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土地や建物などを受け継ぐときの流れと注意点―円滑な手続きでトラブルを防ぐ秘訣とは?

2025.02.27 弁護士コラム

大切な家族が亡くなったとき、その名義になっている土地や家などを引き継ぐことがあります。こうした資産を受け継ぐ場面では、法律手続きや税金、親族間での話し合いなど、確認すべきことや行うべき手続きが多岐にわたります。しかし、実際に遺産を引き継ぐ段になると、「どのように話し合って分ければいいのか」「税金はどれくらいかかるのか」「手続きを怠ると何か問題が起こるのか」といった疑問が次々と湧いてくるでしょう。

本記事では、家や土地を遺産として受け取るときの基本知識から、必要な手続き、税金のポイント、分割の進め方などを総合的に解説していきます。突然の場面でも落ち着いて対処できるよう、あらかじめ流れを把握しておくことが大切です。後々のトラブルを回避し、円滑に手続きを進めるためにぜひお役立てください。

そもそも「財産のうち建物や土地を受け継ぐ」とは?

親族が所有していた建物や敷地を引き継ぐこと

家や土地といった不動産は、金銭や株式などの金融資産と異なり、形がある物理的な資産です。使い道も多種多様で、自宅として使用したり、賃貸に出して家賃収入を得たり、売却して現金化することもできます。ただし、維持管理費や固定資産税などの支出がかかる点にも注意が必要です。

金融資産よりも複雑になりやすい理由

土地や建物の継承において難しいのは、「分割がしにくい」点です。金融資産であれば、口座にある現金を分割する、株式を売却して現金化するといった方法が取りやすいですが、物理的な不動産の場合、原則として切り分けができません。また、時価の評価が不透明だったり、立地条件や建物の老朽化具合によって価値が変動しやすかったりと、家族間での意見対立が起こりやすいのも特徴です。

名義変更を怠るリスク

土地や家を引き継いだ際には、いわゆる「所有者の名義を変更する手続き」が必要です。これを怠ってしまうと、将来的に売却や担保設定を行いたいと思ったとき、手続き上のトラブルに見舞われる可能性があります。また、相続登記も義務化されたので、放置していると罰則が科されるリスクがあります。法改正の動向にも注意を払い、早めに名義変更を済ませることが大切です。

受け継ぐうえで押さえておきたい基本的な流れ

死亡後、まずは遺言書の有無を確認

所有者が亡くなったら、まず死亡診断書を取得し、役所で戸籍の手続きを行います。その後に遺言書の存在を確認しましょう。公正証書遺言、秘密証書遺言、自筆証書遺言など形態はいくつかありますが、見つかった遺言書は家庭裁判所での検認手続きなどが必要です(ただし、公正証書遺言を除く)。有効な遺言書がある場合、基本的にはその内容に従って遺産分割を進めることになります。

相続人を確定させる

遺言書がある場合でもない場合でも、まずは誰が法定相続人になるのかを確定させる必要があります。被相続人(故人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取り寄せ、そこから相続人を特定します。配偶者や子ども、親、兄弟姉妹など、民法で定められた順序に従って確認し、相続に関係する人を全員洗い出すことが重要です。

遺産分割協議を行う

遺言書がなければ、関係する人全員で話し合いを行い、どのように遺産を分配するかを決めます。これを遺産分割協議といい、話し合いの結果を「遺産分割協議書」にまとめて全員が署名・押印します。家や土地の引き継ぎ方法としては、大きく分けて以下のパターンがあります。

  1. 単独所有: 誰か1人がすべてを受け取る
  2. 共有: 複数人で持分を決めて共有する
  3. 売却して現金化: 売却益を分割して受け取る

ただし、共有にすると後々の管理が煩雑になるため、できれば単独所有か売却を検討するほうがスムーズといわれています。

名義変更(相続登記)を行う

遺産分割協議での結論が出たら、法務局で名義変更(相続登記)を行います。必要書類として、被相続人の戸籍謄本・除籍謄本、住民票の除票、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書、遺産分割協議書などを揃えます。書類が多岐にわたるので、専門家に相談しながら手続きを進めると安心です。

