個人再生で家を残したい人がやってはいけないこと 申立て前の口座操作
個人再生で住宅ローン特則を使い、自宅を残したいというご相談は、債務整理のなかでもとくに件数が多い類型です。住宅ローン特則は持ち家を維持しながら他の借金を圧縮できる強力な制度ですが、申立て前の数か月間の動き方次第で、特則の適用そのものが危うくなることがあります。
なかでも見落とされやすいのが、預金口座まわりの動きです。預金通帳は申立て時に過去1〜2年分が裁判所へ提出されますので、自己流の口座操作はほぼすべて目に映ります。本記事では、家を残したいご相談者がとくに気をつけたい口座操作のNG行動と、安全に進めるための準備の順序を整理します。
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住宅ローン特則を使うための基本的な前提
最初に、住宅ローン特則を使うための要件を簡単に押さえておきます。住宅ローン特則(民事再生法196条以下)の適用を受けるには、おおむね次の条件を満たす必要があります。
- 対象不動産が本人の所有である
- 本人またはその家族が居住している、または将来居住予定である
- 床面積の2分の1以上が居住用である
- 住宅ローン以外の抵当権が設定されていない
- 住宅ローンの保証会社による代位弁済から6か月以内であること(すでに代位弁済が起きている場合)
この要件を満たしたうえで、再生計画案のなかで住宅ローン特則を定め、裁判所の認可を得ることで自宅を維持できる仕組みです。代位弁済が起きてしまっても、6か月以内に申立てを行い再生計画が認可されれば、巻き戻しの効果で代位弁済がなかったものとみなされます(民事再生法198条2項、204条)。逆に、6か月を過ぎると巻き戻しは効きませんので、住宅ローンの滞納が出始めている方は、いつ代位弁済の通知が届くかを意識しておく必要があります。
この前提のうえで、申立て前の口座操作がなぜ問題になるのかを順に見ていきます。
なぜ申立て前の口座操作が問題視されるのか
個人再生の申立て時には、過去1〜2年分の通帳のコピー(記帳済みのもの)を、保有しているすべての口座について提出します。再生委員や裁判所は、その入出金履歴を細かく確認します。
確認の主な視点は次のとおりです。
- 不自然な大口の出金がないか
- 家族や知人名義の口座への送金がないか
- 申告された家計収支と通帳の動きが整合しているか
- 特定の債権者にだけ送金していないか
- 給与・賞与の入金履歴と申告内容が一致しているか
ここで不自然な動きが見つかると、清算価値の見直しや、偏頗弁済とみなされた額の清算価値への上乗せが入ります。悪質と判断されれば再生計画案そのものが不認可になり、最悪の場合は自己破産への切替を余儀なくされて、家を失う結果につながります。
東京高裁の平成22年10月22日決定では、申立て直前に共済を解約して一部債権者へ弁済した事案で、その金額を清算価値に加算しなかったとして再生手続が廃止されています。裁判所が口座の動きをどこまで真剣に見ているかが伝わる例です。
家を残したいというご希望が強い方ほど、申立て前の数か月間の口座の動きは清潔に保つことが、結果的に近道になります。
やってはいけないこと① 駆け込みの預金移動
申立てが視野に入った段階で、預金を別名義の口座やタンス預金に移してしまうケースです。
- 自分名義の預金を、配偶者やお子様、親名義の口座に振り替える
- ATMから現金で引き出してタンス預金として保管する
- ネット銀行や暗号資産口座にまとめて送る
- 家族カードを使って家族名義の口座へ実質的に移す
こうした動きはすべて、過去1〜2年分の通帳と家計収支表の整合性を見れば判明します。移動先がご家族名義の場合でも、家族の口座まで照会される場合がありますし、現金化したお金の使途を家計簿で説明できなければ、結局その金額が清算価値に上乗せされます。
タンス預金については、裁判所が現物を確認するわけではないものの、出金履歴と家計支出が整合していなければ、その差額は手元現金として清算価値に計上されるのが実務の運用です。隠したつもりでも、結果的に隠していないのと同じ扱いになる、というのが現場の実態になります。家計を圧迫しないために節約してきた手元現金まで含めて、申告は正直に行うのが結局のところいちばん損が少ない選択です。
やってはいけないこと② 住宅ローン口座での残高調整
