盗撮事件の「示談」って何?初めての方にも分かりやすく解説

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はじめに:盗撮事件で「示談」が大切な理由
盗撮は、人のプライベートな部分を勝手に撮影する、とても許されない行為です。被害者の方に深い心の傷を与えてしまう、重大な犯罪として、最近では法律も厳しくなっています。
そんな盗撮事件で、「示談(じだん)」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。示談とは、裁判所を通さずに、加害者(盗撮をしてしまった人)が被害者の方に謝罪し、お金で償うことで、事件を解決する方法のことです。
示談が成立すると、加害者にとっては、警察に捕まったり、重い刑罰を受けたりする可能性が低くなります。一方、被害者の方にとっては、心の傷に対するお金を受け取ることができ、裁判の手続きでさらに辛い思いをするのを避けられる場合があります。
示談は、ただお金を払うだけでなく、事件全体の結果を大きく左右する、とても大切な解決方法なんです。だからこそ、事件が起きてしまったら、できるだけ早く示談の話し合いを始めることが重要だと言われています。
示談が成立すると、どんな良いことがあるの?
示談が成立すると、加害者と被害者、それぞれに次のような良いことがあります。
加害者
- 警察沙汰になるのを避けられるかも: もし警察に被害届が出される前なら、示談が成立することで、事件が警察に知られずに済む可能性があります。
- 捕まっても早く出られるかも: もしすでに警察に捕まっていたり、留置所にいる場合でも、示談が成立すれば、早く外に出られる可能性が高まります。
- 「前科」がつかない可能性: 示談が成立すると、検察官が「裁判にする必要はない」と判断し、「不起訴(ふきそ)」になる可能性がとても高くなります。不起訴になれば、刑罰を受けることも、前科がつくこともありません。前科がつくと、就職や海外旅行など、その後の人生に大きな影響が出ることがあります。
- 刑罰が軽くなる可能性: もし裁判になったとしても、示談が成立していることは「反省している証拠」として認められ、刑罰が軽くなる可能性があります。例えば、刑務所に入らずに済む「執行猶予(しっこうゆうよ)」がつくこともあります。
- お金のトラブルも一緒に解決: 盗撮は、刑事事件として罰せられるだけでなく、被害者への損害賠償(お金を払って償うこと)という民事上の責任も発生します。示談で、この両方を一度に解決できるので、後から民事裁判を起こされる心配がなくなります。
- 社会での信用を守れる: 前科がつかないことで、社会での信用を失うことを避け、仕事や人間関係への悪影響を最小限に抑えることができます。
被害者
- 心の傷に対するお金を受け取れる: 盗撮によって受けた心の傷に対して、「示談金」という形でお金を受け取ることができます 2。これは、被害者の方が新しい生活を始めるための助けにもなります。
- 裁判の負担が減る: 示談が成立すれば、裁判で証言したり、警察の捜査に協力したりするなどの、精神的に辛い手続きを避けられる場合があります。
- 早く解決できる: 裁判に比べて、示談の話し合いは比較的短い期間で解決することが多いです。早く事件から解放されて、前に進むことができます。
- 再発防止の約束: 示談書に「二度と盗撮はしません」という加害者からの約束を盛り込むことで、同じようなことが起きるのを防ぐ効果が期待できます。
- プライバシーを守れる: 示談書に「事件の内容を他の人に話さない」という約束(口外禁止条項)を入れることで、被害者の方のプライバシーが守られます。
被害者の方が、盗撮をした人と直接会いたくないと思うのは当然のことです。また、被害者の方の「どれくらい罰してほしいか」という気持ちや、心の傷の大きさが、示談金の金額や話し合いの難しさに大きく影響します 1。お金だけでなく、加害者が心から反省し、きちんと謝罪する気持ちを示すことが、とても大切だと言われています。
盗撮ってどんな罪になるの?法律の話
盗撮は、最近になって法律の扱いが大きく変わりました。特に、2023年7月13日から始まった「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(通称「撮影罪」)という新しい法律は、全国どこでも同じ基準で盗撮を厳しく罰するようになりました。
「撮影罪」ってどんな法律?
