婚姻費用と住宅ローンの負担はどう決まる?離婚・別居時のトラブルを回避するための完全ガイド

結婚生活を送るうえで、住居は夫婦にとって大切な基盤です。その一方で、住宅ローンを抱えたまま夫婦関係が悪化し、離婚や別居の可能性が出てくると、「婚姻費用」の支払いと「住宅ローン」の負担をどのように扱えばよいか悩む方が多いのではないでしょうか。
本記事では、婚姻費用・住宅ローンの基本的な考え方から、夫婦が別居・離婚に至った場合の負担の仕方、話し合いがまとまらない場合の解決策などを詳しく解説します。夫婦間のトラブルを回避し、スムーズに合意を目指すためにも、ぜひ最後までお読みください。
目次 [閉じる]
婚姻費用とは何か?
婚姻費用の定義
「婚姻費用」とは、法律上の夫婦が共同生活を送るうえで必要となる費用全般を指します。具体的には、家賃・食費・光熱費・子どもの教育費・医療費など、夫婦や子どもが生活するために必要な費用が挙げられます。民法では、夫婦は互いに協力し、扶助し合う義務があると定められており、この義務を具体化したものが婚姻費用の分担義務です。
婚姻費用の特徴
- 夫婦が正式に離婚するまでが対象
別居中でも、婚姻関係が継続している限り、婚姻費用の支払い義務が生じます。 - 算定表による計算が一般的
家庭裁判所では、「婚姻費用算定表」を参照して、夫婦それぞれの収入や子どもの数などをもとに決定するのが通例です。
婚姻費用の支払いにまつわるトラブル
別居や離婚協議中の夫婦は感情的な対立が激しくなる傾向があるため、婚姻費用の支払いを巡って揉め事が起こりやすいです。特に住宅ローンの負担問題が絡むと、「なぜ自分だけが負担しなければならないのか」「そもそも住宅はどちらが使うのか」といった争点が生まれやすくなります。
住宅ローンの基本と夫婦の共有名義
住宅ローンとは
自宅を購入する際、金融機関などから資金を借り入れ、長期的に返済する仕組みが住宅ローンです。多くの場合、借入名義人がローン契約を結び、毎月の返済を行う形となります。
共有名義のケース
夫婦共同で住宅を購入する際に、共有名義でローンを組むことがあります。具体的には、夫と妻のそれぞれが金融機関から連帯債務者として借り入れる方式や、連帯保証人としてどちらかが保証をする方式などがあります。
- 連帯債務:夫と妻が共に主たる債務者となり、それぞれが返済義務を負う
- 連帯保証:一方が主たる債務者、もう一方が連帯保証人となる
共有名義の場合は、双方に返済義務が存在するため、離婚や別居となったときに問題が複雑化しやすいです。
単独名義のケース
夫婦のどちらか一方が単独名義でローン契約をしている場合、形式上は名義人のみが返済義務を負います。ただし実際には、頭金を出した割合や婚姻費用の分担によっては、夫婦間で返済に協力していたケースも多く、その費用負担をめぐって争いが起きることがあります。
婚姻費用と住宅ローンが絡む具体的な問題点
別居中の住宅ローンは誰が払う?
別居すると、夫婦が同居していた住居をどちらが利用するか、あるいは空き家にするのかで負担の考え方が異なります。例えば、妻が子どもとその家に住み続け、夫が外で生活する場合、「住宅ローンを妻が支払うのか、夫が支払うのか」が大きな争点となります。
パターンA:名義人が別居先で暮らすケース
- 家に住んでいない名義人が住宅ローンを負担していると不公平感が高まる
- 一方で、名義人なので法的には返済義務は残る
パターンB:名義人がその家に住み続けるケース
- 同居していない側が「自分はもう住んでいないのに払うのか?」と不満を抱きやすい
- 住宅ローンが「家賃相当」と見なされる場合、婚姻費用の計算上、調整されることがある
「住宅ローン=婚姻費用」なのか?
