚に踏み切る場合には、慰謝料に加えて養育費や財産分与なども絡んでくるので、トータルな観点で話を進める必要があります。不貞行為の責任を負わせる形で、離婚条件の交渉を有利に進められる可能性もありますが、逆に協議が長期化し、精神的負担が大きくなるリスクにも注意しましょう。

補償請求で気をつけたい注意点

時効の問題

不法行為による損害賠償請求には時効があります。原則として、損害及び加害者を知ったときから3年間、または不法行為が行われた時から20年間が経過すると請求権が消滅してしまいます。早期の段階で行動を起こすことが大切です。

相手の資力を考慮

たとえ裁判で高額な判決が出ても、相手に十分な支払い能力がなければ、実際の回収が困難になるケースもあります。示談や分割払いの設定を考慮しながら、現実的な落としどころを模索する必要があるでしょう。

感情的対立の激化

不倫問題は当事者にとって感情的負担が大きく、お互いの対立が激化しがちです。泥沼化すると、お子さんがいる場合には子どもの心にも大きな影響を及ぼす可能性があります。話し合いの場を持つにしても、必要以上に感情をぶつけ合うのではなく、あくまで冷静に事実を確認しながら手続きを進めることが望ましいでしょう。

まとめと今後のアクション

パートナーが配偶者以外の人物と深く関わりを持つことは、大きな精神的ショックをもたらします。ただし、法律上の「不貞行為」と認められるには、基本的に性的関係の存在がポイントになります。メールやSNSのやり取り、キスや抱擁などの行為だけでは補償を求めるのが難しいケースも多いですが、関連証拠を複数組み合わせることで実態を立証できる場合もあります。

また、請求できる補償額の相場は数十万~300万円程度が目安とされ、婚姻期間や子どもの有無、離婚に踏み切るかどうかなど、諸要素によって変わります。支払い能力や今後の家庭状況も考慮したうえで、示談交渉か訴訟手続きかを選択するのが一般的な流れです。

不倫問題は当事者同士の感情面でもつれやすく、時間をかけてしまうと時効が成立して請求が難しくなることもあるため、気づいたら早めに専門家へ相談することが得策です。法律の専門家にアドバイスを受けながら、落ち着いて最善の解決策を模索してください。