撮影罪は、これまでの法律ではカバーしきれなかった行為や、地域によって罰の重さが違っていた問題をなくし、被害者の方をよりしっかり守るために作られました。この法律は、被害者の方が「自分の性的な姿を、勝手に他の人に見られたくない」という大切な権利を守ることを目的としています。
撮影罪で罰せられる主な行為は、次のようなものです。
- 性的な姿をこっそり撮影する行為: 普通は服を着ている場所で、こっそり人の性的な姿を撮影すること。ただし、多くの人が見る場所で、自分で露出している場合は除きます。
- 撮影したものを広める行為: 撮影した性的な写真や動画を、不特定多数の人に見せたり、売ったりすること。
- 広める目的で保管する行為: 上記の目的で、性的な写真や動画を自分の手元に置いておくこと。
- 同意なく性的な姿の画像を送信する行為: 相手が同意できない状態にあることを利用したり、性的なものではないと誤解させたりして、性的な姿の画像を送りつけること。
- 13歳未満の性的な姿の画像を送信する行為: 正当な理由なく、13歳未満の子どもの性的な姿の画像を送りつけること。
これらの行為には、これまでの法律よりも重い罰が科される可能性があります。例えば、撮影しただけで「3年以下の拘禁刑(刑務所に入る刑罰)または300万円以下の罰金」、広めたり送ったりすると「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」などと決められています。
「迷惑防止条例」との関係は?
撮影罪ができる前は、盗撮はそれぞれの都道府県が作った「迷惑行為防止条例(めいわくこういぼうしじょうれい)」というルールで取り締まられていました 12。この条例は、都道府県によって「どこで」「どんな行為が」罰せられるかが違っていました。例えば、東京都では自宅にカメラを置く行為が罰せられるのに、岩手県では罰せられない、といった地域差があったんです。
撮影罪ができたことで、全国どこでも同じ基準で盗撮が罰せられるようになりました。これまでの迷惑防止条例も引き続き適用されますが、より悪質な行為や、条例ではカバーしきれなかった行為が撮影罪の対象となり、全体的に盗撮に対する罰が厳しくなりました 12。条例による罰則も地域によって異なり、例えば岐阜県では「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」といった規定があります 13。
つまり、撮影罪ができたことで、盗撮はこれまで以上に重い罰を受ける可能性が高くなったということです。だからこそ、示談によって早く解決し、重い刑事処分を避けることの重要性が、以前にも増して高まっていると言えるでしょう。
刑事責任と民事責任って何?
盗撮は、国が犯罪として罰する「刑事責任」と、被害者の方に損害を与えたことに対する「民事責任」という、二つの責任を負う行為です 2。
- 刑事責任は、警察や検察が捜査し、裁判で刑罰が決まります。
- 一方、民事責任は、被害者の方が受けた損害(心の傷など)を、加害者がお金で償うことを目的としています。示談金は、この民事上の責任を解決するお金の一つです。
示談は、この民事上の問題を裁判なしで解決できるだけでなく、刑事処分にも良い影響を与えます。盗撮は、この二つの責任が同時に発生するため、加害者にとっては二重のリスクがあるということです。示談は、この二つの問題を一度に、しかも裁判なしで解決できる唯一の方法と言えるでしょう。もし示談が成立しないと、被害者の方は民事裁判を起こしてお金を請求することもできますが、裁判は示談よりも時間もお金もかかります。
盗撮事件の示談交渉ってどう進めるの?
