個人事業主の休業損害を立証|確定申告と帳簿から約320万円を認めさせる
休業損害 約90万円→休業損害 約320万円
広島県呉市の40代自営業男性が、事故による休業損害について確定申告と帳簿で収入減と固定費を立証し、約90万円の認定から約…
40代男性/広島県呉市
事例を読むcolumn
弁護士コラム
朝の通勤途中に追突された。営業先へ向かう途中で出会い頭にぶつかられた。こんなとき、ケガの治療費や休んだ分の給料はどこから出るのか、意外と知られていません。
会社からは労災で対応しますねと言われ、相手の保険会社からは自賠責と任意保険で対応しますと言われる。どっちの言うことを聞けばいいの、と混乱した経験がある人も多いはずです。
実はこの2つ、どちらか一方を選ぶものではありません。両方を使いながら、項目ごとに有利なほうを組み合わせるのが正解です。この記事では、労災と自賠責それぞれの得意分野と苦手分野を整理しつつ、治療費・休業補償・慰謝料をどこから受け取るのが一番損をしないのかを、できるだけ噛み砕いて説明していきます。
弁護士に相談することで、解決への道筋が見えてきます。
目次 [閉じる]
労災保険は、仕事が原因のケガと、通勤が原因のケガの両方をカバーしています。ただし、この2つは制度上の呼び名が違い、細かな条件も少し異なります。
たとえば配送業務中の事故や、取引先へ車で向かう途中の事故は業務災害です。いつもの道を使って車や自転車で出勤・退勤しているときの事故は通勤災害になります。
通勤災害でよく問題になるのが、寄り道です。帰り道に友人と飲みに行き、その帰りに事故に遭ったというケースでは、通勤の経路から外れたと判断されて労災が使えないことがあります。
ただし、日常生活に必要な行為であれば例外です。スーパーで夕食の買い物をする、子どもを保育園に迎えに行く、病院に立ち寄るといった用事は、そのあと通常の経路に戻ってからの事故であれば、通勤災害として認められます。寄り道の最中そのものは対象外ですが、経路に戻れば復活するイメージです。
ちなみに、昼休みに会社の外へ食事に出た帰りの事故は、原則として業務災害にも通勤災害にも当たりません。一方、出張先への移動中や、会社の指示で複数の現場を回っている最中の事故は業務災害です。どちらに当たるか迷うケースは、勤務先や労働基準監督署に確認してみてください。
マイカー通勤を会社に届け出ていなくても、いつもの経路を合理的な方法で移動していたなら通勤災害として扱われます。届出の有無は、労災の認定には直接関係ありません。
両方を組み合わせて使うためには、まずそれぞれの守備範囲を知っておく必要があります。
労災の大きな特徴は、治療費に上限がなく、必要な治療が終わるまで支給が続くことです。相手側の保険会社から治療費の支払いを終わらせたいと言われても、労災の給付はそれとは無関係に、医師が治療を必要と判断する限り続きます。
こちらは加害者が被害者に支払う損害賠償を、保険が肩代わりしている形です。労災にはない慰謝料と物の損害が含まれているのがポイントで、精神的な苦痛や壊れた車の補償は、こちらからしか受け取れません。
一方で、自賠責の傷害部分には120万円という上限があり、任意保険の支払いは被害者の過失割合に応じて減額されます。
治療費と休業補償については、労災を使ったほうが被害者にとって有利になることがほとんどです。理由は3つあります。
自賠責や任意保険からの支払いは、被害者にも過失があれば減額されます。ところが労災には過失相殺という考え方が基本的にありません。信号無視や飲酒運転のような重大な過失がなければ、自分に3割や4割の過失があっても、治療費は全額、休業補償は所定の割合で支給されます。
過失割合を争っているあいだも、労災を使っておけば治療費の心配をせずに済みます。
相手の保険会社が治療費を支払っている場合、一定期間が経つと、そろそろ終わりにしませんかという打診が来るのが通例です。労災にはこの仕組みがありません。労災指定の病院で受診していれば、窓口で支払いをすることなく、必要な期間の治療を続けられます。
これが労災を使う一番のメリットかもしれません。休業補償の60%部分は、相手の保険会社からの休業損害と重複するため調整されます。つまり労災から60%を受け取れば、相手側からは残りの40%しか受け取れません。
ところが、20%の休業特別支給金は損害の穴埋めではなく、労働者の福祉のために支給されるお金という位置づけです。そのため相手側からの賠償とは調整されず、まるまる上乗せで受け取れます。結果として、労災を使った人は休業分について120%を受け取れる計算になります。労災を使わなければ、この20%は受け取れません。
数字で見てみましょう。給付基礎日額が1万円の人が、待期期間を除いて100日休んだとします。労災からは休業補償60万円と特別支給金20万円、相手側からは残りの40%にあたる40万円が支払われ、合計120万円です。労災を使わずに相手側だけに請求した場合は100万円ですから、20万円の差がつきます。休業が長引くほど、この差は大きくなっていきます。
ここまでの話を踏まえて、何をどこから受け取るのが正解なのかを項目ごとにまとめます。
治療費を労災に回すことで自賠責の枠が丸ごと残るため、そこから慰謝料や休業損害の残り分を受け取りやすくなる、というのがこの組み合わせの狙いです。
