円満な遺産の分け方を理解する:スムーズな相続を実現するための基礎知識

人生の大きな節目の一つに挙げられるのが、親や祖父母などが残した財産を受け継ぐ手続きです。財産の分配をめぐって家族や親族で揉めることはできるだけ避けたいものですが、実際には「どのように遺産を配分すればいいのか」「そもそも法的な取り決めはどうなっているのか」など、わからないことが多いのではないでしょうか。
本記事では、後までご覧ください。民法が定める取り分の基準から、家族構成に応じた具体的な振り分け方、スムーズに話を進めるためのポイントまでを詳しく解説します。初めてこのトピックに触れる方はもちろん、すでに知識をお持ちの方にも役立つ情報をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。
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相続の基本事項を押さえよう
誰が受け継ぐ権利を持つのか
「遺産をどのように分配するか」を考える前に、まずは誰に権利があるのかを理解することが大切です。法律上、遺産を受け継ぐことができる人物を「相続人」と呼び、民法でその範囲や優先順位が定められています。
- 第一順位:子ども(養子を含む)
- 第二順位:父母などの直系尊属
- 第三順位:兄弟姉妹
配偶者は、必ず上記いずれかの順位の相続人と並んで遺産を受け取れることになっています(民法上、「配偶者は常に相続人」と規定されています。民法890条)。
法定取り分(いわゆる“法定相続分”)とは
法律が定めている分配率を指す言葉として、「法定相続分」があります。これは、遺言がない場合や、遺言書の内容に疑義が生じた場合などに適用される基準です。下記のように、被相続人の家族構成によって法律上の取り分が変化します。
- 配偶者 + 子ども
- 配偶者:1/2
- 子ども:1/2(子どもの人数で等分)
- 配偶者 + 直系尊属(父母など)
- 配偶者:2/3
- 直系尊属:1/3(人数で等分)
- 配偶者 + 兄弟姉妹
- 配偶者:3/4
- 兄弟姉妹:1/4(人数で等分)
- 子どものみ
- 全体を子どもで等分
- 兄弟姉妹のみ
- 全体を兄弟姉妹で等分
ただし、被相続人が生前に遺言書で別の配分を指定していた場合は、その遺言の内容が優先されます。しかし、たとえ遺言があっても、遺留分が保障されているため、遺留分を下回る分配は、別途争いが起きる可能性があるため注意が必要です。
家族構成別で見る実際の振り分け方
相続は個々の家族で事情が異なるため、法定相続分を一律にあてはめるだけではスムーズにまとまらないことも少なくありません。以下では、主な家族構成の場合にどのように配分が行われるのか、またどのような点に配慮するとよいかを解説します。
配偶者と子どもがいる場合
もっとも一般的なケースが、配偶者と子どもが共同して財産を受け継ぐ形です。法律上の配分は「配偶者が2分の1、子どもが2分の1を等分」となります。しかし、下記のようなポイントをふまえて検討すると、法定の割合から外れた形の協議になることもしばしばです。
- 住居の扱い
被相続人名義の自宅がある場合、配偶者が今後も住み続けるケースが多いため、不動産を配偶者に多めに受け渡し、その代わりに金融資産を子どもが受け取るという調整が考えられます。 - 生前贈与とのバランス
特定の子どもが結婚や住宅購入などで多額の援助を受けていた場合、ほかの子とバランスが崩れないように調整することがあります。
配偶者と父母がいる場合
子どもがいない夫婦の場合、配偶者と直系尊属(父母)で遺産を分けることになります。法定取り分は、配偶者が3分の2、父母が3分の1を人数で等分する形です。
- 親世代の財産との関係
父母が高齢であることが多く、受け継いだ財産をさらに相続する可能性もあります。こうした将来の連鎖的な手続きを見越して、生前に話し合っておくと争いが起こりにくくなります。 - 遺言書での配慮
子どもがいない場合、配偶者にすべてを残したいと考えるケースも珍しくありません。その場合は、遺言書でその旨を明記することが有効です。ただし、最低限の取り分(遺留分)にも注意しながら作成しましょう。
配偶者と兄弟姉妹がいる場合
子どもも父母もいない場合、配偶者と兄弟姉妹が遺産を受け継ぐことになります。法律で定められた配分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1を人数で等分する形です。
- 兄弟姉妹の数が多い場合の調整
兄弟姉妹が複数いると、誰がどの程度を受け取るか細かな摩擦が生じやすくなります。特に、遠方に住んでいる兄弟姉妹や、被相続人とほとんど交流のなかった人の場合、協議に消極的なことも。早めにコミュニケーションを取りましょう。 - 実子・養子・腹違いなど特殊な事情