盗撮事件の示談交渉は、加害者と被害者、双方の気持ちを大切にしながら、慎重に進める必要があります。被害者の方の感情に深く配慮し、誠実な態度で話し合いを進めることが、示談を成功させるための大切なポイントです。
示談交渉の一般的な流れ
盗撮事件の示談交渉は、通常、次のようなステップで進んでいきます 1。
- 弁護士に相談する: 盗撮事件が起きてしまったら、まず弁護士に示談交渉をお願いすることから始まります。弁護士は、加害者の代理人として、法律の知識と交渉の経験を活かして示談の成立を目指します。
- 被害者の方の情報を教えてもらう: 警察や検察は、被害者の方のプライバシーを守るため、加害者に直接、被害者の名前や連絡先を教えることはありません。この段階で、弁護士が警察や検察に「示談の話し合いをしたい」と伝えて、被害者の方の承諾が得られれば、被害者の名前や連絡先を教えてもらえるようになります 1。弁護士がいないと、被害者の方と連絡を取ることすら難しいのが現実です。
- 被害者の方に連絡して話し合いを始める: 被害者の方の情報が分かったら、弁護士が適切なタイミングで被害者の方に連絡を取り、加害者からの心からの謝罪の気持ちと、示談の希望を伝えます。被害者の方の希望に応じて、直接会ったり、電話で話したりすることもあります 1。この時、弁護士は被害者の方の心の傷に深く配慮し、示談の意味や弁護士の役割などを丁寧に説明することで、被害者の方の不安を和らげ、話し合いの土台を作ります。
- 示談の条件を決める: 被害者の方と弁護士の間で、具体的な示談の条件について話し合います。主な条件としては、示談金(慰謝料)の金額、盗撮した写真や動画を完全に消すこと、被害者の方に二度と近づかないこと、事件の内容を他の人に話さないこと、そして被害者の方から「許します」という言葉(宥恕文言)をもらうことなどが挙げられます 2。これらの条件は、事件の悪質さや被害者の方の気持ちによって細かく調整されます。
- 示談の内容を確定し、示談書を交わす: 話し合いの結果、条件に合意できたら、「示談書」という書類が作られ、加害者と被害者の間で取り交わされます。示談書は、示談が成立したことを正式に証明する大切な書類で、後からトラブルにならないように、法律的に問題のない形で作成する必要があります 。
- 示談金を支払う: 示談書に書かれた金額と期限に従って、加害者から被害者へ示談金が支払われます 9。基本的には一度に全額を支払うのが原則ですが、被害者の方の同意があれば、何回かに分けて支払うことも考えられます。
- 示談書を提出する: 示談が成立したら、示談書(のコピー)を警察や検察に提出し、示談が成立したことを伝えます。これにより、検察官が裁判にするかどうかを決めたり、裁判官が刑罰の重さを決めたりする際に、良い影響を与えることを目指します。
なぜ弁護士に頼む必要があるの?
盗撮事件の示談交渉では、弁護士に間に入ってもらうことが、ほとんどの場合で必要不可欠です。その理由は次の通りです。
- 被害者と直接話すのは難しい: 盗撮事件の被害者の方は、盗撮をした人と直接会ったり、連絡を取ったりすることに強い抵抗や恐怖を感じていることがほとんどです 1。警察や検察も、被害者の方を守るために、加害者に被害者の情報を教えることはありません。もし加害者本人が直接交渉しようとすると、かえって被害者の方の怒りを増幅させ、話し合いがうまくいかなくなる可能性が高まります。
- 弁護士がいないと始まらない: 弁護士が代理人になることで、初めて警察や検察から被害者の方の情報を教えてもらえるようになり、示談交渉の道が開かれます。弁護士は、被害者と加害者の間の「クッション」のような役割を果たし、冷静に話し合いができる環境を作ります。
- 専門的な交渉のプロ: 弁護士は、刑事事件の示談交渉の経験が豊富で、法律の知識も持っています。被害者の方の気持ちに配慮しながら、適切な示談金の金額や条件を提案し、冷静に、そしてスムーズに話し合いを進めることができます 2。これにより、感情的な対立を避け、話し合いが長引いたり、決裂したりするリスクを減らせます。
- きちんとした示談書を作れる: 示談書は、法律的な効力を持つ大切な書類です。弁護士は、後からトラブルにならないように、法律的に問題のない示談書を作成することができます 15。特に、「他の人に話さない」という約束や、「これで全て解決」という内容など、将来のリスクを避けるための大切な項目をきちんと盛り込むことができます。
示談交渉にかかる期間はどれくらい?
