個人再生中の転職・引越し・結婚はOK? 許される運用とNGラインを解説【弁護士お悩み相談室】
個人再生は申立てから返済完了まで3年から5年という長い時間がかかる手続きです。その間に転職や引越し、結婚といったライフイベントが訪れることは、決して珍しくありません。ご相談の場でも、これは進めても大丈夫ですか、申告しないといけないですかというお問い合わせは多くいただきます。
結論から言えば、個人再生中であってもライフイベントそのものが法的に制限されることはほぼありません。ただし、再生計画の前提を崩してしまう変化は不認可リスクにつながりますし、申立代理人との連携を怠ると、後で取り返しがつかなくなることもあります。今回は、転職・引越し・結婚の3つを中心に、許される運用と気をつけたいNGラインを整理します。
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大前提:個人再生中のライフイベントは原則自由
最初に押さえておきたいのは、個人再生中の生活には、自己破産のような厳しい制約がほぼないということです。
自己破産には破産法37条という規定があり、破産手続中に居住地を変更する場合には裁判所の許可が必要になります。これに対して個人再生には居住制限の規定がありません。引越しも転職も結婚も、本人の判断で自由に進められるというのが大枠のルールです。
ただし、本人の判断で自由とはいっても、再生計画は現在の収入と支出の前提のもとで組み立てられています。前提を大きく変える出来事があれば、計画の認可や遂行可能性に影響します。具体的には次の2つの軸で考えるとわかりやすいです。
- 月々の収入や支出が大きく変わるか
- 連絡先や生活基盤が変わって、裁判所・債権者との連絡に支障が出るか
このどちらかに該当する変化があるときは、自己判断せずに必ず申立代理人に共有するというのが鉄則です。事後の報告でも対応できる範囲は広いですが、事前に相談しておけばリスクをほぼゼロにできます。
転職はできるが、収入の変化が論点になる
個人再生中の転職そのものは、法的に何の制限もありません。職業選択の自由は憲法で保障された権利で、再生手続中もこれは変わりません。
問題になるのは収入の変化です。次のようなパターンは、再生計画への影響が大きくなります。
- 給与水準が下がる転職
- 試用期間中の手取りが大きく減る
- 退職と入社の間に無職期間が空く
- 安定した月給制から歩合・成果報酬制への変更
とくに注意したいのが、給与所得者等再生という再生手続きを選んでいる場合です。給与所得者等再生は、定期的な収入があり、かつ収入の変動幅が少ないことが認可の要件になっています(民事再生法239条5項)。転職によって収入が不安定になると、給与所得者等再生のままでは手続きを進められず、小規模個人再生への切替を検討せざるを得なくなることがあります。
逆に、収入が同水準か増える転職であれば、基本的に問題ありません。新しい給与明細を提出していただき、家計収支表を更新する程度の対応で済むことが大半です。
転職を予定されているなら、申立て前に弁護士に伝えるのが理想です。転職時期と申立て時期の調整によって、収入の安定性を見せやすくしたり、必要書類を揃えるタイミングを最適化できたりします。やむを得ない事情で手続き中に転職になる場合も、決まった段階ですぐに代理人へ共有することで、家計収支表の更新や履行テスト額の再設定など、必要な手当てができます。
引越しは可能、ただし3つの注意点がある
個人再生中の引越しも、法的な制限はありません。先ほど触れたように、自己破産と違って居住地変更の許可は不要です。
ただし、現場で気をつけていただきたい点が3つあります。
ひとつめは、住宅ローン特則を使っているケースです。住宅ローン特則は持ち家を維持しながら他の借金を圧縮する制度なので、その家に住み続けていることが前提になっています。手続き中に引越して家を空き家にしたり、賃貸に出したりすると、特則の適用そのものが見直される可能性があります。転勤などやむを得ない事情がある場合は、必ず申立代理人と金融機関の双方に相談してください。
ふたつめは、賃貸物件への引越しの審査です。個人再生中は信用情報に事故情報が登録されていますので、信販系の家賃保証会社を使う物件では審査で落ちることがあります。次のような選択肢を組み合わせると借りやすくなります。
