離婚後の金銭的補償を相手が支払わない…その原因と対処法を徹底解説

夫婦関係が破綻し、離婚という決断に至った場合、多くの方が「精神的苦痛への補償」の支払いについて気にかけるのではないでしょうか。法律上、婚姻関係の破綻原因がどちらにあるかなどを考慮して、その苦痛に対してお金のやり取りが発生するケースがあります。しかしながら、いざ話し合いや調停で「支払いの約束」を取り付けても、実際にはスムーズに支払ってもらえない、あるいは途中で支払いが滞ってしまうというトラブルが起こることも少なくありません。
この記事では、離婚時に取り決めた金銭的補償を相手が拒んでしまう背景や、実際に支払いを受けられない場合の対処法、そして専門家へ相談するメリットなどを詳しく解説していきます。自身の状況に照らし合わせながら、ぜひ参考にしてみてください。
目次 [閉じる]
離婚に際して発生する「精神的苦痛への補償」とは?
主に不貞行為や暴力などが原因の場合に発生
離婚時に発生する金銭の支払いとしては、財産分与、養育費、そして精神的苦痛への補償が考えられます。そのうち、離婚の原因となる行為(不貞・DV・モラハラなど)が明確に相手側にある場合には、精神的苦痛を負わされた側が金銭で補填を求めることが可能です。一般的には「慰謝料」(損害賠償の内容の一つです。)という呼ばれ方をします。
合意書・公正証書で取り決める重要性
お金の支払いを確実にするには、口頭の約束だけではなく文書化することが必須です。特に、法的な強制力を持たせたい場合には公正証書として作成することが望ましいとされています。公正証書で取り決められていると、支払いが滞ったときに強制執行をしやすいという大きなメリットがあります。
支払い金額はどうやって決まる?
精神的苦痛への補償の金額は、以下のような要素を総合的に考慮して算定されることが多いです。
- 離婚原因(不倫、暴力、長年のモラハラなど)
- 結婚期間(婚姻期間の長さ)
- 当事者の収入や資産状況
- 社会的影響の度合い(名誉毀損などを伴う場合)
金額の幅は数十万円から数百万円、場合によってはそれ以上になることもあります。しかし、当事者同士の話し合いや調停・裁判などでの最終的な判断によって決定されるため、一概に「この金額が相場」というものが確定しているわけではありません。
相手が支払いに応じない主な理由
実際に「支払う」と約束をしていたはずなのに、実際には支払われない、または途中でストップしてしまうケースには様々な事情が考えられます。代表的な理由をいくつか挙げてみましょう。
経済的な困窮
離婚後、支払い義務を負う側の収入が大きく減ってしまったり、転職やリストラなどで生活が苦しくなったりすると、精神的苦痛への補償に回すお金を捻出できなくなることがあります。また、再婚や新たな家族ができたことで、生活費が増大し払えなくなるケースも考えられます。
自分に不利な離婚原因を認めたくない
話し合いや調停の段階では「精神的苦痛を負わせた」という事実をある程度受け入れていたとしても、離婚後に相手の感情が変化する場合があります。たとえば、「本当は自分にも非はなかった」「相手にも落ち度がある」という思いが大きくなり、支払いを放棄しようとすることがあります。
単なる支払い意欲の欠如・報復的行動
「もう関係が切れてしまったのだから払わなくてもいいだろう」と考える相手も存在します。あるいは、離婚の過程で大きなトラブルや恨みが残っており、「支払わないことで相手に困ってもらおう」という報復的な心理がはたらく場合もあるでしょう。
法的強制力がない合意書・口約束しか交わしていない
文書としてしっかり取り決めていない場合、支払いを拒否されてもすぐに強制できません。口頭や私文書の取り決めだけであれば、債務名義(強制執行に必要な書類)を取得する必要があり、その手続きも簡単ではありません。結果として「支払わないほうが得」という誤解や甘えが生じやすくなります。
支払いを受けられない時の対処法
まずは内容証明郵便を活用した催促