示談交渉にかかる期間は、事件の複雑さや被害者の方の気持ちによって大きく変わりますが、だいたい数週間から数ヶ月が目安とされています。被害者の方の「罰してほしい」という気持ちが強かったり、示談の条件(特に示談金の金額)で意見が合わなかったりすると、話し合いが長引く傾向があります 。
しかし、弁護士が早く介入し、被害者の方の気持ちに配慮しながら適切な条件を提案することで、短い期間で示談が成立することもあります。例えば、2ヶ月で示談が成立し、警察に被害届が出されることなく解決した例も報告されています。早く示談が成立すれば、加害者が反省し、問題を解決しようと真剣に取り組んでいる証拠として、刑事処分に良い影響を与える可能性が高まります。
示談金(慰謝料)ってどれくらい?どうやって決まるの?
盗撮事件の示談金は、被害者の方が受けた心の傷に対する「慰謝料(いしゃりょう)」が主なものです。示談金の金額は、一つ一つの事件の状況によって大きく変わりますが、だいたいの目安と、金額を決める様々な理由があります。
盗撮事件の示談金のだいたいの目安
盗撮事件の示談金は、一般的に10万円から50万円くらいが目安とされています。中には、30万円から50万円の間で決まることが多い、という情報もあります。しかし、事件が悪質だったり、被害者の方の心の傷がとても深かったりする場合には、100万円以上の高額な示談金になることも珍しくありません。
例えば、スマートフォンを使った公共の場所での軽い盗撮(初めての犯行で、身元がはっきりしている場合)なら、示談金は10万円~20万円くらいが目安とされています。一方で、ジムのシャワー室にカメラを仕掛けたり、女性の裸を盗撮したりした場合は70万円~80万円くらい、被害者の方が引っ越しを余儀なくされたケースでは120万円もの示談金が提示された例もあります。
示談金の金額を決める具体的な理由
示談金の金額は、次のような様々な理由によって高くなったり安くなったりします。
- 盗撮の悪質さや、何回もやっていたか:
- 盗撮が行われた場所(公共の場所か、トイレや更衣室、家の中などのプライベートな場所か) 。
- 計画的だったか、隠しカメラなどの悪質な道具を使ったか 。
- 盗撮をしていた期間や回数、何回も繰り返していたか。
- 撮影した部分の悪質さ(下着姿、裸など)。
- 被害者の方の心の傷や、「罰してほしい」という気持ちの大きさ:
- 被害者の方が受けた精神的なダメージの度合い。PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの心の病気になってしまった場合は、金額が高くなります 。
- 被害者の方が加害者を厳しく罰してほしいと強く思っている場合、示談金が高くなる傾向があります。
- 二次被害があったか:
- 盗撮された映像や写真がインターネット上に広まったり、売られたりした場合、被害者の方の心の傷は非常に大きくなるため、示談金は大幅に高額になります 。
- 被害者の方の状況:
- 被害者の方が未成年者の場合、話し合いが難しくなり、示談金も高くなる傾向があります。未成年者の場合、話し合いの相手はご両親になるため、その被害感情は厳しいものになるからです。
- 被害者の方の社会的な立場が高い場合も、心の傷が大きいと判断されやすく、示談金が高くなる傾向があります 。
- 加害者の反省の気持ちや、再犯防止の対策:
- 加害者が自分の行為を深く反省し、二度と繰り返さないための具体的な対策(専門機関での治療など)を示せるかどうかが、示談金額に影響します 。反省の態度が見られない場合、被害者の方の怒りを買い、示談金が増える可能性があります 。
- その他の理由:
- 被害者の方が複数人いる場合。
- 住居侵入など、他の犯罪も同時に行われていた場合 7。
- 被害者の方が盗撮によって引っ越しや仕事を休むことを余儀なくされた場合。
