夫を死亡事故で失ったご遺族|逸失利益を適正に算定し約6800万円で解決
約4200万円→約6800万円
広島県東広島市の50代女性が、夫の死亡事故について逸失利益と慰謝料を裁判基準で算定し直し、約4200万円の提示から約68…
50代女性/広島県東広島市
事例を読むcolumn
弁護士コラム
事故のケガで病院に行ったとき、受付でこう言われた経験はないでしょうか。
「交通事故ですと、健康保険は使えないんですよ」
この一言をそのまま信じて、自由診療のまま治療を続けている人が今も少なくありません。しかし結論からいえば、交通事故のケガでも健康保険は使えます。使えないという説明は、制度上の根拠があるものではなく、多くの場合は病院側の事情や誤解によるものです。
この記事では、健康保険が使える根拠、それでも使えないと言われてしまう理由、健康保険を使うべき場面と使えない場面、そして実際に使うための届出の手続きを順番に説明します。治療費の負担を減らし、最終的に受け取る賠償額を守るための知識として読んでみてください。
弁護士に相談することで、解決への道筋が見えてきます。
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健康保険は、業務外の病気やケガを幅広く保障する制度で、ケガの原因が他人の行為であっても給付の対象から外れることはありません。この点について厚生労働省は、1968年に交通事故を含む第三者の行為によるケガも健康保険の給付対象であると通知しており、2011年にも改めて、医療機関に対して交通事故で健康保険が使えないという誤った案内をしないよう周知を求めています。
つまり、健康保険が使えるかどうかは病院が決めることではなく、制度として当然に使えるものです。病院の窓口で保険証を出し、保険診療で受診したいと伝えれば、原則として断られる理由はありません。
健康保険を使うと、治療費の7割を健康保険組合や市区町村などの保険者が負担し、被害者は3割を窓口で支払います。ここで疑問になるのが、他人が起こした事故の治療費を、なぜ健康保険が肩代わりするのかという点でしょう。
この7割分は、保険者が立て替えているだけです。保険者は後日、加害者やその保険会社に対して立て替えた分を請求します。これを求償といい、被害者が本来持っている損害賠償請求権のうち治療費に相当する部分を、保険者が引き継ぐ形になります。被害者が窓口で払った3割分も、加害者側に請求できる損害です。
したがって健康保険を使ったからといって、加害者の責任が軽くなるわけでも、被害者が損をするわけでもありません。負担の流れが変わるだけです。
制度上は問題ないのに、なぜ現場では使えないという説明がなくならないのでしょうか。主な理由は3つあります。
1つ目は、病院にとって自由診療のほうが収入が多くなることです。保険診療の報酬は1点10円と決まっていますが、自由診療では病院が単価を自由に設定でき、交通事故では1点20円から30円で計算する病院が多くあります。同じ治療でも自由診療なら2〜3倍の収入になるため、積極的に健康保険を案内しない病院があるのは事実です。
2つ目は、事務手続きの手間です。交通事故で健康保険を使うと、病院は保険者からの照会に対応したり、診療報酬の請求方法を通常と分けたりする必要があります。この負担を避けたいという理由で、慣習的に自由診療を勧めている医療機関も見られます。
3つ目は、単純な誤解です。かつては交通事故には健康保険を使わないという運用が広く行われていた時期があり、その名残で受付担当者が古い知識のまま案内しているケースがあります。2011年の通知は、まさにこうした誤解を正すために出されたものです。
このほか、相手方の保険会社から、治療費はこちらで病院に直接払うので健康保険は不要ですと案内されることもあります。これは病院の事情とは別の話で、保険会社の支払いと健康保険の利用は両立します。保険会社が直接払いをしている場合でも、被害者が希望すれば健康保険に切り替えることは可能です。
いずれの理由も、被害者側が健康保険を使うことを妨げる法的な根拠にはなりません。
健康保険を使うかどうかは被害者が選べます。そのうえで、使ったほうが明らかに有利になる場面がいくつかあります。
このうち、とくに影響が大きいのが過失割合がある場合です。次の章で仕組みを説明します。
自分にも過失がある事故では、治療費を含めた損害額の全体から、自分の過失分が差し引かれます。このとき治療費の総額が大きいほど、差し引かれる額も大きくなります。
自由診療で治療費が150万円かかり、慰謝料などその他の損害が100万円、自分の過失が3割だった場合を考えてみましょう。損害額の合計250万円から3割を引いた175万円が、相手に請求できる上限です。ところが治療費150万円はすでに相手の保険会社が病院に支払っているため、そこから差し引くと、手元に残るのは25万円しかありません。
同じケガを健康保険で治療した場合、保険診療の単価が下がるため、治療費の総額は仮に60万円程度に収まります。損害額の合計は160万円、3割を引いて112万円です。健康保険が立て替えた42万円分は保険者が別途相手側に請求するため、本人が受け取れるのはおおむね70万円前後となり、窓口で支払った18万円を差し引いても50万円ほどが手元に残る計算になります。自由診療の場合の25万円と比べると、2倍の差です。