婚姻費用とは、家族が生活するための費用全般を指します。一方、住宅ローンはあくまで「財産のための借入れ」であり、家族の居住費とも言えますが、財産形成の側面もあるため、婚姻費用に含めるかどうかはケースバイケースです。
家庭裁判所の実務上は、「家に居住している者が住宅ローンを負担しているなら、賃料相当額を婚姻費用から差し引いて計算する」という考え方が採用されることが多いとされています。
財産分与との関係
離婚が成立する際には財産分与の問題も出てきます。住宅ローン残債がある場合、売却や名義変更などの手続きも絡んでくるため、婚姻費用の支払いと合わせて話し合っておかないと、後からさらに紛争が拡大する恐れがあります。
婚姻費用・住宅ローンに関する法的な考え方
家庭裁判所の調停・審判
夫婦間での話し合い(協議)がまとまらない場合、家庭裁判所で調停または審判を行うことがあります。調停委員を交えて話し合う「調停」の段階で合意に至らないと、最終的には裁判官の判断による「審判」が下されます。
- 調停:第三者(調停委員)の仲介で合意を図る
- 審判:裁判官が事実関係を踏まえ決定を下す
算定表の扱い
婚姻費用については、夫婦の収入をもとに算定表を用いて算出するのが一般的です。ただし、住宅ローンの扱いをどうするかは、単なる算定表だけでは判断できない要素があります。例えば、妻が家に残る場合には「家に住むことで恩恵を受けている」とみなされ、婚姻費用から住宅ローン相当分が控除されるケースが多いです。
負担調整の実例
例えば「夫が住宅ローンをすべて負担する代わりに、妻が受け取れる婚姻費用を減額する」といった形でバランスを取ることがあります。家を利用していない夫がローンを全額支払うのは不合理と考えられるため、実務上は「妻が住む家のローン相当額を賃料分とみなし、婚姻費用から差し引く」などの調整を行う例がよく見られます。
具体的なトラブルと解決策
ケーススタディ:夫が単独名義でローンを組んでいたが、妻子が家に住み続ける場合
- 夫は別居先で生活費を賄う必要がある
- 妻子は住宅ローンの支払い義務はないが、夫が家賃収入を得られるわけでもない
- 婚姻費用の調整:妻に賃料相当分を負担させるか、婚姻費用から一定額を差し引くなどして調整
解決策としては、夫婦間の協議や家庭裁判所での調停を通じて「夫がローンを払い続けるが、その分婚姻費用は通常より減らす」などの取り決めが行われやすいです。
ケーススタディ:夫婦共有名義でローンを組んでいるが、離婚の話し合い中
- どちらか一方が家に残るのか、売却するのか
- 残債務をどのように負担するか
- 離婚後の財産分与との絡み
共有名義だと、離婚後の財産分与や名義変更もセットで話し合わないと、後々まで紛争が続く恐れがあります。たとえば、売却して得た金額からローンを完済し、余剰があれば折半、足りなければ負担割合を決めるなどが考えられます。
ケーススタディ:妻が単独名義でローンを組んでいたが、夫が別居時に返済を拒否
- 妻は収入が低く、ローン返済が負担になってしまう
- 夫婦の家計からローンを支払っていた場合、夫にも婚姻費用として負担が求められる
住宅ローンの名義人は妻でも、これまでは夫婦の共有の財布から返済を行っていたケースもあります。別居後は、話し合いがまとまらないと妻の支払い負担が一方的に増え、生活が成り立たなくなる可能性も。こういった場合は、婚姻費用分担の調停を利用して、夫に一部負担させる決定をもらうことが現実的です。
話し合いがまとまらない場合のステップ
夫婦間協議
まずは夫婦同士で話し合い、どのようにローンを支払うか、婚姻費用をいくらに設定するかを決めます。
- 話し合うポイント:家に誰が住むか、住まない側がローンをどの程度負担するか、子どもの生活費の取り決めなど
家庭裁判所の調停・審判
協議が決裂した場合は、家庭裁判所で「婚姻費用分担請求調停」を申し立てることが可能です。調停委員を交えた話し合いで合意が成立しない場合、裁判官が審判によって婚姻費用の金額や支払い方法を決定します。
離婚協議・財産分与
最終的に離婚が成立する場合は、財産分与や養育費などについても同時に話し合うことが多いです。住宅ローンの名義変更や売却に関しては、銀行の承諾が必要となるケースもあるため注意が必要です。
専門家の活用と早めの相談がカギ
弁護士への相談
離婚や別居のトラブルが複雑化している場合、弁護士に相談するのがおすすめです。法律的なアドバイスや書類作成、交渉の代理などを行ってくれます。住宅ローンを抱えていると財産分与や名義変更の問題も絡むため、早めに弁護士の意見を聞いておくと安心です。
司法書士・行政書士のサポート
住宅の名義変更や契約書類の作成などの手続きは、司法書士や行政書士が対応できる範囲もあります。ただし、離婚交渉や婚姻費用の額の交渉は法律行為の一種であるため、最終的には弁護士が適任となる場面が多いでしょう。
ファイナンシャルプランナー(FP)への相談
離婚後の生活設計や住宅ローンの返済計画を立てるには、ファイナンシャルプランナーのアドバイスも有用です。将来の収支を見据えながら、どのような形でローンを返済していくか、賃貸に出すのか売却するのかなど、多角的な視点からプランを練ることができます。
よくある質問(Q&A)
Q1:婚姻費用の計算に住宅ローンは必ず反映されますか?