- 加害者のお金の状況(支払える能力)も考慮されますが、まずは被害者の方の気持ちに寄り添い、誠意ある金額を提示することが大切です 。
示談金ってどうやって払うの?(一括払い・分割払い)
示談金は、原則として一度に全額を支払う「一括払い」**が基本です 。これは、被害者の方にとって確実にお金を受け取れる方法であり、加害者にとっても事件を早く解決できるからです。
しかし、加害者のお金の状況で一度に全額を払うのが難しい場合は、被害者の方の同意があれば、何回かに分けて支払う「分割払い」を交渉することもできます。ただし、分割払いは被害者の方にとって、加害者とのやり取りが長引いたり、途中で支払いが止まってしまうリスクがあったりするため、示談の効果が弱まる可能性があります。
分割払いを認めてもらうためには、次の点が大切です。
- 最初にまとまったお金(頭金)を支払うことで、誠意と「ちゃんと払います」という気持ちを示す。
- 確実に支払う計画(何回に分けて、いつまでに払うか)をはっきりと示す。
- もし支払いが滞った場合のペナルティ(遅延金など)を決めておくことで、被害者の方の不安を減らす。
弁護士が間に入ることで、被害者の方も安心して分割払いの交渉に応じてくれやすくなるでしょう。
示談が成立すると、刑事処分はどうなるの?
盗撮事件で示談が成立することは、盗撮をしてしまった人(加害者)の刑事処分に、とても大きな影響を与えます。示談は、検察官が裁判にするかどうかを決めたり、裁判官が刑罰の重さを決めたりする際に、最も有利な事情として考慮されるからです。
「不起訴」になる可能性と「前科」がつかないこと
示談が成立すると、検察官が加害者を「不起訴処分(ふきそしょぶん)」にする可能性がぐっと高まります 。不起訴処分とは、刑事事件が裁判にかけられることなく、捜査が終わることを意味します。不起訴になれば、加害者は刑罰を受けることも、「前科(ぜんか)」がつくこともありません。
前科がつくことは、その後の人生にとても大きな影響を与えます。例えば、就職や転職が難しくなったり、特定の資格が取れなくなったり、海外に行けなくなったりするなど、社会生活を送る上で様々な制限を受ける可能性があります。示談は、被害者の方の「罰してほしい」という気持ちが和らぎ、被害が回復したことを示すため、検察官が不起訴と判断する上で非常に重要な要素となります 20。盗撮事件で示談が成立した場合、不起訴になるケースは少なくありません。
逮捕や留置を避けられる
示談は、警察に捕まったり、留置所にいる期間にも大きな影響を与えます。もし事件が警察に知られる前に被害者の方と示談が成立すれば、そもそも警察に被害届が出されず、逮捕や留置といった身柄の拘束を避けられる可能性があります。
刑罰が軽くなる
もし検察官が加害者を裁判にかけ、裁判で有罪になった場合でも、示談が成立しているという事実は、裁判官が刑罰の重さを決める際に**「情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)」**という、刑を軽くする理由として重要な要素になります 。
示談が成立している場合、次のような刑罰の軽減が期待できます。
- 罰金刑: 盗撮や覗き見の事件は、比較的軽いものであれば、簡単な裁判手続きで罰金刑が科されて終わることが多いとされています 。示談が成立していれば、この罰金刑で済む可能性が高まります。
- 執行猶予: もし重い懲役刑が科される可能性がある場合でも、示談が成立していれば、刑務所に入らずに済む「執行猶予」がつき、すぐに刑務所に収容されることを避けられる可能性が高まります 5。
- より軽い刑罰: 示談が成立しているという事実は、加害者が反省し、被害を回復しようと努力している証拠とみなされ、最終的な刑罰が軽くなる方向で判断されます 。