相続税や固定資産税などの税金面のポイント

相続税の計算方法

被相続人が持っていた財産の合計額が、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えると、遺産を受け継いだ人に相続税がかかる可能性があります。たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人であれば、3,000万円+600万円×3人=4,800万円が基礎控除額です。
これを超えた金額に対して、課税遺産総額を算出し、法定相続分に基づいて各人の課税額を計算し、累進課税率をかけて最終的な相続税を決定していきます。

土地や家の評価方法

土地や建物の評価は、路線価や固定資産税評価額を基準に行われます。ただし、実際に取引される実勢価格とは異なるケースが多く、評価額は市況に左右される面もあります。また、宅地の特例(小規模宅地等の特例)などを適用すると、評価額の一部が大幅に減額されることもあります。たとえば、被相続人が住んでいた自宅の敷地については、最大80%減額が認められる場合があります。

固定資産税の引き継ぎ

所有者が変わると、翌年度分以降は新しい所有者が固定資産税を納めることになります。名義変更をきちんと行わないと、納税通知書が前所有者(亡くなった方)に送られ続けてしまうことがあり、支払い手続きが複雑になる可能性もあります。資産の継承が決まったら、速やかに名義変更とともに市区町村役場への届け出を行いましょう。

生前対策でトラブルを防ぐ方法

遺言書の作成

「亡くなった後に家族が争わないように」と考えるならば、所有者が生きているうちに遺言書を作成するのが有効です。公正証書遺言であれば、公証人が内容をチェックしてくれるため形式不備が少なく、検認手続きも不要になります。家や土地の分け方や管理方法なども具体的に書いておけば、相続人同士での意見対立を最小限に抑えられるでしょう。

生前贈与の活用

財産を持っている方が元気なうちに、一部を贈与という形であらかじめ渡しておくことで、死亡時の遺産総額を減らせます。ただし、贈与税が発生するため、非課税枠(年間110万円まで)をうまく使うなど、税制の仕組みを理解した計画的な手段が求められます。贈与税と相続税どちらが得なのか、どのくらいの価値をどのタイミングで贈与するのがベストなのか、専門家に試算してもらうと失敗が少ないです。

共有を避ける工夫

すでに複数名義で所有している不動産の場合、管理や売却の際に全員の同意が必要になります。将来的にトラブルを避けるには、事前に誰が単独で継承するかを決めておき、他の相続人には金銭で分割分を渡すなどの調整が有効です。特に都会で賃貸用にしている物件などは、管理責任や収益配分での対立が起こりやすいため、早めの対策が望まれます。

分割方法別のメリット・デメリット

単独所有とする場合

メリット

  • 権利関係がシンプルで、売却や活用の際に意思決定がスムーズ
  • 管理責任や費用負担が明確

デメリット

  • 他の相続人との間で公平を保つため、代償金を用意する場合もある
  • 受け継いだ人に相続税や維持管理費の負担が集中する可能性

共有とする場合

メリット

  • 複数人で負担を分担できる(固定資産税など)
  • 家族に思い出がある家などで、「誰も手放したくない」といった場合に対応しやすい

デメリット

  • 売却や賃貸などの際に共有者全員の同意が必要になり、意思決定が難航しやすい
  • 将来的に相続が重なり、共有者が増え続けてトラブルが複雑化するリスク

売却して現金化する場合

メリット

  • 不動産を分割できない問題が解消され、分配が容易
  • 相続税の納税資金を確保しやすい

デメリット

  • 思い出のある家や土地を手放すことに感情的な抵抗があるかもしれない
  • 地域の不動産市況によっては、売却額が期待より低くなる可能性がある

手続きを円滑に進めるポイント

早めに専門家に相談する

土地建物に関する法務や税務は複雑で、一般の方がすべてをスムーズに処理するのは難しい場合が多いです。相続が発生したとき、あるいは近いうちにその可能性があるとわかったときは、早めに弁護士、税理士、司法書士、不動産会社などの専門家に相談することをおすすめします。