相手が金銭の支払いを拒んでいる、あるいは支払いが滞っている場合、まずは内容証明郵便を使って正式に催促することが有効です。内容証明郵便は「いつ、誰が、誰宛に、どんな内容を発送したか」を郵便局が証明してくれるサービスで、もし今後裁判などの手続きに進んだ場合に「正式に支払いを求めた事実」を示す証拠として活用できます。
- 書面の内容が客観的に残る
- 相手に「法的手段をとる可能性がある」という心理的圧力になる
以上の点から、話し合いによる解決を試みる最初のステップとして、内容証明郵便による催促は非常に意味があります。
家庭裁判所への調停申立て
話し合いだけでは埒が明かないと感じたら、家庭裁判所に対して「調停」の申立てを検討します。調停委員という第三者が間に入り、当事者双方の言い分を聞きながら解決策を探ってくれます。
- 直接顔を合わせることなく、書面や調停委員を通じて話し合える
- 調停が成立すれば、公的な文書として債務名義に準ずる効力を得られる
調停が不成立であっても、審判や訴訟へのステップにつなげることができるため、早めに動くことが大切です。
裁判・強制執行を視野に入れる
調停でも合意に至らない場合、最終的には裁判(通常訴訟)を起こし、強制執行の手段をとることになります。既に公正証書などの強制執行認諾文言付きの書面があれば、裁判を経ずに直接強制執行の申立てが可能です。強制執行とは、例えば相手の給与や預貯金などに対して差し押さえを行い、そこから強制的に支払いを確保する手続きです。
ただし、相手が無職や資産なしの状態だと、実際にお金を回収できない場合もあるため、状況を慎重に見極める必要があります。
分割払いの約束をしている場合の注意点
分割払いは支払い滞納リスクが高い
一括払いが難しいという理由で、毎月や半年ごとなどに分割して受け取る約束をするケースも多いでしょう。しかし、長期にわたって支払いが続くため、途中で相手の生活状況が変化して滞納が発生するリスクが高まります。公正証書などを作成していても、都度の回収が難しくなる可能性があります。
将来のリスクを見込んだ金額・期間設定
分割払いの合意をするときは、将来的に相手の収入や環境が変化する可能性も見越し、ある程度余裕をもった金額設定にするのが望ましいです。あまりに高額な設定にすると、相手が支払い能力を失った際に取り立てが難しくなります。また、期間に関しても「長く取り決めすぎると、相手に負担感が増して途中で投げ出すリスク」があることを念頭に置きましょう。
合意書・公正証書の文言確認
分割払いの取り決めを文書にする際は、支払い条件や期日のほか、遅延損害金の有無、滞納が続いた場合のペナルティ条項(違約金条項)なども盛り込んでおくと安心です。「強制執行認諾文言付きの公正証書」にしておくと、支払いが滞ったときにすぐに法的手段に移りやすくなります。
支払いを拒まれたときに知っておきたい法律的ポイント
時効の存在
精神的苦痛への補償請求権(損害賠償請求権)には時効があります。一般的には「不法行為に基づく損害賠償請求権」として3年または20年の時効期間が定められているケースが多いです(ただし近年の民法改正により整理され、時効の起算点がいつになるかなど細かな判断が必要)。離婚成立の時点や原因となる行為を知った時点からカウントするため、期間内に請求行動を起こしておかないと消滅時効が完成してしまうことがあります。
債務名義があれば強制執行が可能
家庭裁判所の調停調書・審判書、公正証書(強制執行認諾文言付き)などを持っている場合は、法的に「債務名義」を取得している状態です。この書類があれば、相手の財産(給与や預貯金、不動産など)を差し押さえる手続きを進めることができます。一方、口約束やただの合意書(私文書)しかない場合は、まず訴訟などを経て債務名義を取得する必要があります。
財産調査の困難さ
強制執行を行うためには、差し押さえ対象となる相手の財産を特定する必要があります。しかし、銀行口座や勤務先などを相手が隠していたり、すでに資産がほとんどなかったりする状況だと、実際に回収に成功するかどうかは不透明です。特に相手が自営業の場合は、収入や銀行口座の情報を把握しづらいため注意が必要です。