このように、示談は、刑事事件のあらゆる段階で、加害者にとって最も良い結果をもたらす可能性を秘めているのです。
示談書ってどうやって作るの?大切なポイントと必要なこと
示談書は、示談が成立したことを法律的に証明する大切な書類です。後からトラブルにならないように、その内容には細心の注意を払う必要があります。弁護士が作成することで、法律的に問題のない示談書が確実に作られます。
示談書に書くべき内容
盗撮事件の示談書には、一般的に次の項目が含まれます 2。
- 謝罪の言葉: 加害者が自分の行為を深く反省し、被害者の方に心から謝罪する気持ちをはっきりと書きます。これは、被害者の方の気持ちに配慮し、真摯な態度を示す上で欠かせません 14。
- 示談金(慰謝料)の金額と支払う日: 合意した示談金の具体的な金額と、いつまでに支払うかをはっきりと書きます。支払い方法(一度に払うか、分割で払うか)も明確にし、分割払いの場合は、何回に分けて、いつまでにいくら払うかを詳しく決めます 2。
- 画像の消去: 盗撮した写真や動画のデータ(元のデータやコピーも含めて)を完全に消去したことをはっきりと書き、その消去方法(例:専門業者に頼んで消してもらった、データを上書きするソフトを使ったなど)についても触れると良いでしょう 8。
- 接触禁止の約束: 加害者が今後一切、被害者の方に直接的にも間接的にも連絡を取ったり、近づいたりしないことを約束する項目です。被害者の方の安全と安心を守るために非常に重要です 8。
- 他の人に話さない約束(守秘義務): 示談の内容や事件に関する情報を、他の人に話さないことを約束する項目です。被害者の方のプライバシーを守るために欠かせないもので、もし約束を破った場合のペナルティ(違約金など)を決めておくこともあります 1。これは、加害者の社会的な信用を守るためにも大切な役割を果たします。
- 許しの言葉(宥恕文言): 被害者の方が加害者の行為を許し、刑事罰を望まない気持ちを示す項目です。この言葉があることで、検察官が不起訴と判断したり、裁判官が刑罰の重さを決めたりする際に、大きな影響を与えます。
- 全て解決したことの確認: 示談書に書かれた内容以外に、この事件に関して加害者と被害者の間に、もうお金の請求などがないことを確認する項目です。これにより、将来的に新たな請求が起きるのを防ぎ、トラブルを完全に解決します。
- 被害届・告訴の取り下げ: もし被害届が出されている場合、被害者の方がそれを取り下げることを約束する項目です。これにより、刑事手続きが終わることに直接つながります。
示談書のひな形を使うときの注意点
示談書のひな形やテンプレートはインターネットで見つけることができますが 、これらをそのまま使うのはおすすめできません。一つ一つの事件の状況に合わせて内容を書き換える必要があり、法律的に問題がないか、将来のリスクをきちんと避けられるかといった専門的な判断が求められます 。
特に注意すべき点としては、被害者の方の名前や住所など、個人情報の扱いです。加害者本人に被害者の方の名前や住所を見せないように、黒く塗りつぶしたコピーを渡すなどの配慮が必要になります 14。
また、示談金の支払いが分割払いになる場合など、支払いが確実に行われるようにするために、「強制執行認諾文言付き公正証書(きょうせいしっこうにんだくもんごんつきこうせいしょうしょ)」という形にすることも考えられます。これは、示談書に書かれた内容が守られない場合に、裁判を通さずに強制的に支払いを求めることができるようになるため、被害者の方にとってより安心感を与え、加害者にとっても誠意を示すことにつながります 。弁護士に依頼することで、これらの複雑な手続きや法律的な条件を満たした示談書を確実に作成することができます 。
弁護士に頼むメリットと費用は?
