一緒に暮らすことが難しくなり、夫婦がそれぞれの道を歩む決断を下すとき、多くの方が「子どもをどのように育てていくか」「精神的な苦痛に対する金銭補償はどうなるか」について頭を悩ませるのではないでしょうか。
これらは単にお金の問題にとどまらず、子どもの将来や自分の生活の安定を左右する重要なポイントです。ところが、いざ具体的な話し合いを始めると、互いの希望や事情が複雑に絡み合い、結論を導くのは容易ではありません。
本記事では、主に二つの金銭面の課題――子どもに必要な費用の負担方法と、精神的苦痛への補償――を中心に解説していきます。法律上どのような仕組みになっているのか、金額はどう決まるのか、合意をとりつけるにはどんな方法があるのか、そして万が一支払いが滞ったときにどう対処すればよいのかなど、知っておくべきポイントを分かりやすくまとめました。ぜひ参考にしてみてください。
目次 [閉じる]
家庭を解消する際の主な金銭トラブルとは
夫婦が別々の道を歩むことになった場合、金銭的には大きく3つの論点が考えられます。
- 共有財産の分配(財産分与)
夫婦の生活の中で築いた貯金や不動産などをどのように分けるかという問題です。 - 子の養いに関する費用(養育費)
未成年の子どもがいる場合、両親のどちらか一方がひとりで背負うわけにはいきません。親としての責任から、子どもの生活や学費などの負担を取り決める必要があります。 - 精神的なダメージへの償い
例えば、不貞行為(パートナー以外との男女関係)や暴力行為など、片方の明らかな非によって家庭が崩壊した場合、心の傷に対する金銭的補償を求めるケースが多いです。
今回は特に、2番目と3番目にあたる「子どもの生活費」と「心的ダメージへの償い」に焦点を当てて解説を進めます。
子どもの生活費はどのように決まるのか
法的に親が負う義務
未成年の子どもがいる場合、法律上は両親ともに「子を育てる義務」を負っています。たとえ夫婦が離れて暮らすことになっても、その責任はなくなりません。一般的に子どもと一緒に住まない側(非監護親)が、もう一方の親(監護親)に対して毎月一定額を支払うことで生活費や教育費をまかなう仕組みになっています。
金額の目安
日本の裁判所は、支払額を計算する際の大まかな基準として「算定表」を公表しています。これは両親の年収や子どもの人数・年齢などをもとにした目安で、家庭裁判所の調停・審判でもしばしば引用されます。実際には下記のような要素も考慮され、最終的に当事者同士で合意した金額で決定されます。
- 親の収入・資産状況
- 子どもの人数と年齢
- 子どもの特別な事情(障がいや、私立学校・習い事など)
- 親の再婚や新たな子どもの誕生による生活環境の変化
算定表をあくまで「目安」として、当事者間で話し合い、必要に応じて家庭裁判所の調停を利用しながら決定していくケースが大半です。
支払いの期間
原則としては子どもが成人年齢に達するまでとされることが多いですが、大学進学や留学などが予定されている場合には、期間や金額を柔軟に見直すこともあります。
一度取り決めた内容でも、親の収入変動や子どもの進学状況の変化があれば、増額・減額の交渉を行うことが可能です。話し合いがつかない場合は、やはり家庭裁判所に調停申し立てをすることになります。
精神的な苦痛への補償はどんなときに発生?
法律上の根拠
一般的に夫婦関係が破綻した原因が相手の不法行為にあるとき、精神面のダメージに対する金銭的な負担を求めることができます。具体的には民法や不法行為法の規定が根拠となり、家事事件としては家庭裁判所、あるいは民事訴訟として地方裁判所などで請求がなされることもあります。
発生しやすい具体例
- 配偶者が浮気をした場合
配偶者だけでなく、浮気相手に対しても請求できるケースがあります。 - 暴力行為があった場合
殴る蹴るなどの身体的暴力だけでなく、精神的な嫌がらせ(モラハラや言葉の暴力など)も対象となり得ます。 - 長期間のセクシャルハラスメントや過度な束縛
社会通念上「やりすぎ」とみなされる行為に対しては請求が認められる場合があります。
金額の相場
心的ダメージを金銭的に評価するのは難しく、裁判所の判断や当事者間の話し合いによって幅がありますが、以下のような要素を総合的に考慮して額が決まることが多いです。
- 結婚生活の長さ
- 配偶者の行為の悪質性(不倫期間の長さ、DVの回数や激しさなど)
- 被害者側の受けた影響(精神的苦痛が大きく、通院が必要になったなど)
- 双方の収入や資産状況
統計的には数十万円から数百万円程度が多いものの、中には数百万円以上となる例もあります。また、話し合いの段階か裁判での判決かによっても大きく変わるため、一概に「相場」を提示するのは難しいと言えます。
どのようにして話し合いを進めるのか
夫婦間での協議
まずは当事者同士の話し合いで合意を目指すのが基本です。ただし、お互いに感情的になりやすいタイミングでもあるため、冷静な交渉が難しい場合が多々あります。話し合いがうまく進まないのであれば、弁護士など第三者を間に入れるのもひとつの手です。
調停手続きの利用
当事者同士の話し合いが決裂した場合、家庭裁判所での調停を活用できます。調停委員という第三者が双方の意見を聞きながら、合意に向けた仲介を行ってくれる手続きです。