専門家に相談するメリット
弁護士へ相談する意義
金銭の支払いを受けられないトラブルに直面したら、まずは弁護士への相談を検討しましょう。特に相手が支払いに応じず、こちらも適切な法的手続きを取りたい場合は、専門知識が欠かせません。
- 強制執行の手続き代行
- 相手の財産調査に関するアドバイス
- 交渉事における法的な見解の提示
弁護士が間に入ることで、相手とのやり取りがスムーズになる場合も多々あります。また、訴訟に発展したときに必要な書類作成や裁判所への提出もスピーディーに対応できます。
司法書士や行政書士の活用
弁護士ほど広範囲に対応するわけではありませんが、司法書士や行政書士に書面作成を依頼することで、調停や訴訟を視野に入れた準備を効率的に進めることができます。
- 内容証明郵便の作成支援
- 調停申立書や訴状の作成(司法書士は一定の金額までの事件に限る)
ただし、代理権の範囲や対応できる範囲が限られているため、複雑な問題や高額な請求が予想される場合は弁護士を選んだほうがよいケースが多いでしょう。
無料相談や法テラスの活用
経済的な事情からすぐに弁護士費用を捻出できない場合は、法テラス(日本司法支援センター)などの公的機関を利用する方法があります。一定の収入要件を満たしていれば、無料相談や費用の立て替え制度を利用できる可能性があります。まずは一度相談してみるのも一つの手です。
トラブルを未然に防ぐためにできること
離婚後における金銭トラブルを防ぐために、事前にいくつかのポイントを押さえておくことが大切です。
公正証書での取り決め
先にも触れましたが、強制執行認諾文言付き公正証書は極めて重要です。公的な文書であり、トラブルが起きたときに相手の財産に対して強制執行できるため、支払いの担保としては最も安心といえます。公証役場の手数料や弁護士費用など、多少の出費はかかるかもしれませんが、長期的な安心を得るための投資と考えましょう。
相手の収入・資産状況を把握する
離婚協議の段階で、相手の収入や財産をどの程度把握しているかによって、のちの回収可能性が変わります。給与明細や源泉徴収票、預貯金の有無などについて可能な範囲で確認しておきましょう。もし相手が事業をしているなら、事業の実態や経営状況についても把握する努力が必要です。
継続的なコミュニケーション
離婚後は関係が希薄になるのが通常ですが、特に未成年の子どもがいる場合は養育費や面会交流などを通じて、ある程度のコミュニケーションが続きます。その流れの中で、定期的に支払い状況を確認し、遅れが生じそうなら早めに対策を講じることが大切です。相手の経済状況が悪化している場合などは、当初の取り決めを見直す必要性も出てきます。
まとめ
離婚後の金銭的補償が支払われないという問題は、感情的・経済的に非常に大きなストレスをもたらします。原因としては、相手の経済事情の変化、精神的対立が残っていること、法的強制力をもたない合意しかしていないことなど、さまざまな要素が絡み合うものです。
対策としては、まず内容証明郵便を利用した正式な催促から始め、家庭裁判所の調停、必要に応じて裁判・強制執行へとステップを踏んでいくことが一般的です。公正証書や調停調書などの「債務名義」によって、最終的には相手の給与や資産を差し押さえることが可能ですが、実際に回収できるかどうかは相手の財産状況に左右される面も大きいのが実情です。
少しでもトラブルを防ぐためには、離婚の話し合い時点で公正証書を作成する、相手の収入状況をきちんと把握しておくなどの対策が重要となります。また、問題がこじれた場合は弁護士等の専門家に早めに相談し、正しい手続きを踏んで回収を図ることが望ましいでしょう。
経済的に厳しい状態にある場合でも、法テラスなどの公的機関を活用すれば法的手続きのハードルは下がります。「離婚後の補償」を相手が支払ってくれない問題は、決して一人で悩まず、ぜひ専門家のサポートを得ながら前向きに解決を目指してください。

この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。