盗撮事件の示談交渉では、弁護士の存在が成功の鍵を握ります。弁護士は、単に法律の専門家であるだけでなく、交渉のプロとして、加害者と被害者、双方の間に立って、スムーズな解決へと導いてくれます。
弁護士が示談交渉でしてくれること
弁護士は、示談交渉において、たくさんの大切な役割を果たします。
- 被害者の方と連絡を取れるようにする: 盗撮事件の被害者の方は、加害者と直接連絡を取ることをほとんどの場合で拒否します。また、警察や検察も被害者の方のプライバシーを守るため、加害者に被害者の連絡先を教えることはありません 。弁護士が代理人になることで、警察や検察を通じて被害者の方の連絡先を教えてもらえるようになり、初めて示談交渉の場を設けることができるようになります 。
- 冷静に、専門的に交渉する: 弁護士は、被害者の方の気持ちに深く配慮しながら、加害者の代理人として冷静に、客観的に交渉を進めます 2。感情的な対立を避け、適切な示談金の金額や条件を提案することで、話し合いが長引いたり、決裂したりするリスクを減らせます。
- 法律的に有効な示談書を作る: 示談書は、法律的な効力を持つ大切な書類です。弁護士は、後からトラブルにならないように、法律的に問題のない示談書を作成します。他の人に話さない約束や、全て解決したことの確認など、加害者と被害者双方の利益を守るための項目をきちんと盛り込むことができます 。
- 刑事処分に良い影響を与える: 弁護士が示談交渉を進め、示談を成立させることで、検察官が不起訴と判断したり、裁判官が刑罰の重さを決めたりする際に、良い影響を与えることができます 4。これは、加害者が前科を避け、社会生活への影響を最小限に抑える上で最も重要なことです。
- 加害者の精神的な負担を減らす: 逮捕されて留置所にいる加害者は、物理的に交渉ができません 16。そうでない場合でも、精神的に不安定な状況で被害者と直接交渉するのは大きな負担です。弁護士が代わりに交渉することで、加害者の精神的な負担を減らし、早く元の生活に戻れるようにサポートします 1。
弁護士にかかる費用はどれくらい?
弁護士費用は、事件の状況や弁護士の活動内容によって変わりますが、盗撮事件における弁護士費用のだいたいの目安は次のようになります。
- 相談料: 30分あたり5,500円(税込み)が目安ですが、最近では無料で相談できる法律事務所も増えています 。
- 着手金: 弁護士が活動を始める時に支払う費用です。逮捕されていない場合は33万円くらい 、全体では20万円~50万円が目安とされています 。
- 報酬金: 示談が成立したり、不起訴になったり、罰金刑や執行猶予になったりなど、弁護士の活動の成果に応じて支払う費用です。不起訴になった場合は33万円くらい、罰金になった場合は22万円くらいが目安とされています(逮捕されていない場合) 。全体では20万円~50万円が目安です 。
- 日当: 弁護士が警察署や裁判所などに出向く際に発生する費用です。一度の面会で3万円~5万円くらいが目安ですが、料金プランによっては着手金に含まれている場合もあります 。
これらを合計した弁護士費用の総額は、逮捕されて留置所にいるケースで66万円~110万円(税込み)、逮捕されていないケースで**55万円~88万円(税込み)**が目安とされています 。全体としては、50万円~150万円の間で落ち着くことが多いと言われています 。
大切な点として、弁護士費用の中に示談金(慰謝料)は含まれていません。示談金は、別途、被害者の方に支払う必要があります 。
費用を払う価値と弁護士選びの大切さ
弁護士費用は高く感じるかもしれませんが、盗撮事件で弁護士に依頼することは、その費用を上回る大きなメリットが期待できます。前科がつくことによる社会的な信用の失墜、長い期間の身柄拘束、重い刑罰といったリスクを避けられることを考えれば、弁護士費用は将来への大切な投資と考えることができます 。
盗撮事件では、示談をまとめることが最も重要な弁護活動だと言われています 。そのため、刑事事件、特に性犯罪の示談交渉に強い弁護士を選ぶことが非常に重要です。弁護士選びは、事件の最終的な結果を大きく左右するため、慎重に行うべきです。
被害者の方を守るためのサポート
盗撮事件の被害者の方は、その性質上、深い心の傷とプライバシーの侵害に直面します。示談交渉を進める上でも、被害者の方の保護とサポートは最も優先されるべきことです。
被害者の方のプライバシーを守ることの大切さ