家を残したい方にとって、もっとも注意していただきたいのがこのパターンです。
住宅ローンを組んでいる銀行と、その同じ銀行のカードローンや銀行系クレジットカードを利用している場合、受任通知の発送後にその銀行の口座が凍結されることがあります。銀行は預金と借金を相殺できる権利を持っているため、預金残高をカードローンの残債と相殺してしまうのです。
問題は、相殺の対象になる口座が、住宅ローンの引き落とし口座と同じになっているケースです。
- 給与振込口座と住宅ローン引き落とし口座とカードローン契約が、すべて同じ銀行になっている
- 受任通知発送後に口座が凍結され、残高が相殺で消えてしまう
- 住宅ローンの引き落としができず、滞納扱いになる
- 滞納が長期化すると期限の利益を喪失し、代位弁済が発生して6か月の巻き戻し期限を意識せざるを得なくなる
このパターンを避けるための準備は、申立て前にしておく必要があります。具体的な対応としては、次のような方法があります。
- 住宅ローン引き落とし口座を、借入のない別の銀行に移管する
- 給与振込口座も別銀行に切り替える
- 住宅ローン特則を使う旨を弁護士から銀行に事前通知し、特定の引き落としだけは継続してもらう交渉を試みる
受任通知の発送タイミングと、住宅ローンの引き落とし日との関係も、現場では細かく調整します。家を残したい場合は、口座の構造そのものを早めに整えておくことが、特則適用を確実にするための第一歩になります。
やってはいけないこと③ 申立て直前の偏頗弁済
申立て直前に、特定の債権者だけに優先返済する行為も避けるべきです。家を残したい方の文脈で起きやすいのは、次のパターンです。
- 親族や友人から借りていたお金だけを完済する
- 連帯保証人がついている借金だけを多めに返す
- 住宅ローンを通常より多めに前納する
- いつもお世話になっている取引先や個人業者にだけ払う
住宅ローンを多めに前納するのは、家を残したいという気持ちから出てくる行動ですが、これも偏頗弁済の一種として問題視されることがあります。住宅ローン特則は、これまでどおりの返済スケジュールを維持することを前提にしている制度なので、駆け込み的な前納はかえって申立て時の説明を難しくします。
偏頗弁済が判明すると、支払った金額が清算価値に加算され、結果として再生計画での返済総額が増えます。家を残せたとしても、毎月の返済額が当初の見込みより大きくなり、履行可能性が苦しくなるという二次的な影響が出ます。家を残すための行動が、家を残したあとの生活を圧迫してしまうという皮肉な結果になりかねません。
安全に進めるための準備の順序
家を残したいというご希望を確実に叶えるためには、申立て前の準備を順序立てて進めることが大切です。現場でうまくいっている流れをまとめると、次のようになります。
- 早期にご相談に入り、借入先と口座の関係を一覧化する
- 住宅ローン引き落とし口座が借入先と同じ銀行になっている場合は、別銀行へ移管する
- 給与振込口座も借入先と切り離す
- 通帳と記帳済みデータは捨てずに保存しておく(過去2年分が必要)
- 申立て直前の特別な支出や送金は控え、家計を平常運転にする
- 不安な動きがあれば、すべて弁護士に共有してから動く
通帳を捨ててしまった、ネット銀行で記帳データが取れない、というケースは現場でしばしば起こります。すべての銀行に2年分の取引履歴を発行依頼すれば対応はできますが、手数料と時間がかかるため、ご相談に入った段階で過去分の保存を意識しておくと申立てがスムーズに進みます。
まとめ:家を残すための鍵は口座の透明性
個人再生で家を残すうえで重要なのは、住宅ローン特則の要件を満たすことと、申立て前後の動きが透明であることの2点です。
- 口座をまたいだ預金移動や現金化は、ほぼ確実に発覚する
- 同一銀行の住宅ローン口座と借金は、相殺リスクで自宅を失う引き金にもなり得る
- 申立て直前の偏頗弁済は、家計を圧迫する形で跳ね返る
家を守りたいという気持ちが強いほど、自己流で動きたくなる場面が増えるものです。しかし、家を残せる手続きの設計図は、口座を綺麗な状態にしたうえで弁護士と一緒に組み立てるのがいちばん確実です。預金口座まわりで迷うことがあれば、動く前に必ず弁護士に確認してください。
この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。