A:必ずしも一律には反映されません。家に住んでいる側がローンを支払っている場合、そのローン分が「賃料相当」として婚姻費用の計算から差し引かれるケースが一般的です。ただし、状況によっては認められない場合や、差し引く金額に変動がある場合もあります。
Q2:別居後、配偶者が勝手に住宅ローンの支払いを滞納しています。自分には責任がありますか?
A:ローンの契約形態によります。共有名義(連帯債務や連帯保証など)であれば、相手方が支払いを滞納しても、自分に支払義務が及ぶ可能性があります。単独名義でも、婚姻費用として一定額を負担する義務が生じる場合がありますので、放置せずに早めに対策をとりましょう。
Q3:家庭裁判所の調停で合意が得られなかったらどうなりますか?
A:調停が不成立となった場合、審判に移行し、裁判官が婚姻費用の金額や支払い方法を決定します。審判の内容に納得がいかない場合、さらに高等裁判所への即時抗告という手段もありますが、時間や費用がかかる点は理解しておきましょう。
Q4:住宅ローンの名義人が家を出て行ってしまい、残された配偶者が支払いを続けています。後から返金を求めることはできますか?
A:夫婦が協力してローンを支払っていた事実などが認められ、なおかつ一方が居住していないにもかかわらず他方が全額負担した場合には、支払った分の一部を婚姻費用や財産分与の場面で調整・請求できる場合があります。ただし個別の事情を総合的に考慮されるため、必ず認められるわけではありません。
まとめ:婚姻費用と住宅ローンの問題をスムーズに解決するために
婚姻費用は、別居・離婚協議中の夫婦にとって欠かせない生活費の問題です。一方で住宅ローンは、夫婦が長年にわたって返済する必要がある大きな債務。両者が絡むことで、「どちらがどの程度負担すべきか」についてトラブルになるケースが少なくありません。
- 婚姻費用とは夫婦と子どもの共同生活にかかる費用全般を指す
- 住宅ローンの名義や共有状況によって責任の範囲が変わる
- 家庭裁判所では、実際の居住状況や各自の収入などを総合的に考慮
- 話し合いがまとまらなければ調停・審判手続きに進む
- 専門家(弁護士、司法書士、FP)に早めに相談するとスムーズ
離婚や別居に関する問題は感情的になりやすく、長期化すれば大きな負担となります。迅速かつ的確に対応するためには、夫婦間の情報共有や専門家への相談が欠かせません。住宅ローンに関しては、金融機関との交渉や財産分与の話し合いなども伴いますので、トータルで解決策を探る姿勢が大切です。
婚姻費用と住宅ローン問題を正しく理解し、適切な手続きを踏むことで、後々のトラブルを最小限に抑えることができます。家族の将来やお子さんの生活を守るためにも、早めに情報収集と対策を行い、最適な落としどころを見つけてください。
以上、婚姻費用と住宅ローンにまつわる複雑な問題を整理しながら解説しました。少しでも参考になれば幸いです。難しい判断が必要な場面があれば、遠慮なく法律や専門家の力を借りることをおすすめします。

この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。