- 調停で話し合いがまとまれば「調停調書」が作成される
→ 公的な文書となり、強制力もある - 調停が不成立の場合
→ 審判へ移行、あるいは民事訴訟(裁判)へ進むケースもあり
公正証書での取り決め
「公正証書」は公証役場で公証人が作成する公式な書類です。ここに、毎月の生活費負担や精神的ダメージへの支払いなどに関して「支払わなかった場合には強制執行を受けても異議を述べない」旨を盛り込むと、後々トラブルが発生した際に強制執行で回収が容易になります。
公正証書を作成しておくメリットは大きく、特に長期間にわたって定期的に金銭を受け取る予定がある方には強く推奨される方法です。
「子どもの生活費を払ってもらえない」ときの対処法
まずは内容証明郵便で正式に請求
毎月の生活費が滞ったり全く支払われなくなった場合、口頭での催促だけでは相手が応じないケースもあります。そこで、まずは内容証明郵便を送って書面で支払いを求めることが重要です。これは、後々の法的手続きの際に「請求した」という事実を明確に示す証拠になります。
家庭裁判所での履行勧告・履行命令
すでに家庭裁判所の調停調書や審判書、公正証書などの公的な書面があれば、家庭裁判所に「履行勧告」や「履行命令」を申立てることができます。これは、裁判所が「支払いをしなければならない義務がある」と改めて相手に説示する制度です。命令を無視される場合でも、心理的なプレッシャーを与える効果があります。
強制執行(差し押さえ)
それでも支払いが行われない場合、給与や銀行口座を差し押さえる「強制執行」に踏み切ることが可能です。前提として「債務名義」と呼ばれる強制力のある文書が必要で、具体的には調停調書や審判書、公正証書に強制執行認諾文言があるものが該当します。
相手の勤め先や銀行口座を把握していれば、そこをターゲットに差し押さえの申立てを行うことができ、給料から毎月一定額が自動的に回収されるケースが一般的です。
「精神的なダメージの補償を払ってもらえない」ときは?
示談書や合意書をしっかりと作成する
精神的苦痛に対する金銭補償を認めてもらっても、実際に支払いが滞るリスクは否定できません。口頭の約束だけでは確実性に乏しいので、公正証書や合意書(調停調書など)として正式に取り決めておくことが大切です。ここでも「強制執行認諾文言」の有無が重要なカギとなります。
裁判・強制執行を視野に入れる
示談や調停で合意が成立しているのに支払わない場合、またはそもそも話し合い自体が決裂してしまった場合は、地方裁判所等での訴訟手続きを検討する必要があります。勝訴判決を得れば債務名義となり、その後は強制執行の申立てに踏み切れます。
ただし、相手に資力がない(無職、財産なしなど)場合は、実際に回収できるかどうかは別問題となってくるため注意が必要です。
専門家の力を借りるメリット
弁護士への相談
子どもの生活費や精神的ダメージへの補償が絡む問題は、感情的対立も激化しやすく、話し合いがスムーズに進まないことが多々あります。弁護士に依頼すれば、以下のようなサポートを受けられるでしょう。
- 示談交渉の代理
- 公正証書や合意書作成時のリーガルチェック
- 裁判手続きや強制執行の代行
特に、相手が支払いに応じるか不透明なケースでは、専門家が間に入ることで安心感が得られるだけでなく、相手にも真剣さを伝えやすくなります。
司法書士・行政書士
公正証書の作成支援や内容証明の文面作成など、書類作成の側面で心強い味方となるのが司法書士や行政書士です。手続きの範囲や代理権の限界があるため、複雑な問題の場合は弁護士のほうが幅広く対応できますが、比較的費用を抑えたい場合などは検討してみるとよいでしょう。
公的機関の支援
費用面で専門家へ依頼しにくいと感じる場合は、法テラス(日本司法支援センター)の無料相談や費用立て替え制度(兵庫県明石市などで実施されています。)などを活用する方法があります。一定の収入要件等を満たす場合には、相談料が無料になったり、弁護士費用を後払いできたりするため、まずは問い合わせてみる価値があります。
まとめ
家庭を解消し別々の道を歩むと決めたとき、やはり気になるのは経済的な問題です。子どもの成長にかかわる資金はもちろん、相手の重大な過失によって深い心の傷を負った場合の金銭補償も見逃せません。
- 子どもの生活費は「両親の収入状況」や「子どもの年齢や人数」などを踏まえて話し合う。公的な算定表が一つの目安。
- 心のダメージの補償は、不貞やDVといった行為があった場合に発生し得る。金額はケースバイケース。
- 合意がまとまっても支払いが滞る場合があるため、公正証書や調停調書などの公的書面を作成し強制執行が可能な状態にしておくのが安心。
- 相手が支払わない場合は、内容証明郵便での催促からはじめ、調停・履行勧告・強制執行など段階的に手続きを進める。
- 弁護士や司法書士への相談、法テラスなどの公的支援を活用すれば、スムーズな解決を図りやすい。
家族という特別な絆があったからこそ、感情的なしこりや話し合いの難しさが生じるものです。しかし、金銭面の問題を曖昧にしたまま放置すると、自分だけでなく子どもにも大きな負担を強いることになりかねません。自分たちの将来、そして子どもの幸せを守るためにも、必要であれば早めに専門家に相談し、冷静かつ法的に正しいステップを踏んで解決を目指していきましょう。