兄弟姉妹には、両親とも同じ実子だけでなく、片方の親が違う場合や養子縁組による関係など、立場が異なるケースもあります。法律上は両親の一方しか共有していない兄弟姉妹だと受け継ぐ割合が異なる場合があります。専門家に相談すると安心です。
兄弟姉妹のみで分ける場合
配偶者・子ども・父母がいないケースでは、兄弟姉妹だけで遺産を分割することになります。法律上の取り分は、兄弟姉妹全員で均等に配分です。
- 相続人全員での合意が重要
兄弟姉妹だけの協議となるため、関係が疎遠であるほど話し合いが難航することがあります。特定の兄弟姉妹が被相続人の介護を担っていた場合、その努力を考慮したいという声があがるのもよくあるパターンです。 - 遺言の有無を確認
被相続人が遺言を残している場合は、それに基づいて分配されることになります。相続手続き開始前に必ず遺言の存在を確認しましょう。
財産の種類と配分を考えるポイント
不動産の取り扱い
遺産の中に住居や土地などの不動産が含まれる場合、その扱いが相続の争点になりやすいです。理由としては、「分割が難しい資産である」「評価額と実際の売却価格に差が出やすい」などが挙げられます。
- 共有名義にした場合のリスク
複数の相続人で共有名義にすると、後々の売却や活用にあたっては、全員の同意が必要になるため、意思決定が難しくなります。可能ならば誰か一人に名義をまとめ、他の人は現金や金融資産を受け取る形が望ましい場合が多いです。 - 代償分割の活用
たとえば長男が家を継ぐかわりに、ほかの相続人に代償金(家の評価額に見合った分のお金)を支払う方法があり、これを「代償分割」と呼びます。家庭裁判所の調停や裁判になる前に、協議で合意できればベストです。
預金・株式など金融資産
金融資産は比較的分割しやすいですが、以下の点に注意しましょう。
- 金融機関の手続き
各銀行・証券会社ごとに必要書類や手続きが異なります。口座が凍結されてしまうと、名義変更や払い戻しの手続きがまとまるまで資金を動かせません。早めに必要書類を確認し、戸籍謄本や印鑑証明を用意しておきましょう。 - 評価のタイミング
株式や投資信託などは、評価額が変動します。話し合いの時期と実際に名義を変更するタイミングによっては価値が大きく変化している可能性もあるため、どの時点で評価するかを事前に決めておくとトラブルを減らせます。
借金や保証債務などのマイナス資産
被相続人にローンや借金があった場合、それらは全相続人が法定取り分の割合で負担する形となります。さらに、連帯保証人になっていたケースなども含めると、思わぬ負債が見つかることもあります。
- 相続放棄や限定承認も検討
負債が財産を上回りそうなときは、相続そのものをやめる「相続放棄」や、プラスの財産とマイナスの財産を精算した結果の範囲内で責任を負う「限定承認」を検討する余地があります。ただし、これらの手続きには期限があり(原則として被相続人の死亡を知ってから3か月以内)、裁判所での手続きが必要です。 - 保険の受取人の確認
生命保険金は基本的に「受取人固有の財産」とされ、相続手続きの対象ではありません。ただし、受取人に指名されている人物が亡くなっている、あるいは受取人変更の手続きが未完了の場合など、複雑な状況も考えられます。必ず証券や約款を確認してください。
遺産分割協議と話し合いの進め方
遺産分割協議とは
被相続人が遺言書を残していない、もしくは遺言書の内容でカバーされない部分を決めるために行うのが遺産分割協議です。法定取り分に沿って話を進めるのが一般的ですが、当事者全員が合意すれば、法定の配分とは異なる形でも成立します。
手順の例
- 相続人の確定:戸籍謄本などを取り寄せて、全員が揃っているかを確認
- 遺産の調査・確定:不動産、預貯金、有価証券、負債などをリスト化
- 各種評価額の確認:固定資産税評価額や時価などを調べる
- 分配案の作成:誰がどの財産をどれだけ受け取るか具体的に提示
- 協議書の作成と署名捺印:合意内容を文書化し、全員がサインする
争いを避けるための工夫
- 早めに話し合う
「後でいいだろう」と先延ばしにすると、遺産を管理する人の負担が大きくなりがちです。相続税の申告など期限がある手続きも存在するため、できるだけ速やかに着手しましょう。 - 感情面の配慮
法定取り分はあくまで目安です。実際には、介護に尽力した家族や同居していた人、遠方でなかなか実家に帰れなかった人など、それぞれの事情があります。「それぞれが不満なく納得できる」分配を目指すことが円満解決へのカギです。 - 専門家への相談
相続税がかかる規模の財産がある場合や、共有名義を避けるための不動産の分割が難しい場合などは、弁護士や税理士、司法書士に助言を求めるとよいでしょう。思わぬトラブルや申告漏れを未然に防ぐことができます。