治療費の総額を圧縮することが、そのまま受け取る賠償額を守ることにつながる。これが、過失割合がある事故で健康保険を使うべきといわれる理由です。
もうひとつ、相手の自賠責保険から支払われる金額には傷害部分で120万円という上限があります。自由診療で治療費がかさむと、この枠が治療費だけで埋まり、慰謝料や休業損害に回る分が残らなくなります。健康保険で治療費を抑えれば、その分だけ枠に余裕が生まれます。
反対に、健康保険を使えないケースや、使うと不利になるケースもあります。
業務中や通勤中の事故は、健康保険ではなく労災保険を使うことになります。労災保険は自己負担がなく、休業補償の面でも手厚いため、該当する場合は勤務先を通じて労災の手続きを進めてください。労災の対象なのに健康保険を使ってしまうと、後から切り替えの手続きが必要になります。
交通事故で健康保険を使うには、加入している保険者に、他人の行為によってケガをしたことを届け出る必要があります。この届出が第三者行為による傷病届です。保険者が加害者側に求償するための情報を集める書類なので、健康保険を使う以上は必ず提出しなければなりません。
提出先は加入している保険の種類によって異なります。
届出には、事故の状況や相手方の情報を示す書類を添付します。保険者によって多少異なりますが、一般的に求められるのは次のとおりです。
様式は各保険者のウェブサイトからダウンロードできます。相手方の保険会社の担当者が記入に協力してくれる項目もあるので、書き方に迷ったら保険者と相手方保険会社の両方に確認しながら進めるとスムーズです。
書類を揃えるのには時間がかかります。届出が完了するまで受診できないわけではなく、病院の窓口では先に保険証を提示して保険診療を受け、届出は後日でも構いません。ただし保険者への連絡は早めに行い、届出を準備中であることを伝えておいてください。連絡がないまま時間が経つと、保険者から給付の可否について照会が来ることがあります。
病院で健康保険の使用を断られた場合、次の順番で対応してみてください。
まず、交通事故でも健康保険が使えることを国が通知で示している旨を伝え、改めて保険診療を求めます。受付担当者の知識不足が原因であれば、この段階で解決することが多いです。
それでも応じない場合は、加入している保険者に連絡し、病院に対して説明してもらえないか相談します。保険者には健康保険が適正に使われるよう対応する立場があるため、間に入ってくれることがあります。
最終的に病院が方針を変えない場合は、健康保険を使える別の病院に転院するのが現実的です。治療の継続性を保つため、紹介状を書いてもらい、これまでの検査結果や診療記録を引き継いでもらってください。
なお、すでに自由診療で受診した分を後から健康保険に切り替えることは、病院が同意すれば同じ月のうちは可能な場合があります。月をまたいでしまった分については、いったん全額を支払ったうえで保険者に療養費の支給を申請し、7割分の払い戻しを受けられる可能性がありますが、認められるかどうかは保険者の判断によります。
健康保険を使って治療を進めるうえで、後々トラブルになりやすいのが示談との関係です。
保険者は加害者側に立て替え分を請求する権利を持っていますが、被害者が加害者との間で治療費の請求を放棄する内容の示談をしてしまうと、保険者が求償できなくなります。この場合、保険者はすでに給付した7割分を被害者本人に返還するよう求めることがあります。念書や同意書に示談前の報告を約束する項目が入っているのは、この事態を防ぐためです。示談の前には必ず保険者に連絡してください。
また、整骨院や接骨院での施術は、健康保険が使える範囲が限られています。医師の指示や同意のない施術、慢性的な症状に対する施術は保険の対象外になることがあるため、通院先を選ぶ際は事前に確認しておきましょう。
さらに、健康保険には高額療養費の制度があります。入院や手術でひと月の自己負担が上限額を超えた場合、超えた分は後から払い戻されるか、限度額適用認定証を提示することで窓口負担そのものを抑えられます。重傷で治療費がかさむ場合ほど、自由診療との差は大きくなります。
治療費の領収書と診療明細書は、健康保険を使った場合も必ず保管してください。窓口で支払った3割分は加害者側に請求できる損害であり、その証明に必要になります。
交通事故のケガでも健康保険は使えます。使えないという案内は病院側の事情や誤解によるもので、制度上の根拠はありません。とくに自分にも過失がある事故や、相手が任意保険に入っていない事故では、健康保険を使うかどうかで最終的に受け取る金額が大きく変わります。
使うためには、加入している保険者に第三者行為による傷病届と添付書類を提出することが必要です。届出は受診の後でも構いませんが、保険者への連絡は早めに行い、示談の前には必ず報告してください。
治療をどの保険で受けるかは被害者が選べます。言われるがままに自由診療を続けるのではなく、自分の状況に照らして有利な選択をしてください。
この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
広島弁護士会所属/弁護士登録番号 第57063号
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。
平田弁護士について
おりづる法律事務所にお寄せいただいたご相談をもとに、交通事故の解決事例をご紹介します。