被害者の方は、盗撮行為によって受けた精神的なダメージから、盗撮をした人と直接会うことを強く避けたいと望むことがほとんどです 1。警察や検察も、被害者の方のプライバシーを守ることを最も大切にするため、加害者に対して被害者の方の連絡先などを直接教えることはありません。
このため、弁護士が間に入り、被害者の方の気持ちを尊重しながら交渉を進めることが欠かせません 19。示談書には、事件の内容や示談の事実を他の人に話さない「口外禁止条項」を盛り込むことで、被害者の方のプライバシーを守り、事件が外部に漏れることを防ぐことができます 1。これにより、被害者の方は安心して示談に応じてくれやすくなります。
被害者の方をサポートする機関や相談窓口
被害者の方が一人で悩まず、適切なサポートを受けられるように、様々な機関や窓口が設けられています。
- 性犯罪被害相談電話全国共通番号「#8103(ハートさん)」: 都道府県警察が運営している全国共通の相談番号で、性犯罪被害に関する相談を受け付けています 21。
- 少年相談窓口: 非行や犯罪被害、家庭や学校での問題など、子どもに関するあらゆる相談を受け付けています 21。
- ぴったり相談窓口: 子どもの性被害などに関する相談窓口を案内しています 21。
- 違法・有害情報相談センター: インターネット上の誹謗中傷や、法律に違反する情報、有害な情報に関して、一般の方からの相談を受け付け、具体的な削除の依頼方法などをアドバイスしています 21。
- 法務省・検察庁: 犯罪被害に遭われた方やご遺族に対して、刑事手続きの流れや、被害者やご遺族ができること、受けられるサポートなどについて情報提供や相談対応を行っています。検察庁には被害者支援員がいて、被害者の方からの相談に応じたり、事件の処分結果を知らせるなどのサポートを行っています 22。
これらのサポート体制は、被害者の方が事件による心の傷から回復し、元の生活を取り戻す上で大切な役割を果たします。加害者側も、これらの支援機関の存在を理解し、被害者の方の気持ちに配慮した対応を心がけることが、心からの反省を示すことにつながります。
まとめ:盗撮事件の示談を成功させるために
盗撮事件における示談は、盗撮をしてしまった人(加害者)にとっては前科を避けたり、刑罰を軽くしたりする可能性を最大限に高め、被害者の方にとっては心の傷に対する償いとプライバシーの保護を実現するための、とても大切なプロセスです。この示談を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
事件が起きてしまったら、何よりも大切なのは、すぐに弁護士に相談し、示談の話し合いを始めることです。示談は、事件を早く解決し、刑事処分に良い影響を与える「万能薬」のような側面を持っています。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、事件が起きてから時間が経つ前に、できるだけ早く行動を起こすことが欠かせません 。早く対応することは、加害者が反省している気持ちを強く示すことにもつながります 。
また、示談交渉では、被害者の方の気持ちに深く配慮し、心からの謝罪と誠実な対応を心がけることが何よりも重要です 。示談金は償いの一部に過ぎず、被害者の方が本当に求めているのは、加害者の心からの反省と、「二度と過ちを繰り返しません」という強い決意です 。弁護士を介して、被害者の方のプライバシーを尊重し、冷静に、そして丁寧な交渉を進めることが、スムーズな示談成立への道を開きます。
示談が成立し、刑事処分が軽くなったとしても、それで全てが終わるわけではありません。加害者には、自分の行為を深く見つめ直し、二度と過ちを繰り返さないための具体的な努力を続ける責任があります。専門機関でのカウンセリングや治療を受ける、生活習慣を見直すなど、具体的な行動を通じて、二度とこのような過ちを繰り返さないという強い誓いを立て、実行することが求められます。
盗撮事件の示談は、単なる法律的な手続きではなく、加害者が自分の過ちと向き合い、被害者の方の苦しみを理解し、社会に再び貢献するための第一歩です。弁護士の専門的なサポートを受けながら、心からの態度でこのプロセスに臨むことが、加害者自身の未来を守り、被害者の方の心の回復につながる最も確かな道と言えるでしょう。

この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。