なお、労災と自賠責のどちらを先に使うかについて、国は自賠責を先に使うことを原則としつつ、被害者本人が選べるとしています。先に労災を使うことはまったく問題ありません。会社や保険会社に自賠責を先に使ってくださいと言われても、労災を選ぶ権利は本人にあります。
労災が有利な場面が多いとはいえ、例外もあります。
ひとつは、自分に過失がまったくなく、ケガも軽くて短期間で治りそうな場合です。相手の保険会社が治療費を全額払ってくれて、自賠責の枠内で収まる見込みなら、労災の手続きをする手間のほうが大きくなることがあります。
もうひとつは、当面のお金を早く受け取りたい場合です。自賠責には仮渡金という仕組みがあり、ケガの程度に応じて5万円から40万円を、示談を待たずに先に受け取ることができます。労災の休業補償は申請から支給までに1か月以上かかることが多いので、すぐに現金が必要なら自賠責の仮渡金を先に使う選択肢があります。
ただし、こうしたケースでも、治療が長引きそうだと感じた時点で労災に切り替えることは可能です。最初にどちらを選んだかで固定されるわけではありません。
労災を使うには、病院への書類提出と、労働基準監督署への届出が必要です。
労災指定の病院で受診する場合は、療養補償給付の請求書を病院の窓口に提出します。業務災害は様式第5号、通勤災害は様式第16号の3という書類で、勤務先に証明欄を記入してもらってから病院に出します。これで窓口での支払いがなくなります。
指定病院以外で受診した場合は、いったん治療費を全額立て替え、後から労働基準監督署に請求して払い戻しを受けます。この場合の書類は業務災害が様式第7号、通勤災害が様式第16号の5です。手間が増えるので、可能なら最初から労災指定病院を選ぶと楽です。
交通事故のように相手がいる労災では、第三者行為災害届を労働基準監督署に提出します。事故の状況、相手の連絡先、相手が加入している保険の情報などを記入し、交通事故証明書と念書を添えます。
念書には、相手と示談する前に労働基準監督署に報告することや、受け取った賠償金を申告することが約束事として書かれています。労災は支給した分を後から相手側に請求する仕組みになっているため、被害者が勝手に示談を済ませてしまうと、この請求ができなくなってしまうからです。
休業補償は、業務災害なら様式第8号、通勤災害なら様式第16号の6で請求します。医師の証明と勤務先の証明が必要で、休業期間ごとにまとめて請求するのが一般的です。
労災の申請を会社に相談したら、いい顔をされなかったという話は珍しくありません。労災を使うと保険料が上がる、監督署の調査が入るのが面倒、という理由で、健康保険や相手の保険だけで済ませてほしいと言われることがあります。
しかし、労災に該当する事故を届け出ないことは労災隠しと呼ばれ、法律で禁止されています。通勤災害については、そもそも会社の保険料に影響しません。会社が証明欄への記入を拒む場合でも、その旨を書き添えて労働基準監督署に直接提出すれば、手続きは進められます。
労災の申請は本来、会社を通さなくても本人が直接行えるものです。会社の協力が得られなくても諦める必要はなく、労働基準監督署の窓口で事情を話せば、必要な書類の書き方まで案内してもらえます。
労災を使うかどうかを決めるのは、会社ではなく被害者本人です。遠慮して使わずに済ませると、特別支給金の20%や打ち切りのない治療といったメリットをすべて手放すことになります。
最後に、労災と自賠責を併用するうえでの注意点をまとめておきます。
とくに示談のタイミングは要注意です。労災の給付を受けている最中に、相手の保険会社から示談を提案されることがありますが、労働基準監督署への報告を済ませてからでないと、後で給付の返還を求められることがあります。
通勤中や仕事中の交通事故では、労災と自賠責のどちらか一方を選ぶのではなく、両方を使い分けるのが正解です。治療費と休業補償は労災から、慰謝料と物の損害は相手側の保険から、というのが基本の組み合わせになります。
労災は過失割合の影響を受けず、治療費の打ち切りもなく、特別支給金の20%は相手側の賠償と重複せずに受け取れます。会社に遠慮して使わずにいると、これらを丸ごと失うことになります。
労災を使うかどうかを決めるのは本人です。手続きの書類は多めですが、労働基準監督署に相談すれば書き方も教えてもらえます。ケガをした直後の段階で、まず労災を使えるかどうかを確認するところから始めてみてください。
この記事を監修した弁護士
代表弁護士 平田裕也(ひらた ゆうや)
広島弁護士会所属/弁護士登録番号 第57063号
所属弁護士が150名程度いる大手法律事務所にて、約2年間にわたり支店長を務め、現在に至る。 大手法律事務所所属時代には、主として不貞慰謝料請求、債務整理及び交通事故の分野に関して,通算1000件を超える面談を行い、さまざまな悩みを抱えられている方々を法的にサポート。 その他弁護士業務以外にも、株式会社の取締役を務めるなど、自ら会社経営に携わっているため、企業法務及び労働問題(企業側)にも精通している。
平田弁護士について
おりづる法律事務所にお寄せいただいたご相談をもとに、交通事故の解決事例をご紹介します。
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