【現役弁護士が徹底解説!】発信者情報開示請求で冤罪!?もしトラブルに巻き込まれてしまったら
インターネットの普及に伴い、SNS(ソーシャルネットワークサービス)やオンライン上での誹謗中傷、名誉毀損、肖像権侵害などのトラブルが増加しています。これらの問題に対処するための法的手段として「発信者情報開示請求」が存在しますが、この制度には「光」と「影」の両面があります。本記事では、発信者情報開示請求の仕組みと、それに伴う冤罪のリスク、そして自身を守るための対策について詳しく解説します。
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発信者情報開示請求とは
発信者情報開示請求とは、インターネット上で違法または権利侵害の疑いのある投稿を行った人物の特定(情報開示)を目的として、プロバイダやウェブサイト運営者に対してその人物の個人情報の開示を求める法的手続きです。この制度は、2001年に制定された「プロバイダー責任制限法」に基づいています。
開示を請求できる情報には以下のようなものがあります。
- 発信者の氏名または名称
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
- IPアドレス
- タイムスタンプ
3.発信者情報開示請求と冤罪の関係性
冤罪の可能性
発信者情報開示請求制度は、誹謗中傷・名誉棄損の被害を受けた被害者の権利を守るための重要な手段ですが、同時に冤罪のリスクも孕んでいます。以下のようなケースで冤罪が発生する可能性があります。
- 誤認
自分が書いた覚えのない投稿について、誤って開示請求を受けてしまうケース。同姓同名や類似のユーザー名による混同が原因となることがあります。
- なりすまし
悪意のある第三者が被害者のアカウントを不正に利用し、問題のある投稿を行うケース。パスワード管理の甘さやフィッシング詐欺などが原因となることがあります。
- IPアドレスの共有
公共Wi-Fiスポットや企業のネットワークなど、複数の端末が同じIPアドレスを使用する環境では、実際の発信者の特定が困難になり、誤った人物が特定される可能性があります。
- 技術的な誤り
プロバイダ側のログ管理の不備や、システムエラーによって誤った情報が開示されるケース。
冤罪を防ぐためには
冤罪に巻き込まれた場合、以下のような対応が重要です。
- 冷静に対応
開示請求書が届いても慌てず、まずは状況を正確に把握することが大切です。
- 弁護士に相談
インターネット法務・誹謗中傷問題に詳しい弁護士に相談し、適切な対応方法についてアドバイスを受けましょう。
- 証拠集め
自分が発信者ではないことを証明できる証拠を収集します。例えば、
- 問題の投稿が行われた時間帯のアリバイ
- 別の場所でインターネットを使用していたことの証明(位置情報付きの写真など)
- アカウントの不正利用があった場合は、その証拠(不審なログイン履歴など)
- 開示請求への異議申し立て
請求内容に異議がある場合は、プロバイダーに対して文書で異議申し立てを行います。
- 訴訟への対応
必要に応じて、裁判で自身の無実を主張することも検討します。この場合、証拠の提出や証人尋問など、法的な手続きが必要となります。
発信者情報開示請求の流れ
- 違法行為の発見
被害者が誹謗中傷などの違法行為を発見します。
- プロバイダーへの削除要請
まず、該当の投稿の削除をプロバイダーに要請することが一般的です。
- 発信者情報の開示請求
削除だけでは不十分な場合には、プロバイダーに対して発信者情報の開示を請求します。
- プロバイダーの対応
プロバイダーは請求の妥当性を判断し、発信者に対して開示の可否について意見を聴取します。
- 開示または非開示の決定
プロバイダーは、法的要件を満たしているかを判断し、開示または非開示を決定します。
- 訴訟
プロバイダーが任意の開示に応じない場合、裁判所に提訴することができます。
冤罪を防ぐための対策
強固なパスワード管理
- 複雑なパスワードを設定し、定期的に変更する
- 二段階認証を利用する
セキュリティソフトの導入
- 信頼できるウイルス対策ソフトを導入し、常に最新の状態に保つ
- ファイアウォールを適切に設定する
不審なメールへの注意
- フィッシングメールに注意し、不審なリンクはクリックしない
- 添付ファイルは慎重に扱う
SNSの適切な利用
- プライバシー設定を厳重に行い、個人情報の公開範囲を制限する
- 知らない人からの友達リクエストは慎重に対応する
公共Wi-Fiの利用に注意
- 公共Wi-Fiを利用する際は、VPNサービスを使用する
- 機密性の高い情報のやり取りは避ける
定期的なセキュリティチェック
- アカウントの利用状況を定期的にチェックする
- 不審な活動があれば、すぐにパスワードを変更する
法的側面と最近の動向
発信者情報開示請求制度は、被害者の権利保護と発信者のプライバシー保護のバランスを取ることが求められます。最近では、以下のような動きがあります。
開示請求の要件緩和:
2022年の法改正により、開示請求の要件が緩和され、被害者がより簡易に発信者情報を取得できるようになりました。
新しい裁判手続きの導入
「非訟事件手続」という新しい裁判手続きが導入され、従来よりも迅速な発信者情報の開示が可能になりました。
プラットフォーム事業者の責任強化
SNSなどのプラットフォーム事業者に対し、より積極的な対応を求める声が高まっています。
国際的な課題
海外のサーバーを利用した投稿など、国境を越えた問題への対応が課題となっています。
まとめ
発信者情報開示請求は、インターネット上のトラブル解決に有効な手段ですが、同時に冤罪のリスクも存在します。ユーザーは自身を守るためのセキュリティ対策を日頃から徹底し、万が一請求を受けた場合は冷静に対応することが重要です。
一方で、制度の改善や技術の進歩により、より公平で効果的な運用が期待されています。インターネットユーザーの一人一人が、この制度の意義と課題を理解し、責任ある行動を心がけることが、健全なオンライン社会の実現につながるでしょう。
この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。
平田弁護士について