  • 弁護士: 遺産分割協議や相続人間の争いがある場合に有用
  • 税理士: 相続税の申告や節税プランの立案
  • 司法書士: 名義変更や登記手続きの代行
  • 不動産会社: 売却・賃貸などの物件活用の相談

親族間で情報共有を徹底する

相続人同士で認識のずれがあると、後で「そんな話は聞いていない」というトラブルに発展しがちです。相続に関係する人が全員揃うタイミングを見つけ、所有していた資産の状況や必要な費用、今後の見通しなどを共有する場を設けましょう。感情的な対立を避けるためにも、情報の透明性を高めることが重要です。

家や土地の市場価値を客観的に把握する

分割協議を行う際、家や土地の価値を正確に理解していないと、不公平感が生じやすくなります。客観的な不動産査定や固定資産税評価額、路線価などを参考に、現時点での大まかな時価を把握しておきましょう。特に売却を検討している場合は、不動産会社に複数社査定をとると相場観がつかみやすいです。

こんなときはどうする?よくあるトラブル例

遺言書がないまま相続人が多数いるケース

法定相続人が多いと、意見が食い違い分割協議が難航する可能性が高まります。弁護士や司法書士など第三者を交えて協議すると、冷静な判断を促しやすくなります。話し合いがどうしてもまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判を利用する手段もあります。

共有状態を解消したいが一部の相続人が反対

遺産分割協議により、不動産が共有名義になってしまっている場合、共有者全員の合意がないと売却や分割ができません。説得が難しい場合、裁判所に「共有物分割請求訴訟」という民事訴訟を起こす方法もあります。ただし、裁判手続きに持ち込むと時間も費用もかかるため、事前の対策がいかに大切かがわかります。

空き家になっている物件の取り扱い

地方や郊外であれば、需要が少なく売り先が見つからないケースもあります。固定資産税だけがかさみ、管理が行き届かず荒れ果ててしまうと周辺住民とのトラブルになることも。早めにリフォームや解体を含めた活用方法を検討し、不要であれば思い切って売却や寄付などの手続きを行うほうが長期的には負担を軽減できます。

まとめ

土地や家などの財産を受け継ぐ場面は、故人との思い出や家族のこれからの暮らしなど、さまざまな要素が絡み合うため、感情的なトラブルが起きやすい分野です。しかし、以下のポイントを押さえておくことで、問題の発生リスクを大幅に下げ、スムーズな手続きが期待できます。

  1. まずは相続人と遺言書の有無を確認
  • 正しく相続人を確定し、遺言書があれば内容を優先。
  1. 遺産分割協議のプロセスを大切に
  • 話し合いを文書化し、全員が納得した形で署名・押印する。
  1. 名義変更(相続登記)は早めに
  • 放置するとトラブルが長期化し、今後の手続きに支障をきたす。
  1. 税金面に配慮する
  • 相続税や固定資産税を正しく把握し、節税対策も検討。
  1. 生前対策でリスクを減らす
  • 遺言書や生前贈与などの制度を活用して、家族間の争いを予防。
  1. 専門家への相談が効果的
  • 弁護士、税理士、司法書士、不動産会社などの力を借りるとスムーズ。

いざというとき、慌てて手続きを進めようとすると、書類の不備や期限切れなどで余計な時間とコストを要することも少なくありません。とくに長年放置されがちな「空き家」の問題や、複数人が共有名義となっているケースは、早い段階で整理しておくことが望ましいでしょう。

相続は人生の大きなイベントであり、その結果が家族の絆や財産状況に長期的な影響を及ぼします。今回解説した知識をもとに、家や土地の引き継ぎを円満に完了させ、故人の想いやご家族の幸せに繋がるような選択を心がけてください。

この記事を監修した弁護士

代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)

所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。

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