- 信販系以外の保証会社を使う物件を選ぶ
- 連帯保証人だけで契約できる物件を選ぶ
- UR都市機構の物件を検討する
- 家族名義で契約してもらう
みっつめは、引越し費用の家計への影響です。敷金・礼金・引越し業者の費用などで数十万円が動くことになりますので、再生計画案の家計収支表に反映する必要があります。手続き中に予定外の大きな支出があると、履行可能性を疑われる材料になりかねませんので、可能であれば申立て前に整理しておくか、必要性を客観的に説明できるよう準備しておきます。
結婚に法的な障害はないが、お相手への共有は早めに
結婚も、個人再生中に自由に進められるライフイベントです。婚姻届の提出にも、戸籍の変更にも、個人再生は何の影響も及ぼしません。
ご相談で多いのが、結婚相手に伝える必要があるかというお悩みです。法的には伝える義務はありません。戸籍にも個人再生の事実は記載されませんし、配偶者の信用情報にも何も載りません。
それでも、結婚を前にご相談に来られる方には、可能であれば事前にお伝えされることをおすすめしています。理由は次のとおりです。
- 個人再生中はクレジットカードが作れず、家族カードの発行も制限される
- 5〜7年は新規ローンや住宅ローンの審査が通らない
- 共同名義での契約や保証契約に制約が出る
- 大きな買い物の支払い方法に影響が出る
これらは結婚後の生活設計に直結する事柄なので、隠したまま結婚しても遅かれ早かれ顕在化します。お相手のご家族に話す必要までは原則としてありませんが、お相手本人とは事前に共有しておくほうが、後の関係性のためにも望ましいというのが現場での実感です。
なお、結婚した配偶者の収入や財産は、個人再生の手続きに直接組み込まれることはありません。再生債務者の財産と配偶者の財産は別個に扱われるのが原則で、配偶者名義の預金や不動産が清算価値に算入されることもありません。配偶者を保証人にする契約を新たに結ぶようなことだけは避ければ、結婚そのものが手続きの障害になることはほぼないと考えていただいて差し支えありません。
その他のライフイベントへの対応
転職・引越し・結婚以外にも、3〜5年の手続き期間中にはさまざまなライフイベントが起こり得ます。代表的なものへの対応を整理します。
- 出産・育児休業:収入が一時的に減るため、再生計画の見直しが必要になることがあります。出産育児一時金や育児休業給付金などの公的給付は、収入として家計に組み込めます
- 離婚:財産分与や慰謝料の発生があれば、清算価値や家計収支に影響します。婚姻費用や養育費の支払義務は非免責債権として扱われ、手続後も残ります
- 介護による収入減:勤務時間短縮や離職が必要な場合は、計画の遂行可能性が問題になります。早めに代理人へ共有してください
- 相続の発生:相続財産が清算価値に算入される可能性があります。手続中に相続が発生したら、速やかに代理人に共有してください
- 副業の開始:収入として家計収支表に計上する必要があります。隠していると後で発覚した際に大きな問題になります
いずれのライフイベントも、それ自体を禁止する制度ではありません。共通するNGラインは、変化があったのに代理人や裁判所へ報告しないこと、そして変化を踏まえずに無理な再生計画のまま走り続けることです。
ライフイベントが起きたら、まず代理人に状況を共有することで、再生計画の修正や報告書類の追加など、必要な対応を整理できます。
まとめ:自由を活かすために報告を怠らない
個人再生中の転職・引越し・結婚は、いずれも法的には自由です。自己破産と違って居住制限もなく、再生債務者が日常生活で受ける制約は、信用情報に絡む金融取引の部分にほぼ限られます。
ただし、自由であることと、自己判断で進めてよいことはイコールではありません。
- 収入や支出を大きく変える変化は、再生計画の前提を揺らす
- 連絡先や生活基盤の変化は、裁判所との関係に直結する
- 申告すべき変化を黙っていると、不認可や手続き廃止のリスクがある
これらを避けるためのいちばんシンプルな方法は、生活上の大きな変化があったら、その都度申立代理人に共有することです。報告のハードルを下げておけば、ライフイベントは再生手続きの障害にならず、新しい生活に向けた前向きな一歩として進められます。
この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。