遺言書を活用してスムーズに進める
遺言書の種類
被相続人が「どのように遺産を分割してほしいか」をあらかじめ記したものが遺言書です。これが残されていれば、基本的にはその内容が優先されます。代表的な書式として以下があります。
- 自筆証書遺言:本人が全文を手書きで作成し、署名・押印する形式
- 公正証書遺言:公証役場で公証人が作成する、公文書としての証拠力が高い形式
- 秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま公証役場で証明を受ける形式(あまり利用されない)
遺留分に注意
遺言書で財産を自由に分配しても、法律上、特定の相続人には最低限の取り分を保障する制度が存在します。それが「遺留分」です。
- 遺留分の対象者:配偶者、子ども、直系尊属(父母など)
- 兄弟姉妹には遺留分がない
- 侵害されたら減殺請求(現在は遺留分侵害額請求)を受ける可能性
たとえば、子どもがいるのに全財産を配偶者に譲るという遺言を書いた場合、子どもは遺留分を主張して遺産の一部を請求することができます。
遺言書がある場合の手続き
- 遺言の存在を確認
安易に相続放棄などをしてしまう前に、まず遺言書があるかどうかを確認します。自筆証書の場合は、法務局の自筆証書遺言保管制度を利用しているかもしれません。公正証書遺言であれば、公証役場で検索も可能です。 - 検認手続き(自筆証書や秘密証書の場合)
遺言書が自筆や秘密証書の場合は、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要です。勝手に開封してはいけません。検認自体は遺言書の有効性を判断するものではなく、偽造や変造を防ぐための手続きです。
よくある質問と対策
「話し合いがまとまらないときはどうしたらいい?」
当事者同士で合意できない場合、まずは法律の専門家(弁護士など)を交えて調停を試みるのが一般的です。それでも合意に至らない場合には、家庭裁判所に「遺産分割の調停」や「審判」を申し立てることが可能です。最終的には裁判所が決定しますが、できるだけ話し合いで決着をつけることを目指しましょう。
「遠方に住んでいて、手続きが難しい場合は?」
印鑑証明書や署名捺印が必要な書類は郵送でも対応できます。また、司法書士や行政書士に手続きを代行してもらうことも可能です。家族間の連絡が取りづらい場合は、グループチャットやオンライン会議を利用してスムーズに情報共有できる環境を整えましょう。
「生前に確定しておく方法はある?」
生前贈与や「死因贈与契約」、あるいは「生前贈与契約書」を交わすという選択肢があります。ただし、贈与税の問題や、他の相続人の遺留分をどう考えるかといった課題もあるため、専門家とよく相談して決めると安心です。公正証書遺言を利用して、被相続人が生前のうちにしっかりと自身の遺産分割の意思を示すことも有効です。
「法定の取り分を上回る譲り受けはできるの?」
相続人全員の同意があれば、法定取り分より大きな割合を受け取ることは可能です。遺産分割協議書を作成し、全員が納得して署名・捺印すれば成立します。ただし、遺留分を侵害しないように注意が必要です。
まとめ
相続財産の分配は、法律が定めるベースラインがあるとはいえ、実際は家族一人ひとりの状況によって最適な形が異なります。住まいの問題や、介護・生前贈与などの事情、財産の種類や負債の有無といった要素を考慮しながら、当事者全員が納得できる着地点を見つけることが大切です。
遺言書が残されている場合は、それに従うのが原則ですが、最低限の取り分を守る遺留分との兼ね合いや、遺言書の効力に問題がないかの確認も必要となります。また、実際の手続きには戸籍謄本の取り寄せや銀行・証券会社での名義変更など、思った以上に時間と手間がかかるものです。
円満な分配を実現するためのポイントとしては、以下が挙げられます。
- 相続人の確定:戸籍の確認や専門家への相談などで早めに正確な対象者を確定する
- 財産の把握:不動産、預貯金、株式、保険、負債などをリスト化する
- 話し合いの場を設ける:遺産分割協議は全員が納得するまで根気強く行う
- 専門家の活用:不動産評価や税金の問題は専門家に相談するとスムーズ
- 遺言書の活用:生前に被相続人が意思を示しておくとトラブルリスクが減る
家族や親族間での争いを回避するためにも、普段から情報を共有し、生前・死後を問わず早めに対応することが大切です。もしご自身のケースが複雑に感じる場合は、弁護士や税理士などのプロにアドバイスを求めると安心でしょう。必要に応じて専門家をうまく活用しながら、スムーズに進めていただければと思います。

この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。
